【クローズアップ・買い物困難者支援】「買い物困難者」を支えるJAや生協の取り組み2020年1月14日
高齢化や単身世帯の増加とともに地元の小売店が廃業するなど、農山村地域だけでなく都市部でも高齢者などを中心に、いわゆる「買い物困難者」や「買い物弱者」などと呼ばれる「食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる方」(農林水産省)が増え、極めて深刻な社会問題となっている。こうした中で農協や生協においても様々な支援の取り組みが行われている。
生鮮食料品や日用品を積んだ移動購買車で日常的な買い物をサポート(JAえひめ南)
◆一過性ではなく持続的対応が必要
総務省行政評価局が2017年7月にまとめた『買物弱者対策に関する実態調査結果報告書』は次のように指摘している。
「良好な買物環境は、日常の生活の基盤であり、地域で生活を営む上で不可欠なものであるが、全国的な人口の減少や少子高齢化、過疎化の影響もあり、流通機能や交通網の弱体化とともに買物環境が悪化し、食料品等の買物が困難な状況に置かれている人々、いわゆる買物弱者が発生」しているが、こうした"買い物弱者"は、「一過性の対策により解消されるものではないことから、持続的な買物弱者対策の実施が重要と考えられる。しかし、国において、買物弱者対策を中心となって取りまとめる府省はなく......」。
そして、現在"買い物弱者"対策として、「一部の府省や地方公共団体において補助事業等が実施されているほか、企業、社会福祉法人、各種団体、自治会等の地域団体、特定非営利法人等様々な者により全国各地で店舗の開設、移動販売や宅配など」が行われているが、「その全体像は必ずしも明らかになっていない」と指摘した。
そこで同報告書は農水省の「買い物困難者対策スタートブック」(2017年3月公表)と経済産業省の「買物弱者・フードデザート問題等の現状及び今後の対策のあり方に関する調査報告書」(15年4月公表)および同省調査の結果から買い物弱者対策への取り組みを整理し、▽配食▽買い物代行▽宅配▽移動販売▽店舗開設▽交通▽その他(配達・買い物付き添い・買い物ツアー)の7つに分類(表参照)している。
買い物弱者対策の7分類と具体例
◆農水省が「食料品アクセス問題ポータルサイト」開設
農水省は同省のWEBサイトに「食料品アクセス(買い物弱者・買い物難民等)問題ポータルサイト」を開設し、「全国の地方公共団体や民間事業者等が食料品アクセス問題の解決に向けた取り組みに役立てられるよう、食料品アクセス問題への取組方法や支援施策、先進事例、調査結果等の情報」を集め、積極的に発信している。
この中には、「企業・団体による全国を対象とした買い物支援の取り組み事例」を紹介したページがあり、「全国的・広域的な企業や団体」による取り組み事例が紹介されている。協同組合関係では、全国農業協同組合連合会(JA全農)と日本生活協同組合連合会(日本生協連)の取り組みが次のように紹介している。
ファミリーマートAコープ(新潟県南魚沼市麓)
◆地域の実情に応じたJAの多様な取り組み
新たなJA生活事業実践運動の一環として、買い物弱者問題へも対応。他社と連携した身近な店舗の維持・改善や移動購買車の導入、商品を自宅まで届けるくらしの宅配便などの多様な事業を、既存のインフラ活用や他社との効果的な連携により、各地域のJAの実情に応じて展開。
また、その取り組み事例では、「JAによる地域のくらしを守る」取り組みが紹介され、「近くに店舗がない」という地域では、JAが出向いて「商品を届ける」移動購買車を運行するJAみなみ信州(長野県)、JAびほく(岡山県)、JAえひめ南(愛媛県)の事例。地域の「ライフライン店舗」を維持するための店舗転換の対応として、▽JA購買店舗を対象とするヤマザキYショップとの取り組み▽JA購買店舗・Aコープ店舗を対象としたファミリーマートとの取り組み▽Aコープ店舗を対象とした全日食との取り組みが紹介されている。また、商品宅配の「JAくらしの宅配便」を自宅や指定場所に届ける取り組みや、JAおちいまばり(愛媛県)がタブレット端末の専用アプリを開発し、JA直売所「さいさいきて屋」の商品を発注できるシステムを構築し、農産物の集荷便などを活用して配送し、島しょ部や陸地部中山間地域の買い物に不便な方を支援していることなどが紹介されている。
◆事業インフラを活用した生協の取り組み
日本の生協の2020年ビジョンのアクションプランにおいて、地域社会づくりへの参加を掲げ、買い物弱者問題へも対応。 地域のニーズに応えて、安心できる地域をつくるため、「お届け便」や移動販売、買い物バス、配食事業、買い物代行などの買い物支援のための取り組みを、生協事業のインフラを効果的に活用しながら、各生協の地域の実情に応じて展開、と紹介されている。
また、その取り組み事例では、「地域社会づくりへ参加する生協の総合的な取り組み」が紹介され、▽移動販売▽商品宅配▽買い物バス(後述)▽食事宅配の取り組み事例が紹介されている。
◆役場・商工会・農協が連携 福井県池田町
また、農水省のポータルサイトの「地域に応じた各地での買物支援の取り組み」を紹介するページでは、池田町の役場・農協・商工会との連携による「買物不便の解消」のための実証事業の取り組みが紹介されている。
同町は人口が約3000人、高齢化率38・9%という地方都市だが、町内の中型スーパー2店舗、農協の購買店舗3か所が閉鎖する中で、交通手段を持っていない地域住民は買い物に苦労するようになった。このため、2009年9月から役場、商工会、農協の3団体の連携で「ゆいまーと」プロジェクトを立ち上げ、新たに最寄り店舗を設置して役場が関与した「ビジネス」として実証事業を展開した。
このプロジェクトは、総務省の「過疎地域等自立活性化推進調査事業」を活用し、池田町が事業主体となり、体制として池田町農協、池田町商工会を協議会の構成員として事業を展開した。
最寄り店舗の設置により買い物の不便が解消されたほか、高齢者の交流の場として地域コミュニティの形成につながるなど成果があった。
現在、「ゆいまーと」の取り組みは2011年3月に終了し、観光部分を中心とした「まちの市場 こってコテいけだ」にリニューアルし、「スーパーやコンビニにはない、スタッフとお客様とのふれあいが実感できる小さな町の小さなお店。町民向けの日用品から、お弁当、野菜、お土産物など品数は豊富」(同店WEBサイト)な地域資源を活かした地域産品の販売を中心とした観光交流拠点として展開している。
◆40年前から「お買い物バス」を運行 コープあきた
「買い物バス」については、生協の広報誌『C0・0P REPORT』(vol.155 2020 WINTER&SPRING)が、コープあきた(秋田県)が約40年前から運行している「お買物バス」を紹介している。
利用者の中心は60歳以上の女性だが、男性や夫婦などさまざまな利用者がいるという。
現在、運営している2店舗(土崎店、茨島店)に25人乗りのマイクロバスを1台ずつ配車。2店舗ともに、月?土曜日に各曜日の巡回コースを午前、午後の2便運行する。組合員は決まった時刻に停留所で待って乗車し店舗へ。帰りのバスが出発するまでの約45分間買物をして再びバスにのって乗車した停留所に戻るというもの。2015年からはマイクロバスに加え、狭い道にも入りやすい10人乗りのミニバスを土崎店に導入。5人の職員で運転している。1日の利用者数はマイクロバスとミニバスを合わせ約60人ほど。
ヤマザキYショップ(JAえひめ南)
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