【米生産・流通最前線2017】木徳神糧(株) 三澤専務に聞く 29年産米の概算金と流通2017年9月22日
・実需・消費地に応えて消費の拡大を
・三澤正博・木徳神糧(株)取締役専務執行役員
29年産米の概算金が出揃った。農水省の作況指数(9月15日現在)もこの月末には発表される予定だが、本紙の電話調査(別掲)のように、今年の作柄についての傾向もほぼ見えてきたといっていい。そこで、米流通卸の大手である木徳神糧(株)の三澤正博取締役専務執行役員に、29年産米の状況とそこから見えてくる30年産米以降の米の生産・流通の課題を聞いた。
◆関東以北の作況は95と予測
29年産米の作況について三澤専務は、実際に全国の産地を見て回った状況からすると、全国平均では「平年並みはない」と見ている。具体的には、「九州は平年並み」だが、関東以北の状況は、「千葉や茨城でさえも、当初は平年並みだと思っていたが、いまは『平年並みにいくかな』という話をしている」。7月までは天気が良かったが、その後、関東や東北は長雨が続き「登熟が遅れたので昨年の数字まではいかない」と関係者はみているという。
実際に「栃木では刈り上げを始めたところ、昨年よりもくず米が多いといっているように、栃木以北は95前後というのが、多少の誤差はあっても実勢ではないか」と、各県の関係者はみているし、数量が落ちるとみているので、「集荷前の事前契約以上に契約数量を積み上げたという話は、いっさい聞いていない」とも。
そして、「登熟不良ということになれば、1等米比率は下がり、品質は落ちる」ことになると予測している。
◆外食・中食は量を減らすか外米へ
29年産米の概算金が東北各県も出揃い、昨年よりもほぼ1000円~1500円高くなっているが、三澤専務は、外食や中食が使っている「B銘柄については2000円近く上がっている米もある」。不作で「収量は取れないうえに、飼料用米にいくのでB銘柄の量が減り、A銘柄とB銘柄の価格差がほとんどない」状態になってきていると指摘する。
その結果「外食とか中食では(B銘柄の価格が上がり)使い切れない」というところも出てきて外米(輸入米)へのシフトしようという動きが具体化し、「(外米が)もっとないかという追加の話もきている」という。したがって、9月27日の「入札には2万5000tの枠があるが、全部に札が張り付くのではないかと言われ始めている」とも。
外食・中食では、人件費や物流費が上げっている上に、原料(米)コストが上がったからといってこのデフレ基調のなかで「商品(メニュー)価格は上げられない」。そうなると、安い外米へシフトするか、(米の)量を減らすことになる。
なかでも「1食当たりの予算が決まっている給食は苦しい」ので「米の量を減らし。小麦粉に移る」ことになる。また、仕送りやバイト代などで1か月に使える金額が決まっている大学生は、スマホなど通信費などは減らせないので「米価格が上がった分だけ、米を食べる回数を減らす」傾向にあると、大学生協にも米を入れている木徳神糧の三澤専務はいう。大学生に限らず食費に使う消費者の金額は増えていないので、「米価格が上がった分だけ米の消費を抑えたり、ダイエットも含めて、1か月まったく米を食べないという人もいる」という。こうしたことが続けば「国産米の消費量がますます減る」と危惧する。
(写真)三澤正博・木徳神糧(株)取締役専務執行役員
◆人為的な「不作」がミスマッチを誘導
なぜこうした現象が起きているのだろうか。
三澤専務は、天候による不作はどうしようもないこと」だとしたうえで「減反のし過ぎで、人為的に不作を作っている」からだという。
一つは、生産者が手取り収入を確保するために、制度で補償される飼料用米へシフトする気持ちは理解できるが、家庭内消費や国民1人当り消費量が減るなかで、外食・中食が米の消費を増やしているのに、彼らが「欲しいという米」が飼料用米に回され、「実需者への供給量が減らされ、いままで使っていたB銘柄に替えて、ひとめぼれなどのA銘柄を使いなさい」という話になっていることだ。
二つ目は、その「ひとめぼれなどのA銘柄を減らして、高価格帯の新銘柄を増やしている」ことだ。確かに魚沼コシヒカリを買う人はいるが、家庭用は1580円/5kgが定番で、それ以上の価格帯を買う人は消費者のごく一部だといえる。その一部の層を対象に集中的に新銘柄を出し「そこだけが戦国時代」になっている。
消費者にとって「選択肢が増えていいのではないか」という意見もあるかもしれないが、消費者が高価格帯の選択肢を望んでいるのかといえば「逆で、『ウチが買いたい価格の米をつくってよ』というのが本音だ」。「外食・中食など実需者も同じで、使いたい米を供給して欲しいと望んでいる」と指摘する。
こうした「人為的な不作によって、減反してなおかつ必要な中身が減っていくという二重構造になっているところに問題があるのではないか」。それは、米の生産・流通も他の農畜産物と同様に「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へというが、「その主旨には、沿っていない」。
「いま産地が価格を上げているのもプロダクトアウトで、産地の問題だ。実需者が使う米を減らし、欲しいというのに出さないのも産地側の問題で、消費地や実需者の問題ではない」と考えている。
そして、制度的に2月段階の「政府備蓄米」では「A銘柄は入れないので、外食にいっていた米がとられる。さらに6月の加工用米や飼料用米でまたB銘柄を押さえ"倉庫"に入れられるので、量はあっても主食用には出てこない」ことになるという問題もあるという。普通は「主食用に使うか確認して、残ったものが"倉庫"にいくのではないでしょうか? これが実需者の意見です」と付け加えた。
◆自ら国産米の消費を減らしているのでは
こうした結果「いままでは、魚沼コシから外食や中食・給食で使える幅広い米が市場で流通していたが、いまはB銘柄は削られ、逆に高価格帯が多くなり、一般の消費者や実需者の選択できる価格帯は狭まってきている」。米流通では「量だけがあればいい」のではなく、「必要な価格と量が必要」であり、業務用に新潟コシを出しても使えないし、魚沼コシが欲しい人に低価格帯の米があるといっても買わない。その逆もそういえる。いまはそういう「ミスマッチが起きている」と指摘した。
三澤専務も「農家は手取りのいい方を作りたいので、それを止めろとはいえません」としたうえで、あえてそれを是正せず、価格がさらに上がる可能性が出てくると「実需者から猛反発が出てくることが危惧される」し、「手を上げて欲しいという価格帯の米が供給されない現状を打破」しないと。生産者が「自ら国産米の消費を減らすことになる」と警鐘を鳴らしたいという。
◆子育て世代の消費を拡大する施策を
そして今後考えるべきこととして次のような点を指摘した。
一つは、今後は「実需を理解して作ってくれる産地とプロダクトアウト志向の産地との差が出てくる可能性は強く産地間競争が激しくなる」と予測する。
そして、「米しか作れない産地と他の作物に転換できる産地があり、米に依存する産地は、全面積をフル活用して米で収入を確保するためには、どうするかを考え始めています。米に依存する産地は消費されないと在庫することになりますからね」という。
そのためには「米の消費を拡大」する必要があり「私たち米流通に携わるものは、消費を増やさなければいけないと思っている」と。
いま一番抜けている消費拡大政策は、「量を一番食べる子育て世代」対策だ。「お金があっても年齢が高い層は量は食べない」からだ。国は産地にはさまざまな助成をしているが、消費拡大という面では不十分であり、産地もこうした「マーケットに合う施策を取って欲しいというのが、消費地側の要望」だという。
「何度もいうように産地が手取りが大きいのを作りたいというのは分かります。しかしそれがマーケットに反映できるかどうかは、難しい。消費者や実需者が欲しいものを減らしてまで、そうする必要があるんでしょうか?」。そのことを「もう少し考慮して生産誘導をしていただければ、消費そのものが減退することはないと思う」と、ミスマッチの是正を求めた。
とくに大規模生産者は「安定的な消費量がある実需をベースに複数銘柄を組み立てることで、水田のフル活用を考える方がよい」のではとも提案する。
そして「輸出を含めて消費を拡大し、せっかくある農地や水を有効活用して欲しい」。なぜなら「流通は消費拡大していかないと、成り立たないから」と結んだ。それは産地にとってもいえることではないだろうか。
【表】東北・関東・北陸の業務用米銘柄のJA概算金 (単位:60kg当たり円)
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