米:農業倉庫 火災・盗難防止強化月間2023
持続的な食の安定供給へ 農業倉庫の重要性さらに JA全農にいがた・新潟米広域出荷施設 田上倉庫【農業倉庫 火災・盗難防止強化月間2023】2023年12月1日
気候変動や世界情勢の不安定化のなか食料安全保障への関心が高まり、米をはじめとした基礎的な食料の持続的な生産と安定供給が一層求められている。一方、わが国の生産現場では担い手への農地集積が進み、それに応じたJAの集出荷施設の機能発揮も課題であり、農業倉庫の役割にも期待が高まる。こうした農業倉庫の特性を踏まえ、JA全農と公益財団法人農業倉庫基金は毎年11月15日から翌年の1月31日までを「農業倉庫火災・盗難防止強化月間」として防火・防犯意識を高めることや、保管管理体制の再点検などを徹底するよう呼びかけている。強化月間に合わせ、今回はJA全農にいがたの「新潟米広域集出荷施設 田上倉庫」を訪ねた。
大規模化に沿い管理徹底
フレコン集荷対応が急務
右から石田課長、武田調査役
JA全農にいがたは「新潟米広域集出荷施設」として米の低温保管倉庫10庫を備えた東港倉庫を2017年に竣工(しゅんこう)、延べ床面積1万平方メートル、収容能力2万tの倉庫として稼働を開始した。
今回訪問した田上倉庫はその第二弾として2022年に竣工、東港倉庫をモデルに同規模の延べ床面積を持ち10庫を備えた低温倉庫として設計された。
JA全農にいがたが県内JAの農業倉庫を補完する連合倉庫を相次いで建設したのは、JAの農業倉庫の老朽化とフレコン集荷の進展に対応して収容力を確保するためだ。
新潟県に限らずJAの農業倉庫やCE(カントリーエレベーター)は築40~50年と老朽化が進み、いずれ倉庫そのものが使用できなくことが考えられ、米の収容力確保は重要な課題となっていた。
そのため東港倉庫を建設後、JA全農にいがたは2020年から2棟目の建設に向けて検討を開始した。担当した米穀部集荷推進課の武田一宏調査役は建設が必要となったもう一つの要因が「フレコン集荷への対応だった」と話す。武田調査役によると2020年時点に過去5年間で10ヘクタール以上の生産者が12%拡大し35%に達していたという。また、個人調製するフレコン集荷率は同期間で15%拡大し39%になっており、CEも含めるとフレコン集荷は13%拡大し、53%に達していることが分かった。
生産者の大規模化が進むにつれて紙袋出荷からフレコン出荷へと転換していることがデータで明らかになった。直近ではすでに6割を超えたという。
一方、既存のJAの農業倉庫はそもそも紙袋での保管を前提とした設計でフレコンを積み上げるには高さが不十分であり、老朽化という問題以前にフレコンの効率的な保管が難しいという課題も抱えていた。
このような稲作経営の大規模化とそれにともなう出荷形態の効率化=フレコン集荷の拡大に対応するためにも新たな農業倉庫が必要とされていた。
現在稼働している2棟のうち、東港倉庫は県内でも古くから稲作が盛んで慢性的に倉庫が不足していた蒲原平野を核として下越地区の米を扱い、田上倉庫は中越に近い地域の米を扱っている。
全農統一フレコンによる保管
JAの検査場の機能も
田上倉庫の1年間の業務を整理すると、まず出来秋の9~10月はJA新潟かがやきの検査場として稼働する。同倉庫周辺の生産者(旧JA新潟みらい管内)の庭先からフレコンが直接持ち込まれて検査を行う。検査室を併設することによってJAの集荷と検査業務の効率化と負担軽減を図るのが狙いだ。
そのほか周辺のJA管内の検査場で検査しJAの農業倉庫では収容できないフレコン集荷分を受け入れている。
出来秋は一気に出荷が集中する。新潟米広域集出荷施設所長を兼務する米穀部集荷推進課の石田友信課長は「各地での検査が止まることがないよう集中する集荷に対応した収容力を発揮することがこの倉庫に求められている」と語る。
出来秋の集荷が一段落した11月から3月にかけてはJAのCEでもみ摺りされた玄米フレコンを受け入れ、4月から6月にかけては暑い季節を迎える前に常温倉庫に保管してあるものを集約していく。
その後、7月から8月にかけては出来秋に向けJAの倉庫を空けるための受け入れを行う。
倉庫は五つの部屋が向かい合わせに並ぶ。フレコンの搬出入をする前室は15m幅でトラックの追い越しが可能な広さがある。雪の多い新潟のため前室は屋根で覆われ、降雪時でも外界とシャットアウトされた状態で作業ができるよう、前室と一体の建物にしたのが設計上の工夫だ。収容能力は2万tあるが、現在は1万6000t程度を保管している。
幅15メートルの前室
温湿度・穀温を監視
倉庫業務で重要な衛生管理は「一般衛生管理計画書」に基づいて実施する。
倉庫内の衛生管理については、毎日実施することとして▽清掃、整理整頓▽異臭や雨漏り、結露の発生や痕跡などの点検▽清掃道具の保管状況の点検――などがある。そのほか清掃用具(スイーパー)の洗浄も定期的に実施している。
また、定期的に倉庫まわりや側溝などの清掃も行う。
スイーパーなどの清掃用具
設備の保守点検では冷却装置の稼働状況の確認と、温湿度の測定と測定値異常の有無、フォークリフトは稼働前の保守点検と清掃、作業後の点検も行う。
作業員については作業服、手袋、ヘルメットの汚れなどの点検と健康状態を確認する。朝礼での衛生管理の周知も行う。
米穀の扱いでは入庫時点検として農産物検査印、表示漏れ、包装袋の汚れ等の異常、フレコン袋の破損や高水分(15%以上)の有無の点検などを行う。
保管システム入れ効率化
倉庫内では▽穀温や庫内温湿度の確認▽保管物品の異常(カビ、破袋等)の点検▽はいの安定状況の確認を行う。
また、出庫時には包装袋とフレコン袋のカビや破損など異常の有無、「表示関係」の再確認、運送トラックの荷台点検を行う。
入り口の防鳥ネット
防鳥対策としては倉庫入り口にネットを張って侵入を防いでいる。防鼠(ぼうそ)対策ではベイトボックスを施設内だけでなく施設外にも設置してネズミの侵入の痕跡を確認できるようにしている。これまで倉庫内でネズミが餌を食べた形跡は確認されていないが、施設外では確認されているといい、ベイトボックス(毒餌箱)設置の必要性が確認されている。また、倉庫内にはモニタリングのための粘着テープの設置、さらに倉庫出入口には、ネズミ返しを必ず設置する。
倉庫外に設置されたベイトボックス
倉庫入り口のネズミ返し
こうした点検作業の結果は保管管理日誌に記録する。
そのほか同倉庫では温湿度・穀温監視システムを導入している。倉庫内のセンサーで温度・湿度を上部・下部の2カ所で計測するとともに、フレコンの穀温を3カ所(上部・中部・低部)で計測する。データは事務所内のパソコンで見ることができる。
温湿度管理システム
一方では穀温計も使ったアナログによる温度チェックも行っている。
監視システムの導入によって温度変化をグラフ化して画面上に示すことができるほか、温度が異常に上昇した場合はアラームで知らせる機能もある。システム導入による利点はデータによって適正な米穀管理が行われていることを証明できること。
たとえば出庫先から品質不良では、との問い合わせがあった場合でも、その米穀の入庫から出庫までの保管中の温度・湿度、穀温管理状況をデータで示すことができる。それが適正に行われ問題がなければ、では何が原因なのかを出荷元が考える材料ともなる。
穀温監視システム
パソコン画面上で各倉庫の湿温度を監視
基本事項を徹底して
火災と盗難防止対策では倉庫内の火気厳禁と作業後の倉庫の施錠、出入り口の施錠が基本だ。警備会社と契約して防犯カメラを設置しているほか、緊急時の通報のため職員の連絡先を整理している。
また、夜間対策として倉庫の外壁に取り付けた外灯が一定の時間点灯するように設定しているという。
外壁に設置された外灯は定期的に点灯する
同倉庫の職員は通常は4人。出来秋の9月、10月の2カ月間はフレコンを運搬するスタッフとして4人を臨時雇用する。
衛生管理計画書に基づく衛生管理や火災・盗難防止対策を実施しているが、「いわば当たり前のことを愚直に行っているに過ぎない」と石田課長は強調する。また、計画書は年度ごとに見直す。そうした衛生管理対策などを当たり前のこととし、そのうえで同倉庫の機能を発揮するために心がけているのが「効率を上げるための保管」である。
入庫する米の品種はおもに「コシヒカリ」「こしいぶき」「新之助」「ゆきん子舞」の4品種。そのうえでどのJAの米がどのくらい入ってくるかを踏まえて倉庫運営をする必要がある。 たとえば、5段積み5列に並べた米穀が、出庫して数が減った段階で5段積み2列に並べ直すという。そこに3列分のスペースができることで新たなフレコンを保管することができるようになる。そうした作業の流れを現場で想定したうえでどう米穀を保管するか、毎月関係者との相談や、JAからの出荷予定などを聞き取りながら計画を立てているという。
同倉庫の狙いの一つに流通コストの削減がある。それまでは慢性的な倉庫不足で県外の営業倉庫も使って保管していた。それを広域集出荷施設に集約すれば経費の削減になる。保管は低温で行うため品質の保持と年間安定供給につながる。
稼働後はJAから同倉庫に集約してほしいという依頼が増え、そのため一層倉庫運営には計画性が求められている。
「新潟米の安定供給に向け物流を止めないことがこの倉庫に求められている。そのため基本に即した倉庫作業が大事です」と武田調査役は話している。
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・【農業倉庫 火災・盗難防止強化月間2023】防災、防犯の徹底を 農業倉庫基金長瀬仁人理事長(23.12.1)
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