【クローズアップ 危急迫る年末生乳廃棄】全国組織が異例の動画開始 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年12月10日
年末年始の生乳需給廃棄の可能性が高まってきた。年末まで3週間を切る中で、全国組織は連名で乳製品在庫過剰の危機的実態と消費拡大、生乳出荷抑制の動画ビデオを流す異例の事態となっている。
雪印メグミルクも独自の牛乳・乳製品消費拡大PR
■週末から危機訴えるビデオ
全国組織が週末10日から動画ビデオで生乳需給改善を訴える全国動画を流す。
既に中央酪農会議、日本乳業協会、Jミルクは10月20日、三者連名で年末年始の処理不可能乳(生乳廃棄)発生回避に向けた緊急の取り組みを呼び掛けた。合わせてJミルクは年末年始、年度末の消費拡大策も含め総額3億円の支援策を発表し、生産現場や指定団体などと意見交換も行ってきた。
今回の動画ビデオも全国3組織の事務方トップ・各専務が出演し、緊急事態に対応し何としても生乳廃棄回避を実現する決意を示した。
中酪の迫田潔専務は「柱となる牛乳・乳製品の消費拡大に加え、地域実態に沿った生乳出荷抑制の取り組みも検討したい」と強調する。
■全中会長会見でも消費拡大PR
全農酪農部の酪農家応援「ミルクティー」
9日の全中理事会後の会見でも、生乳廃棄回避のために中家徹会長が牛乳・乳製品の消費拡大を訴えた。記者席には全農の酪農家応援の「ミルクティー」が説明文と共に配られた。同ミルクティーは牛乳50%以上で、消費拡大をけん引する中身だ。
■止まらぬ増産基調
「増産がどうにも止まらない。年末は前例のない事態になりかねない」。指定生乳生産者団体から上がってくる旬別の受託乳量の数字を見て、酪農乳業関係者は苦痛の表情を示した。
コロナ禍の需給ギャップは、一時好調だった飲用牛乳の家庭内消費も伸び悩み、結果、乳製品の在庫が積み上がりとなって乳業メーカーの経営を圧迫しつつある。
特に、増産ペースがなかなか落ちないのが全国の6割を占める北海道だ。11月に入っても前年度対比4%増の高水準が続く。北海道の生乳生産は420万トン程度が見込まれる。1カ月にして35万トン、1日にして1万1500トンに達する。4%の上振れはそれだけ、十勝をはじめ北海道東部に配置されている大手乳業の大型乳製品工場の操業能力も超えかねない数字だ。
■緊急期間12月21日まで2週間
Jミルクなどが年末年始の緊急対応期間としているのが、小中学校の冬休みに当たり学校給食向け牛乳が停止する12月21日から1月10日の約3週間。一挙に需給緩和も予想される21日まであと2週間近く。
乳牛はすぐには生産ブレーキが効かず、配合飼料給与なども徐々に変えていかないと体調を崩しかねない。そこで、12月10日前後が、出荷抑制へ備えるタイムリミットとなる。
■業界挙げ消費拡大運動
生乳廃棄回避と生産基盤の毀損(きそん)を防ぐ。ブレーキとアクセルを同時に踏むような難しい対応が迫られる中で、本筋は牛乳・乳製品の需要拡大だ。
Jミルクは「全国の酪農乳業関係者、一人ひとりの力が必要です」などのフレーズで理解醸成ツールも発出し、需給正常化への支援を強めている。
全農や全酪連も先頭に立ち消費拡大をアピール。専門連の全酪連は11月中旬から草の根的な消費拡大へ全役職員を対象に来年1月末まで「I LOVE MILKアクション」と題し、グループ全体で50トンの牛乳・乳製品消費を目指す。
明治、雪印メグミルク、森永、よつ葉をはじめ乳業メーカーもSNSなどを通じ活発な運動を展開中だ。こうした中で明治は、国産生乳100%使用し「明治北海道十勝」ブランドの品数を増やした。農水省牛乳乳製品課が進める「プラスワンプロジェクト」の一環だ。
■Jミルク「みんなで+500万本」
特に生乳需給緩和がピークとなるのは12月25日~1月3日の10日間だ。この緊急事態の〈コア〉を乗り切るため、Jミルクは特別運動も提案する。
スーパーなども正月休みも入る同上の〈コア〉期間に家庭内の牛乳消費を促す。「年末年始チャレンジみんなで+500万本」と銘打ち、牛乳の500万本消費底上げを目指す。
■現実は酪農三重苦の苦悩
一方で、酪農生産現場では、経営維持のぎりぎりの対応がある。需給正常化をさらに複雑にする構図だ。
北海道で前年度対比4%増と推移しているのも、需給緩和を認識しつつ、コスト高での所得目減り分を量で確保する意向も働く。副産物の初任牛販売も、来年以降の需給見通しが不透明で引き合いが少ない。
北海道は来年度、今年度計画対比101%、うち1%は新規枠で実質伸び率ゼロとなる。今、増産が止まらなければ、来年度はその増えた分を減産で対応せざるを得ない。その結果、所得がさらに減る。
こうした「負のスパイラル」に陥っているのが今の北海道酪農の現実だ。政府はこうした実態を直視し、2022年度畜酪政策論議でも具体的な対応を協議すべきだ。
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