(454)名前と番号【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月26日
名前はその人やモノの存在や個性を示すだけでなく、文化的・社会的な背景や意味などを示しています。名前を「呼ばれる」という行為は人間社会における他者とのつながりの第一歩です。
現代社会では名前の代わりに番号が多用されている。会社組織などでは管理上、名前だけでなく番号が併用されるのが一般的だ。学生は学籍番号、従業員はIDという形での社員番号、さらに近年ではマイナンバーである。
名前の代わりに統一的な番号(と文字の組み合わせ)を用いる最大のメリットは、対象を抽象化できる点だ。例えば、日本人の名前を苗字と名(下の名前)に分けて考えてみたい。
異体字などの数え方や読み方にもよるが、苗字だけでも10~30万程度は存在するようだ。これに恐らくは現在届けられている名だけでも数十万通りは存在するであろう。組み合わせは膨大である。
日本社会における苗字と名前の多さは、そのまま地域性や多様性を示している。実際、数十人や数百人単位しか存在しない珍しい苗字もある。現代社会における苗字はほぼ固定されており、婚姻やペンネーム・芸名などを使用する場合以外は余り変更されない。
これに対し、名にはバリエーションが多く時代の影響も受けやすい。名の自由度が高いことは、視点を変えると日本社会がまだ自由度を保っているという証でもある。
ところで、大学などで多くの学生を相手に出欠や成績を管理する場合、名前とともに学籍番号、つまり番号による管理が不可欠である。同姓同名の学生でも学籍番号が異なるケースは比較的多く目にする。また、番号管理を実施すると大量のデータの加工も容易になる。業務に関する検索可能性は名前よりも番号の方が数段優れている。
特定の名前を目にすると、どうしても個別学生の印象が思い浮かぶような場合でも、番号管理をすれば淡々と客観的な整理や評価ができる。さらに、番号による呼び出しが好ましい場合もある。とくに医療機関などでは患者のプライバシーの観点からは重要な配慮であろう。
ただし、この利点は匿名化、抽象化による個人の喪失と表裏一体というリスクを抱えている点を忘れてはならない。番号による管理が進展すると、個人は「誰」という存在から「ID・番号」というデータに置き換えられるからだ。教育においては、この点をとくに注意しておかなければならない。よって多くの教員は名前と番号を両方確認している。
ところで、生まれたばかりの子どもに名前を付ける際、親はいろいろなことを考える。決めた名前を届け出ることで一人一人の人生が始まる。名の決定により、赤子は一人の人格を持ち親との社会的つながりを開始する。そして時間とともに、家族から社会へと「関係性」が拡大する。
その子が大きくなり、一定の規模の組織に所属すると、そこで番号が割り振られる。一人一人異なっていたはずが、文字や数字という記号により「一意性」のもとに分類されるわけだ。
古代より、日本の文化の中では「名前を呼ばれる」ことには独特な意味が存在した。何十年も呼ばれていなくても、自分の幼い頃の呼ばれ方を突然聞いた時に身体が反応した経験は誰にでもあるはずだ。苗字で呼ばれるか、下の名前で呼ばれるかは「関係性」のレベルをよく示している。
これに対し、番号は「機能性」を重視する制度の象徴のようなものだ。デジタル化が進展する中で、人間らしさをどう保持していくかが問われている。私たちは社会全体から見れば覚えきれない16桁の数値データのひとつであると同時に、人格と名前を持った個々の人間でもある。この2つをいかに両立していくか、この問いは今後の社会の中では避けて通れないものである。
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