再生可能エネルギーで地域自立と農業振興を JA全中・村上光雄副会長に聞く2014年4月23日
・被爆者の父の姿
・原発事故に自省と憤り
・福島の苦悩と大会決議
・エネルギー基本計画に疑問
・再生可能エネルギーで農業振興を
政府が4月11日に閣議決定したエネルギー基本計画は原発を重要な電源と位置づけ、安全性が確認されれば既存の原発を再稼働される方針を示した。一方、JAグループは第26回全国大会決議に福島原発事故をふまえ「将来的な脱原発をめざす」ことも盛り込み、地域で再生可能エネルギーの推進に取り組んでいくことにしている。こうしたなか4月13日には、生協や市民団体などが1年をかけて準備してきた「脱原発社会の創造」をテーマにしたフォーラムが開かれ、JA全中の村上光雄副会長がパネリストとして参加し、自らの脱原発への思いやJAグループの取り組みなどを話し反響を呼んだ。改めて村上副会長に語ってもらった。
大会決議「脱原発」の
めざすこと
◆被爆者の父の姿
広島に原爆が投下された日、私の父親は兵役で広島市内にいました。爆心地からは少し離れていたようですが、兵舎の屋根は吹っ飛んだといいます。それでも兵役ですからすぐに市内に救援に出ていかなければならず、町は地獄絵のような状態だったと聞きました。人々からは、兵隊は何をやっていたんだ、と厳しいことも言われたそうです。 戦後はそうした体験を中学生の平和学習で話をする活動をしたり、町の被爆者友の会の世話をして、みんなの思いを残そうと体験記を書いてもらって『炎の墓標』という本にもしました。
ただ、戦争が終わって家に戻って以来、発熱が続いて寝込んだり髪の毛も抜けたりした。体の不調はずっと続きましたが、がんばって農業をしていました。父親がそんな状態だったことから、私は大学を卒業したらすぐに実家に戻って後を継いだわけです。
(写真)
村上副会長
◆原発事故に自省と憤り
そんな体験を持っていながら自分は今まで何をしていたのか、認識が甘かった――、福島の原発事故が起きてそう思いました。広島県のほとんどの人はそういう思いを持ったのではないか。というのは米国は戦後、原爆のイメージを払しょくするため原子力の平和利用だといって広島に原発をつくろうとしたからです。世界で最初の原発を広島へ、と。そんななかで原子力の基本的なことがよく分からないまま、原爆はよくないが原発は平和利用だからいいのではないか、というムードに飲み込まれてしまったと思います。原発事故が起きて、福島の人たちに顔向けができないではないかと忸怩たる気持ちを強く持ちました。
認識が甘かったというのは、原爆も原発も放射能を出すということについては変わりがないということです。瞬間的に核分裂を起こすか、じわじわと核分裂を起こすかの違いだけ。その放射能は目に見えず、人体にどういう影響があるかもはっきりしない。子どもや孫の世代にまで影響する可能性もある。福島ではこんな不安に直面していることをあの年、現地に行って一層強く感じました
◆福島の苦悩と大会決議
2011年8月に全中新執行部が発足した直後、萬歳会長とともかく早く被災地に行こうと話をして、岩手から宮城、そして福島へ回りました。地震と津波の被害は確かに大きなものでしたが、それでも時間はかかるかもしれないが、積み重ねていけば復旧・復興の筋道は拓けると思いました。
しかし、福島は違っていた。南相馬に行ったら被害の実態すら分からないという。たとえばJAのライスセンターの被害を調べようと思っても、放射能の危険で近寄れない。また自分たちがどれだけ放射能を浴びたのかも分からない。自分の将来、さらに次世代への不安も募る。地震、津波、原発事故による放射能、風評被害と三重、四重もの不安で復興への道筋が立たないという状況を目の当たりにしました。
飯舘村に向かっていくと放射能のレベルがどんどん上がっていった。村に入ると、本来なら稲が色づきはじめて、きれいな水田が広がっている季節のはずなのに雑草が伸び放題で人は誰もいない。涙が出るほど情けなくなったし、誰がこういう状態にしたのかと腹が立ってなりませんでした。また、それは自分に対してでもあります。
そこで、何か福島の人たちにやるべきことがあるのではないかということから、第26回JA全国大会の決議事項のなかに脱原発ということを入れるべきだろうと考えました。そのことが今も苦しんでいる福島の人に対してせめてできることではないか、と。原爆に遭った父を持つ広島の人間としての責任だとも思いました。大会決議では「将来的な脱原発をめざすべき」となりましたが、脱原発の言葉を入れることがまずは第一段階です。 やはり最後に泣かされるのは農家。事故が起きればその地域に住んでいる人すべてが被害を受けますが、なかでも農地を持ち自然を相手に生計を立てている農家にとって、自然が、土地が汚染されては生きていけません。 風評被害はいまだに続き影響は長引くこともはっきりしました。だから、われわれ農業者がしっかりと「将来的な脱原発」の声を上げ、環境を守っていくということを国民のみなさんに知ってもらうことが大切だと思っています。
◆エネルギー基本計画に疑問
原発はよく言われるように、トイレのないマンションだという問題もある。小泉元首相も考えを変えたように、ゴミの処理もできないままに続けていくのは本当にいいことなのか。一般の国民としておかしいことはおかしいと言わなければいけないと思います。かりに再稼働するにしても、せめてその技術をきちんと示すべきです。政府が決定したエネルギー基本計画はそのあたりの問題が解決されないままだし、何よりも今は福島原発の汚染水をどうするかではないのか。
また、原発は安上がりの電力だとも言われてきました。しかし、先日参加したフォーラムで東海村の村上前村長が指摘していたように電源交付金が10年間400億円も入るそうです。しかし原発依存体質で地域の他産業は衰退したといいます。逆にいえば、それだけのお金をかけるのなら再生エネルギーをもっと真剣にやるべきだったのではなかったかと思います。
◆再生可能エネルギーで農業振興を
JAグループとしても再生エネルギーの取り組みを進めることにしています。
そういうなかで中国地方では農村の電化を進め地域が自立できるために昭和30年代に小水力発電所が作られ、今も稼働しています。内橋克人さんが提唱されているように、やはり食料とエネルギー、ケアの自給圏づくりをめざすことだと思います。エネルギーの自給については個人個人で取り組むこともできる。節電だけでなく、やろうと思えば太陽光発電もできるし、町中では難しいが農村であれば小水力発電もできる。地域に資源はあるんです。みんなが知恵を出していけばできる。
たとえば栃木県の那須地域では小水力で起こした電気を蓄電し、電気自動車を充電する取り組みもやっています。初期投資はかかるが自動車に充電できればガソリンも節約できるしCO2削減にもつながる。
先日のフォーラムではJA福島中央会から、地域営農ビジョンのなかに再生可能エネルギーを取り込む構想も報告されました。畜産で出る糞尿をバイオマス発電に活用し、その熱を施設園芸が活用する。発電で出る残さは肥料として活用できる。コストダウンを図る一方で売電で収益も得られる。クリーンなエネルギーを得ると同時に、地域の活性化と農業振興を図ることは決して夢ではないと思いますし、われわれがやらねばならないことです。
(写真)
JA三次の河戸発電所。水中タービン型の発電機を備える。
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