【JA発 スマート農業最前線】データ分析・省力化 地域の生産基盤守る (株)ジェイエイフーズみやざき(宮崎県)2021年2月19日
農業労働力不足への対応や、データに基づいた安定した栽培などを目的にICT(情報通信技術)やロボットを活用したスマート農業の実践が各地で進んでおり、JAグループの取り組みも期待される。今回は宮崎県の(株)ジェイエイフーズみやざきの挑戦を取材した。(取材・校正:野沢聡)
ドローンの写真撮影で生育を分析
加工業務用野菜の安定供給基地へ 品目転換に挑戦
(株)ジェイエイフーズみやざきは、加工業務用向け野菜の生産、加工・販売を一貫して行うJA宮崎経済連の関連会社として2010(平成22)年に設立された。工場は翌年の8月に稼働した。
事業の目的には、野菜の生産、加工事業を通して消費者への安全・安心な食料を供給することと、「地域農業・農村の健全な発展への貢献」を掲げている。同社設立時は、宮崎県が口蹄(こうてい)疫に見舞われた年。約30万頭もの家畜が殺処分され、多くの畜産農家が苦境に陥り、なかには廃業を余儀なくされた農家もあった。そのため牧草など飼料を生産していた農地の維持と、どう活用するかが課題となった。
また、当時、葉タバコの作付け転換も迫られていた。同社所在地の西都市は一大産地であり、どう品目転換を図り、生産基盤を維持するかも問われていた。
こうした課題を抱えるなかで品目として加工用ホウレンソウを生産振興し、産地で冷凍して販売するという事業である。宮崎県は冷凍ホウレンソウの販売で全国7割のシェアを誇り、他に7社が製造しているという。地域にノウハウが蓄積されていることもあって同社は冷凍ホウレンソウの製造を柱に据えた。事業全体の8割を冷凍野菜製造が占め、そのうち7割がホウレンソウとなっている。
生産から販売まで
同社の最大の特徴はインテグレーションモデルを導入したことだ。加工会社は生産者から農産物を仕入れて加工するが、同社では「土づくり」の段階から契約栽培する生産者に使う資材などに合意をしてもらったうえで栽培に取り組んでもらう。契約生産者には品種の指定のほか、肥料、農薬も指定する。栽培方法はJA宮崎経済連の情熱みやざき農産物表示認証制度の農薬5割減、化学肥料3割減としている。
契約生産者は61人。今年の合計作付面積は120ha程度だという。生産者はJA西都、JA尾鈴、JA宮崎中央の組合員。生産者は他品目との複合経営で、ホウレンソウの露地栽培は年1作が基本で12月から5月が収穫期間となる。収穫は同社の契約農業法人が全量を行う。工場の稼働状況と生育状況をふまえて冷凍加工事業を展開するためだ。
同社ではJAの営農指導員にあたるフィールドコーディネーターが2名いる。生産者のほ場を巡回し生育状況の確認と栽培指導などを行っている。「冷凍ホウレンソウの生産と加工はわれわれにとってもまったくゼロからのスタート。フィールドコーディネーターが現場を巡回しながらJA・契約生産者と一緒になって産地をつくってきました」と同社原料課の池田利博課長は話す。
その成果のひとつして2018(平成30)年には国際基準のGLOBAL G.A.P(農業生産工程管理)の団体認証を取得し、信頼性の向上を図った。新たに契約する生産者には減農薬・減化学肥料栽培とともにGLOBAL G.A.Pの取り組みも条件となる。
冷凍ホウレンソウの製造が柱
自社農場で実践
冷凍野菜の製造販売に加えて同社自身も野菜の生産に乗り出している。約7haの農地を借りてホウレンソウとキャベツの生産を行っている。生産者の高齢化が進み、担い手が不足するなか、生産量の維持のためには自社による農業生産もいずれ必要になると考えたからだ。
ただし、自社生産に多くの労力は割けない。そこで2019(令和元)年にJA宮崎経済連をはじめ地元の大学、研究機関、ベンチャー企業などともに手を挙げて参加したのが農林水産省のスマート農業加速化実証プロジェクトである。
実証するのは機械化一貫体系による分業化と省力化。環境センサーやドローンにより得られたデータを活用した生産から収穫までの工程管理の強化だ。
実際に導入されたスマート農機は、トラクターでは無人のGPSトラクタと有人だが直進をアシストするトラクター。無人トラクターはいうまでもなく労働時間の削減、直進アシストトラクタは作業の無駄を省く。
ドローンは農薬散布用と写真撮影によって作物の生育状況を管理するシステムを導入した。環境センサでは土壌中のPH値、EC値、地中温度、含水量などを計測する。現在は土壌のPH値、EC値がホウレンソウ栽培に対して適切かどうかの指標として活用しているという。これらをドローンの撮影で得た生育状況画像と照らし合わせて適切な栽培管理体系を構築したいという。
また、作物の生育状況や成長具合を確認するため上空からのドローンによる写真をもとに3D画像にして作物を立体として確認できるソフトも導入しており、今後、ほ場の状況をコンピューター上でより的確に把握できるシステムの構築もめざしている。
無人のGPSトラクターで省力化
そのほか省力化には自動灌水機も導入した。また、ホウレンソウの収穫機は現在、現場に2人を必要としており、は収穫物を鉄コンテナに納める作業が自動化できていないので、収穫物の鉄コンテナへの自動搬送の仕組みの開発をめざしている。実現すれば収穫作業を委託している法人にとっては労力の軽減になる。
また、ニンジンでは葉を自動でカットする機械も開発された。現地ではジュース用にニンジンが生産されており、出荷の際には生産者がカットする必要があったが、その作業を軽減する機械として期待されている。
生育状況をAI(人工知能)が分析し収穫見込みを予測するシステムの構築にも取り組んでいる。JAグループが支援するJAアクセラレーターに採用された地元のテラスマイル(株)が開発した栽培工程などを見える化するなどの機能を持つRightArmを活用する。同社のフィールドコーディネーターがこの10年間に生産者への巡回、指導で蓄積したデータを活用しそれをAIと結びつけることで「どのほ場がいつごろ収穫日を迎えるのか」といった収穫予定カレンダーを作成していきたいという。
生育から商品化まで一貫した仕組みづくり
実際にスマート農機を導入をし労力の軽減などを実感しているといい、担い手が不足するなか生産基盤の維持にはスマート農業は非常に重要だと池田課長は話す。ただ、解決すべき課題も多い。たとえば、ドローンによる農薬散布といっても、現在はホウレンソウにドローンで散布できる農薬はなく、新たな登録が必要だ。また、無人トラクターも同社のほ場は1ha以上の区画で動かしているため効率的だが、県内の農地の規模は20aなどと小規模なところも多く、農地の集約とともに、宮崎県の条件にあったスマート農機の開発もまた課題とすべきではないかという。
「最新技術と既存農業との融合のなかでは、新たな仕組みづくりが不可欠だと思っています。個の取り組みには限界がありますので関係機関との連携のなかで得た技術を地域全体に広げていくことが重要だと実感しています」と池田課長は話している。
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