【浜矩子が斬る! 日本経済】「日本経済の潜在成長率は低すぎるのか?」 成熟国なら"巡行速度"2025年6月5日
気になる新聞見出しが目にとまった。「予算1.8倍、成長力は1/10に」(6月2日付日日本経済新聞朝刊)。このざっと30年の間に、日本政府の一般会計予算規模は60兆円台から110兆円に膨張した。この間に、日本経済の潜在成長率は3%台から0.3%まで落ち込んだというのである。出所が明記されていないので、精度にやや疑問が残るが、若干調査したところ、おおむね似たような数値が公表されているようだ。
エコノミスト 浜矩子氏
一国の潜在成長力とは、経済を成長させる諸要因を総動員していわば「出っ放し」状態にした時に、その国がどれだけの経済成長を無理なく実現出来るかを示す。需要の小ささに合わせて身を縮めたり、需要の大きさに合わせて背伸びをすることなく、自然体で実現出来る経済成長率。それが潜在成長率だ。需要の実態を無視して計測した一国経済の潜在力だと言ってもいい。この日本経済の潜在力が30年の間に1/10に縮み上がってしまったというのである。欧米先進国はおおむね1%台をキープしているという。
さて、このデータをどう読むか。潜在成長力の構成要素は、基本的に労働力人口・資本蓄積・技術進歩の三つである。日本は世界でも突出した少子高齢化国だから、労働力人口の面が弱いのは当然だ。だが、それだけでここまで経済の潜在力が低下するか。資本蓄積と技術進歩の面でも、低調な状況が続いて来たものと考えられる。それが問題という指摘には一理ある。
ただ、日本のような成熟経済大国の場合、今さら潜在成長率にこだわる必要がどこまであるのかという問題もありそうに思う。経済活動は人間を幸せに出来なければ、その名に値しない。この観点から考えた時、潜在成長率にどこまで意味があるか。潜在成長率が高いからと言って、そのことが必ず人々に幸福をもたらすと果たして言えるか。目覚ましい技術進歩の陰に隠れて、職を奪われたり体力を吸い取られたりする人々はいないだろうか。資本蓄積がどんどん進む一方で、労働分配率が置き去りにされるということはないのか。「産めよ増やせよ」の掛け声に危ういものは無いのか。考え込んでしまう。
確かに、これから全てが始まろうとしている幼い経済の場合には、その潜在力がどれほどのものであるかを把握することは重要だ。その上で、潜在成長率をどこまで高めれば、人々を幸せに出来るようになるかを見極める。そのために強化すべき成長要素は何か。何を優先すべきであるのか。これらのことを考えることこそ、発展途上国の経済政策を担う政策責任者たちの使命だ。
それもこれも、あくまでもその国の経済が人々に幸福をもたらせるようにするためだ。飢え死にする人はいない。幼児が健やかに育つことが出来る。医療や教育が十分に提供される。そのような人間らしい生活が万人に保障される経済実態を作り出す。そこを目指す時、潜在成長力の計測に極めて重要な意味がある。
これまでの全てを失ってしまった経済の場合も、また然りだ。焼け跡経済と化した戦後混乱期の日本が、まさにその状況下に置かれていた。人々が、再び人間らしく生きて行けるようにするには、潜在成長力の構成要素をどこまでどう強化する必要があるのか。何を急がなければならないのか。それらのことを見定めることが、差し迫った課題であった。
翻って今の状況を考えればどうか。今の日本はこれから全てが始まる生まれたての経済ではない。これまでの全てを失った焼け跡経済でもない。30年で潜在力が1/10になったと言われれば、確かにショック感はある。だが、ここまで育ち上がった日本経済にとって、今の潜在成長率がむしろ巡行速度なのかもしれない。そのことを踏まえて、今この時の経済風景の中で、いかに人々を幸せに出来るかを懸命に考える。そのような政策姿勢を、今日の政治と行政に期待したい。
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