【米生産・流通最前線2016】28年産米需給引き締まり「深掘り」で主食用不足(下)2016年9月5日
米穀新聞記者熊野孝文
◆全体需給はタイトに
1年草であるコメはその年その年によって状況が大きく変化し、昨年の価格は全く参考にならないことが多いが、それ以上に28年産米は大きな波乱要素がある。その一つが需給ひっ迫の恐れである。
全米販が作成した資料によると28年産主食用米の生産状況は「作付面積は生産数量目標の743万t、面積換算140万haを下回り自主的取組参考値735万t、面積換算139万haに達する見込み」としている。この結果、来年6月末の民間在庫は179万tにまで減少すると見込んでいる。これまでの経験から民間在庫が180万tを下回ると需給がひっ迫して価格が上昇するため非常に気がかりな要素になっている。
これは飼料用米増産政策で主食用米から飼料用米やWCS等への転作が進み、2年連続して過剰作付が解消する見込みで、特筆すべきは長年減反に反対して来た秋田県の大潟村が28年産米で初めて減反を達成したことが上げられる。
大潟村の水田面積は8928haあり、このうち半分近い4047haが転作必要面積だが、28年産転作実施面積は前年産に比べ273ha(7%)増加して4164haとなり転作達成率は「102.9%」になった。大潟村は他の産地とは違い飼料用米への転作ではなく加工用米への転作だが、あきたこまちの一大産地である大潟村から主食用米の供給量が大幅に減少するという現象が起きることには違いがない。
こうした主食用米の供給量減少は農協系統の扱いにも大きな影響が出ている。
全農がまとめた28年産出荷契約数量(見込み)は、生産者からJAに上がって来た数量が339万2632tになっている。前年産出荷契約実績との比較では9万3900t、率にして2.7%減少している。このうちJAから連合会に委託された数量は全国合計で254万1910t、前年産との比較では13万7990t減少している。28年産米の自主的取組(いわゆる深堀)に協力した産地では平成30年を見据え、販売先に複数年契約を提案するなど、JAと販売先の結びつきを一層強化する取り組みを進めて来た。しかし、各JAから報告された28年産米連合会出荷契約数量が前年に比べ2万6270tと大幅に減少する見込みとなっていることから、現在、販売先に提案している事前契約数量の下方修正や販売先への提案自体を取りやめざるを得ない状況である。
このことは東日本大震災後の平成24年産米と同様の事態であり、JAの集荷減のほとんどが連合会委託米に皺寄せ(調整弁)されることとなり、わずか一年で2万6千tもの委託米の販売先を失うことになれば、JAグループへの信頼失墜と今後の系統販売戦略が機能しない危機的状況であるとの見方も出ている。
◆大企業と新米確保合戦も
こうした深堀達成産地が憂慮している事態は他にもある。
それはコメ業界に新規参入した大手企業がコメ生産者に直接「新米買取り」のチラシを配布したことである。そのチラシには「28年玄米買取のご案内」と題して(1)概算金を基準にして高値で買い取ります、(2)前渡し金制度があります、(3)紙袋・フレコンも扱っております-と記している。関東でも大手商社系列の肥料業者が新米の高値買取を生産者に打診、地元の農協や商系集荷業者との間で集荷合戦を繰り広げているが、さすがに前渡し金までは提示していない。資本力のある大手企業ならではの買い取り方式で農家庭先価格の高騰要因になりかねない。
9月初めには東北各県でも28年産の集荷概算金価格を提示する予定だが、まさに価格が高騰した「24年産米と同様」の事態が想定される環境が生まれつつある。
・【米生産流通最前線2016】28年産米需給引き締まり「深掘り」で主食用不足 (上) (下)
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