食と農に関わるスタートアップ企業が飛躍する場に AgVenture Lab 落合成年専務理事に聞く2023年10月18日
JAグループ全国組織が運営する(一社)AgVenture Lab(あぐラボ)は2019年の設立から5年目を迎えた。あぐラボは、食と農と暮らし分野で技術やアイデアを持ったスタートアップ企業などをつなぎ事業創出をめざす。JAアクセラレーター採択企業は43社に増え、メンバー同士のコラボレーションからスタートアップ企業が飛躍する場となっている。専務理事の落合成年氏に話を聞いた。
「農業WEEK」でのあぐラボ出展ブースで、落合成年専務理事
――11月14日には成果発表会(デモデイ)を行います。
今回のデモデイでは、第5期採択企業10社が期間中の成果を発表することになります。今までも同じようにやってきましたが、そこで出された成果をもとに次のステップで大きく飛躍した会社もたくさんあり、非常に注目される内容だと思います。
――5年目という1つの節目にもなります。
はい、そうですね。私たちあぐラボでは、食や農に関わるスタートアップ企業のサポートを通じて農業現場や地域社会の発展を目指しています。スタートアップの特徴というのは時間をかけずに一気に成長するところにありますが、農業系のスタートアップというのは、現場で実証実験をするにも年に1回しかできないという課題があります。毎週のようにトライ&エラーを繰り返し、失敗の中からどんどん新しく改善していくプロセスという点では、農業の場合はかなり違います。半年間の実証期間に収穫のテストをするには、小松菜では2~3回できる可能性はありますが、普通は1回です。
――確かに半年間でPDCAサイクルを回すのは無理ですね。
農業分野では、こうした短い期間での現場実証は少し難しいのではないかと思っています。とはいえ、特に最近は脱炭素とか持続可能性というキーワードが注目されています。そういう観点から事業を起こそうというスタートアップ企業が非常に増えています。それぞれ切り口は違いますが、到達目標は共通しているので、いろいろなパターンから組み合わせることもできる非常に面白い場だと感じています。
――あぐラボの中でのコラボレーションの可能性ですね。
はい、そうです。例えば、水田の中干し延長のクレジット化をしている「フェイガー」というスタートアップ企業があるのですが、中干し延長という行為そのものを可視化し、効果を検証するために、もう一つ別のスタートアップ企業「サグリ」が、自ら得意とする衛星データを使うという連携もあります。このようにスタートアップ企業同士のコレボレーションによるシナジー効果が、あぐラボの活動を通じて生まれています。お互いにあまり関係のない会社同士でも志が一緒なので共感し合える。そこからつながってコミュニケーションが非常に深まっていくという良さがあぐラボにはあります。
――経営資源等の個別課題も突破できるかもしれません。
そうですね。一つ一つのスタートアップ企業の経営資源は限られています。マンパワーもそうです。資金調達という点では応援することができる道筋もありますが、人材確保ということになると難しい。せっかく成長できる可能性はあるのに人手が足りないのでチャンスを逃しかねないというケースも出ています。そういった場合に、個別に活動するよりも共通化できることは一緒になっていけば、非常に可能性があると思います。脱炭素はもちろんフードバリューチェーンの構築についても、様々なステージがありますが、点から線につなげ、線から面に広げていくことが、あぐラボの中ではできると私は思っています。
――5年目となり、ソーシャルビジネスの事業採算性は。
繁忙期の人手不足に対応するマッチングアプリサイトなどを運営するスタートアップ企業の「おてつたび」は、もう立派に成長されています。第5期までの採択企業43社のうち、それぞれステージは異なりますが、食や農に関わるスタートアップ企業というのはソーシャルビジネスの側面が強く、世の中に貢献したいと思っている若い人たちが多いのが特徴です。
高機能バイオ炭「宙炭」を通じて持続可能な循環型農業の発展を目指している名古屋大学発のベンチャー企業である「TOWING」の取り組みに注目しています。伝統的な技術を持ちながら全く新しい視点も取り入れ、企業としての採算性を考えながらも農家の皆さんの収益性にも注目している点です。今年の実証実験の結果から次のステップに大きく貢献していくと期待しています。
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