分断から共生へ 社会つなぐ「協同労働」 日本労働者協同組合連合会 古村伸宏理事長【農協人文化賞記念講演】2023年1月30日
1月26日に開かれた第43回農協人文化賞表彰式では「特別賞」を受賞した日本労働者協同組合(ワーカーズーコープ)連合会の古村伸宏理事長が「労働者協同組合法と協同労働」について記念講演した。昨年10月に法制化した労協法は働くことと暮らしのあり方について問題提起し、今日の協同組合運動に一石を投じている。古村理事長は、協同労働に「〝はたらき〟をかけ合わせ、コミュニティーを編み出す」役割をみる。講演内容を要約した。
日本労働者協同組合連合会 古村伸宏理事長
50年に及ぶ活動が実を結んだ法制化
協同組合に関する44年ぶりの新法律として、労働者協同組合法(労協法)が昨年の10月に施行されました。私どもとしては50年におよぶ活動と、20年にわたる法制化の取り組みが実を結んだものとして評価しています。
労協の源流は、1970年代に戦後の失業対策(失対)事業が縮小されるなかで、「よい仕事」「地域に愛される失対」を目標に掲げて、事業に取り組んできた失対労働者の組合にあります。
失対事業は自治体などからの委託によるものが中心でしたが、その限界を感じるようになりました。つまり、雇用され命令に従う受動的な働き方でいいのか、それでいい仕事ができるかという疑問です。「者」のつく「労働者」は雇用されていることを意味するものですが、私たちはそうではなく、働くことそのものに喜びを感じ、かつ地域に喜ばれる仕事をするべきではないかと考えました。
2015年の日本労働者協同組合連合会の全国総会で採択した宣言「協同労働の協同組合の原則」では、「一人ひとりが主人公となる事業体をつくり、生活を、地域の必要・困難を働くことにつなげ、みんなで出資し、民主的に運営し、責任を分かち合う。そのような働き方だ」とうたっています。
課題解決へあらゆる事業が可能な労協の事業
いま労働をめぐって多くの課題があります。ひとつは労働と生活の調和(ワーライフバランス)が十分とれていないこと、意欲および能力に応じて就労する機会(ディーセントワーク)が十分確保されていないことが指摘されます。労協法はこの課題の解決をその目的のなかに入れていますが、こうした課題への取り組みは、世間全体に漂っている「あきらめ感」を乗り越えるためにも重要な問題提起だと思います。
労協法第一条の「目的」では、「多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な事業が行われることを促進し、もって持続可能である地域社会の実現に資する」としており、労協の事業は労働者派遣を除くあらゆる事業が可能です。また設立にあたっては3人以上の発起人で法人格を取得でき、行政庁による許認可などは必要ありません。
一人ひとりが主人公となる組織として、労協は意見反映を最も重視しています。みんなの意見を聞く、民主的な運営は時間がかかり、非効率かも知れませんが、労協の事業は命と生き物に関わることであり時間がかかります。みんなの納得が重要で、それには聞く努力が必要です。労協はそのような組織文化を育てたるようにしています。
労協法ができたことで、第一のインパクトは「働く」、「労働」とは何か、の問題を提起できたことが挙げられます。それに関連して「企業」とは、「経営」のあり方はどうか、さらに「経済」、「民主主義」や「コミュニティー」(社会)のあり方などについて考える機会をつくりました。まだ、手探りの状態ですが、それらについて考えるヒントになるいくつかの労協の取り組みが全国で見られます。
各地で動き出した多種多様な事業
広島市では、高齢者の仕事、居場所づくりの協同労働に始まり、2014年度から「協同労働プラットフォームモデル事業」を立ち上げました。伴走型事業、個別プロジェクトの立ち上げを支援・助成しています。事業は多種多様で、地域の困りごと支援やサロン運営のほか、農作業支援や環境保全、子どもや高齢者への食事の提供などもあります。2022年度からは全世代型協同労働促進事業に拡大しました。
また京都府北部の京丹後市では京丹後市版の小規模多機能自治組織「新たな地域コミュニティー」づくりを進めています。年齢や性別に関係なく、誰もが関わりやすい地域運営の仕組みで活動人口を増やし、多彩な活動を行うことを通じて元気で楽しく住みやすい地域づくりをしようというものです。
具体的には子育て支援、高齢者介護、障がい者支援などのほか、廃校利用、空き店舗活用など、地域の暮らしに関わる幅広い事業の展開をイメージしています。また市の議員が中心になって荒廃している市のキャンプ場を再生させている三重県の労協など、全国でさまざまな取り組みが始まっています。
特に、最近立ち上がった労協のなかには「稼ぎ」と「生業(なりわい)」を両立させる複業スタイルという特徴があります。つまり本業(勤めや自営)を続けながら協同労働を進める形で、稼ぎとは別に「地域のため、自分らしさ、仲間とともに」に思いを置いた協同労働です。
また法人組織と労協法人のハイブリット版もみられます。NPO(民間非営利団体)や一般社団法人など、ほかの非営利団体を残しつつ、事業と労働の部分を労協として上乗せするものです。こうした形は、働く人しか組合員になれない労協の限界をカバーすることも期待されます。労協法ではNPOは3年で労協に移行できるようになっていますが、実際は、上乗せするハイブリット版が多くなるのではないかとみています。
小規模多機能自治・地域運営組織の挑戦
総じて言えることは、全国共通して自治組織の形骸化、弱体化が進む中で、小規模多機能自治・地域運営組織の挑戦が進んでいることです。特にポイントは「コミュニティー」づくりのツールとしての協同労働の位置づけです。いま地域のコミュニティーは分断、格差、孤立、貧困の拡大が進んでおり、多くの人が生き辛さを感じています。
そのなかで新しい働く仕組みを生み出す労協が一定の成果を上げていることは、資本主義の対抗手段として有効性を示しているのではないでしょうか。
明治以降の日本は富国強兵、殖産興業を基本コンセプトに工業化を推し進め、画一化(特に学校教育)、都市化(工業地帯の形成)を進め、コミュニティーの解体が加速させました。
しかし、市場を通じた経済活動は、本来、持たざる人を支援する相互扶助の性格をもっているものです。従ってコミュニティー経済は「ケア経済」「お互いさまの経済」と言い換えることもできます。同時にそれは〝株式会社の時代〟に代わる新たな組織の生成を模索することになるのではないでしょうか。
日本の文化的な基盤は「和」にあると思います。人と人、自然と人の日本独特の関係があります。今の生活、環境の危機を乗り越えるには多様化にこそ解決の糸口があります。資本主義はパーツ重視の経済だといえますが、そうではなく総合性に基本原則があります。その象徴である人間が生み出したものが文化です。「和(あ)える」という言葉があります。一つひとつの食材の個性を生かした料理法で、日本独特の料理法です。
協同労働はこれと同じで、一人ひとりの個性を生かし、主体性を高め、多様性を認め合い協同性を育むことに価値があります。そして働くこと・暮すこと・生きることを切り離さず一つに結ぶ。そして職場をコミュニティーとして育み、地域に無数のコミュニティーを創出すること。これが地域の文化的基盤としての協同労働です。
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