【Jミルク見通し】深刻な脱粉在庫増、11月に牛乳需要大イベント2025年10月1日
Jミルクは9月30日、8月の飲用牛乳値上げなども踏まえた最新の2025年度生乳需給見通しを公表した。北海道での生産上振れなどで脱脂粉乳の年度末在庫は8万4000トン超えの深刻な事態だ。Jミルクは同日の会見で11月中旬に生乳需要拡大の大イベント開催を明らかにした。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
需要期の生乳消費拡大への対策拡充を強調するJミルク・渡辺裕一郎専務(9月30日、生乳需給見通しの会見で)
■11月中旬「牛乳でスマイル」始動
Jミルクは生乳不需要期に当たる11月中旬に東京・豊洲で「牛乳でスマイルプロジェクト」の大掛かりなキックオフイベント開催を明らかにした。昨年は不需要期に「土日ミルク」を展開し、学校給食のない週末に家庭などで牛乳消費拡大を目指したが、今回は「土日ミルク」を含め、業界挙げた大規模なイベントを開く。
牛乳に加え、在庫が積み増す脱粉需要拡大へ機能性、健康への貢献など新たなミルクの魅力・価値発見を消費者に発信する。
■8月牛乳値上げ、価格帯ばらつき
今回の生乳需給見通しは、需給全体に影響する牛乳の消費動向が大きな焦点となった。8月値上げに伴い需要は前年をやや下回ったものの、「消費は微減にとどまり値上げの影響は思ったほど大きくない」という受け止めが強い。
同日の会見でJミルクは「前回8月の見通しに比べ実際の牛乳消費の減少は少ない」とした。ほぼ家庭需要と見られる牛乳消費の前年比は8月で99・2%にとどまった。
季節ごとに過不足を繰り返す生乳需給は、特に夏場7~10月の需要期への安定供給と、年末年始、年度末の学校給食牛乳停止時の余乳処理への対応がカギを握る。今年は、最需要期の安定供給と冬場の不需要期の備えの双方とも難しい対応が迫られる。
Jミルクの最新需給短信(9月26日)は、牛乳販売個数は前年割れが続いているものの、販売個数は前週に比べ増加した。値上げ前に7月に比べ1パック(1リットル)ほぼ10円の値上げとなっている。
牛乳動向に関して注目は二つ。飲用向け生産者乳価アップに伴う末端小売価格への反映動向と、製品価格上げによる消費への影響だ。前者の小売価格への反映に関しては、ばらつきが拡大している。各社の商品政策もあるだろうが、同じ牛乳で一物多価が極端な形で続けば、米価格同様に「どこが適正価格なのか」をめぐって消費者の価格不信につながりかねない。
実際に週末にかけて首都圏スーパーなどを取材すると、牛乳1リットル当たりで、雪印メグミルク308円と、300円の大台突破の牛乳があった半面、格安スーパー・オーケーは同198円と4割近く安い。8月値上げはコンビニエンスストアでの価格改定浸透という事情もあった。そこでローソン牛乳、製造元はよつ葉乳業で同238円。こうした価格のばらつきを同日の会見でJミルクは「スーパー、コンビニ、ドラッグストアなど販売形態による違い、さらには大手のNB牛乳かPB商品かなどでも価格が出ているのが実態だ。もう少し価格動向を見ていきたい」とした。
問題の根源には改正畜安法に伴う生乳流通自由化もある。格安牛乳は大規模増産を続ける非系統の原乳を使っているケースも目立つ。需要が格安牛乳にシフトすれば、今後の指定団体の飲用乳価交渉にも悪影響を及ぼしかねない。
■北海道「上振れ」で全国2年連続増産へ
2025年度の全国生乳生産量は、微減から一転、2年連続で増産となる見通しとなった。
前回8月には前年度比0・3%減の735万3000トンと見込んだ。酪農家の減少に歯止めがかからず2年ぶりの減産としたが、737万9000トン、前年比100・1%と「上方修正」した。北海道の増産が大きい。
25年度の北海道の生産は同0・7%増の429万4000トンで2年連続の増産を見込む。一方で後継者難などから離農加速が進む都府県は同0・8%減の308万5000トンと4年連続の減産を予測する。その結果、生乳全体に占める北海道シェアは約58・2%と6割に近づいている。
〇2025年度生乳生産見通し(9月30日修正値)
・北海道 4294(100・7%)
・都府県 3085( 99・2%)
・全国 7379(100・1%)
※単位千トン、カッコ内は前年度対比
■9月最需要期乗り切り
当面の生乳需給で、課題だった9月の最需要期は北海道産の「上振れ」や都府県生乳生産が上方修正し何とか乗り切ることができた模様だ。ただ、都府県の残暑の影響に引き続き注意が必要だ。
生乳需給ひっ迫のピークは、夏場で搾乳量が減る半面、小中学校の夏季休暇が終わり学乳再開で牛乳需要が高まる9月だ。Jミルク需給見通しでは、都府県の不足分を北海道から運ぶ道外移出量は9月に6万3000トン(前年度対比100・1%)をやや下方修正した。
■北海道で2歳以上雌牛減少
北海道の生乳「上振れ」は、乳価値上げに伴う生産意欲の高まりも加わり個体乳量の増加が大きい。だが、1年スパンで見ると25年下期は生産が低下していく。主力の2歳以上の乳牛が減少していくためだ。
搾乳の主力となる北海道の2~4歳の雌牛頭数は9月以降、急速に減少していく。今回の見通しでは年度末には33万2000頭にまで減る。前年度末は34万3000頭だったので1万頭以上マイナスとなる計算だ。コロナ禍での減産に伴う、乳牛削減に影響が響いている。
半面、収益性の高い持続可能な酪農経営実践へ、できるだけ牛体に負担をかけず搾乳の期間を長くする取り組み、長命連産が徐々に浸透している。北海道で5歳以上の乳牛割合が前年度に比べ着実に増えており、今後の酪農経営の貢献に注目が集まっている。
■脱粉在庫8万4400トンと拡大
年末年始の生乳不需要期対応の含め、今年度も酪農乳業界の最大課題は脱粉在庫の処理だ。今回の需給見通しで、北海道の「上振れ」もあり、脱粉年度末在庫は8万4400トンと、前回見通し8万1300トンに比べさらに積み上がった。
用途別の生乳需給を大きく左右するのは、柱の飲用牛乳の動向に加え、乳製品の脱粉とバターの需要の行方だ。飲用牛乳需要が伸び悩めば、それだけ保存の効く乳製品向け加工に回る。そこで問題になるのが累増する脱粉在庫処理だ。
今回の需給見通しでは、25年度末の脱粉在庫を8万4400トン(製品換算)、7・9カ月分と、前年度の5万2000トン、4・1カ月分(在庫対策を除くと4。9カ月分)に比べると大きく積み上がる。
25年秋の補正予算で国の在庫対策対応が必要だが、現時点で8万4000トンを超す脱粉在庫は過剰の深刻さを裏付ける。酪農家の持続的な生乳生産を「担保」するためにも、脱粉を多く使用するヨーグルトの実効ある需要喚起などが求められている。
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