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【世界の食料・協同組合は今】スイスの耕畜連携 環境、農業持続性を両立(2) 農中総研・阮蔚氏2024年10月29日

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農林中金総合研究所の研究員が世界の食料や農業、協同組合の課題などを解説するシリーズ。今回は「スイスの耕畜連携」について理事研究員の阮蔚氏が解説する。

【世界の食料・協同組合は今】スイスの耕畜連携 環境、農業持続性を両立(1)から続く

肥料収支の均衡

スイスは第一次及び第二次世界大戦中の食料確保難を経験して戦後1950~80年代までの間に集約的な営農方式で小麦や乳製品、食肉など食料の国内生産を急増させた。特にスイス農業生産額の約半分を占める畜産の拡大は大きい。FAOのデータでは、1961~80年の間にスイスの家畜飼育頭数では牛は158.5万家畜単位(LSU、注)から182.8万LSUへと15.3%増、豚は33.4万LSUから55.1万LSUへと65.1%増加した。家畜の飼育頭数の増加だけではなく、集約的飼育も増加し、家畜ふん尿の畑への散布や河川などへの流入は増加し、土壌や水、大気汚染等の環境問題をもたらした。
(注 FAO統計のLSUは、livestock unitであり、家畜数を総合的に表す「家畜単位」という。それぞれの家畜の種類に飼料要求量などを勘案して一定の係数を定め、これを乗じたものを1家畜単位とする。1 LSUとは、追加の濃縮飼料を与えずに年間 3000 kgの牛乳を生産する 1 頭の成乳牛に相当する放牧量を指す)

スイスの家畜飼育数

スイスの家畜飼育数

こうした家畜ふん尿による窒素とリンの過剰投入をなくすために、スイスは1990年代初頭から肥料の養分収支均衡(Suisse-Bilanz)を図るようにした。すべての農場は家畜ふん尿による窒素とリンの発生量と作物の養分要求量を均衡に保たなければならない。過剰栄養素の許容範囲はこれまで10%とされていたが、2024年度から0%へと変更された。

肥料の養分収支均衡の計算方式は、連邦農業局によって定められている。農地1haにチューリッヒ州などの平野地帯では牛3頭までの飼育が認められる。丘陵や山岳地帯では作物の養分吸収が少ないため、飼育できる家畜頭数が減少する。飼育頭数が農場の養分要求量を上回ったら、余分のふん尿をバイオガスプラントに出荷するか、または穀物や野菜などを主に生産する農場で肥料として使ってもらう必要がある。そのため、耕畜連携が促進される。野菜等生産農場は無料で家畜ふん尿をもらえて化学肥料代の節約、耕地に有機物増加のメリットが享受できる。

2024年8月に訪問したチューリヒ州の養豚農場では年間3500~4000立方mのふん尿が発生しているが、作付けしている施肥可能の39.3haの農地のリンの許容範囲を超えているため、年間1200立方mのふん尿を近くの5軒の野菜農家に出荷している。

また、家畜ふん尿肥料を様々なほ場に最適に散布するためには、土壌に蓄積されている肥料要素(リン、カリウム)を知る必要がある。そのために、すべてのほ場で土壌分析を実施しなければならない。少なくとも10年ごとに認可された試験所で公認の方法による土壌分析を受ける義務がある。

デジタルでふん尿の移動を監視

こうした家畜ふん尿の移動および管理の効率を上げるために、スイス連邦農業局は2014年にインターネット上の情報システムであるHODUFLUを導入した。家畜ふん尿肥料過剰の農場は、出荷するふん尿の量や中身、場所などの情報をその都度HODUFLUに登録し、それを受け取った農場やバイオガスプラントはHODUFLUに入荷実績を入力する。ふん尿過剰の農場はHODUFLUシステムで納品書を発行して、通常は運送業者が肥料を必要とする農場やバイオガスプラントに運ぶ。運送先の農場では、運送業者はしばしば散布も行うが、2024年1月以降、スラリーを地面に近づけての散布、土壌への注入など、アンモニアの大気中への排出を少なくする機械で行うことが義務付けられている。

また、バイオガスプラントはふん尿などをメタン発酵しバイオガスを発生してから残された廃液をリサイクル肥料として、HODOFLUに登録して必要とする農場に出荷する。この場合、バイオガスプラントは液肥の成分分析及び品質チェックの結果をHODUFLUに登録する必要がある。一方、農場の家畜ふん尿肥料は農場内のサイレージの滲出(しんしゅつ)液及び同等の廃棄物を含んでよいが、農場以外の同等の廃棄物は20%を超えてはいけない。また、バイオガスプラント等からのリサイクル肥料は、家畜ふん尿等農業廃棄物の含有量が20%超えてはいけない。

HODUFLUの使用により、かつての契約書の事前審査や承認などが不要になるため、州および農家にとって事務手続きの簡素化、待つ時間の短縮など、効率向上とコスト削減につながっている。

現在のHODUFLUは家畜とバイオガスプラントなどふん尿やリサイクル肥料の移動だけを管理し、化学肥料が含まれていない。2021年に制定された農薬リスク削減法では、養分損失(農場における養分の過剰投入)の削減目標を定めることとされ、その後2023年までに窒素15%、リン酸20%の削減目標が設定された。同時に、連邦のデジタル.プラットホーム「dijiFLUX」の開発が定められた。2025年から使う予定となる「dijiFLUX」はHODUFLUを吸収し、内容的には家畜ふん尿の移動だけではなく、化学肥料の販売、購入、使用を報告する義務が生じる。

スイスでは環境維持と持続的発展に向けて、直接支払い政策により、国土全体の養分均衡の一環として家畜ふん尿と耕種農業の連携、及びその実施コストの低減を絶え間なく追求してきた。こうした循環型農業の耕畜連携及びその効率化につながるデータベースの構築と活用に日本は注目すべきである。

資料 平澤明彦2018「スイス」三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社『平成29年度海外農業.貿易投資環境調査分析委託事業(EUの農業政策.制度の動向分析及び関連セミナー開催支援)報告書』、127‐147頁

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