【座談会・今年の動向を振り返る】日本の農業協同組合の活力ある内発的発展へ(1)2018年12月28日
・地道な活動や改革もっと発信
・議連で風向きに変化
・意識的に地域に目を
【出席者】
・全国農協中央会副会長金原壽秀氏
・新世紀JA研究会特別相談役名誉代表萬代宣雄氏
・参議院議員(自民党参議院幹事長)吉田博美氏
・司会=東京農業大学名誉教授白石正彦氏
平成30年も残すところ僅かとなった。TPP11(環太平洋連携協定)、日欧EPAの締結、JA改革などがあり、日本の進路に大きな影響を与えた歴史的な転換の年だったと記録されるかも知れない。この大転換期に政治家として、また農協運動のリーダーとして重要な役割を果たしている3人に、今年を振り返り日本の食料・農業・農村・農協について思うところを語ってもらった。
◆議連で風向きに変化
白石 1995年にICA(国際協同組合同盟)の総会で決定された協同組合の第4原則(自治と自立)には、「協同組合は組合員が管理する自治的な自助組織である。協同組合は、政府を含む他の組織と取り決めを行う場合、また外部から資本を調達する場合には、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとで行う」と明示されています。
このような国際水準の協同組合原則についても、今回のテーマとの関連で考えを聞かせてください。最初にJA全中の金原副会長から、来年3月の第28回JA全国大会開催等も踏まえ、この1年を振り返ってどのような思いで、どのように取り組まれてきたかについて話していただけますか。
(写真左から)萬代氏、金原氏、吉田氏
金原 政府の規制改革推進会議が、農協に対してビンボールまがいの球を投げてきましたが、農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化というJAの取り組むべき目標を柱に、准組合員についての結論を出すことになっている「5年後条項」を含め、農協法の改正と附帯決議や規制改革推進会議の動向も踏まえてやっていくことになります。戦後70年の農協の歴史のなかでわれわれは、その役割を果たしきれなかったこともあります。
このことを反省し変革を進めています。全中のアンケートだと、改革による成果は数字では上がっていますが、それが果たして個別農家にまでつながっているのかという懸念もあります。ただアンケートを実施したところでは農協が評価されています。今年が改革の最期だとの思いで取り組んでいます。
白石 JA全農の副会長をされ、組合長、新世紀JA研究会の代表としても活躍された萬代さんはどうですか。
萬代 TPPがうやむやのうちに決定され先行き不安です。民間の組織である協同組合に規制改革推進会議が手を突っ込んでおり、腹立たしい思いですが、それは地方にいくほど強く感じます。それでも4月に自民党の先生方に農林水産業振興促進議員連盟をつくっていただいてから、規制改革推進会議の発言が弱くなっているようにも感じます。議員連盟が重石になって、貯金保険機構の掛金減額の動きが出ていると聞いています。われわれの要望は、あくまで掛金拡大を凍結することですが、以前とは違った風向きを感じます。議員の先生方の協力のおかげだと思っています。
そもそも国会議員の先生方を横において、規制改革推進会議が重要な政策を決めるということはけしからんことです。組合員の自主的な組織である協同組合に対し、少しやり過ぎではないでしょうか。2021年に結論を出すとされる准組合員の利用規制については国会議員先生方の力を借りなければなりません。
吉田 いま政治にとって大事なことの一つが農業、農村政策だと思います。日本の絆をつくったのは農業です。かつて日本のリーダーの多くは農村から出ており、農家や農協の声が政策に反映されました。しかし小選挙区になって都市出身の議員が増え、そうした声が通りにくくなりました。ただ農協改革は外部からではなく、内発的な改革として取り組んでいただきたい。われわれは国民の代表として主張し、それをいい方向にもっていきたい。
農協の力を感じるのは災害のときなどです。まず農協の人が現場に駆けつ けます。そこで生活のためのお金はどうする、その年の稲の植え付けは大丈夫かなどの相談に応じています。こうした地道な農協の活動を規制改革推進会議の委員は分かっているのでしょうか。
ただ世界の流れは自由な市場形成にあると思います。そのなかで日本の農業・農協のあるべき姿はどのようなものか。現政権が現実をどう受け止め、その対策をどのように細かくやっているかが問われます。それには現場の声をしっかり聞き、政策を立てなくてはなりません。
白石 農協は組合員が主体となって運営する自治・自立の組織です。いま改めて確認する必要があるように思いますが。
金原 その通りです。歴史をひも解くと、農地改革で生まれた小規模な自作農家が、みんなで農協にお金を集めて必要とする農家に貸すなど、一人ではできないことをみんなの力でやろうということで信用事業が始まったのです。共済事業も、一家の大黒柱になにかあったときは救済するなど、お互いが支え合うための制度としてつくったものです。
ただ長い歴史のなかで、農協も変わらなければならないこともあったと思います。農協は総合事業をやっています。情報・通信のツールを使って、業務のスピードアップをはかる必要もあります。
しかし、規制改革推進会議の提言の基本は市場原理主義です。大が小を駆逐するという競争原理を農業分野に持ち込むのは無理があります。推進会議のように、国民の代表でない委員が国策を決めるというのは問題です。こうしたやり方は政治家でないと止められないでしょう。その意味でも議員連盟の役割は大きく、期待しています。
白石 来年3月にはJA全国大会があります。農業と農協についての流れは変わってきたと思います。国連は2030年に向けてSDGs(持続可能な開発目標)を掲げました。格差や貧困をなくすために地球規模で経済・社会・環境を統合し、誰も置いてきぼりにしない社会をつくろうという目標です。これは協同組合の目指すところと同じであり、これに挑戦することで、日本の総合農協が内発的に生まれ変わる機会になると思います。
◆意識的に地域に目を
金原 改革はこれまでも取り組んできています。しかし農協は内に秘めた自分たちの意思を表に出さなかったのではないでしょうか。組合員や地域のためになる活動をやっていても、それを伝えないから、地域の人にとっては空気のようなものであって、あって当たり前、無くては困るといった程度の存在になってしまいます。やっていることを理解してもらい、地域のなかでどんな役割はたしているかということを意識して地域に向かい合わなければならないと思います。
白石 食料・農業・農村基本法が1999年にできました。これは食料・農業・農村の憲法です。農業の持続的な発展を基本に農村の持続的発展を組み合わせ、これが基盤となって食料を国民に安定的に供給すると同時に多面的機能を発揮する "ネットワーク"の役割を農協が果たしており、この見える化〟が重要です。
金原 農協は自発的にできた組織です。農協の女性部をみても分かります。なにか災害があるとすぐ炊き出しを始めるのは女性部です。それは相手が組合員であろうとなかろうと関係ありません。これまで先輩たちが果たしてきたことを脈々と引き継いでいるのです。こうしたことが、一連の農協改革のなかでまったく論点になっていないのは残念です。われわれも自ら、もっと発信していくべきです。
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