一歩踏み出す実践を 農業協同組合研究会2015年4月30日
食と農を基軸地域に根ざす
今回の農協法改正による「農協改革」ではJAグループの組織・事業・運動を支えてきた前提条件や制度が大転換する。中央会の役割の見直しのほか、公認会計士監査導入やJAの理事構成の要件などいくつもの課題について今後も分析、評価をしながら自己改革を進めていくことが必要だ。その際の大きな旗印が、これまでもJAグループが追求してきた「食と農を基軸とした地域に根ざした協同組合」だろう。その実践はすでに各地JAのこれまでの取り組みに見られる。今回は農業協同組合研究会が4月18日に開いた研究会「現場からみた農協改革と地方復権」の報告や問題提起を紹介したい。
◆組合員から積み上げ
協同組合は事業を利用するだけでなく、組合員が出資し運営にも参加する組織であるなら、改革も組合員の考えから積み上げる必要がある。
その実践は滋賀県のJAグリーン近江にみられる。同JAは昨年5月に規制改革会議が全中の廃止やJAの理事会に販売のプロを外部から導入すべきなどの改革を提起したとき、組合員に対して提起された農協改革論の問題点やJAの考え方を整理し意見を求めるアンケート活動をいち早く行った。組合員から寄せられた声にはJAの事業などへの批判もあったが、「農協がんばれ」の声も寄せられた。
その後、JAグループとしては全中の総合審議会が中心となって自己改革の方向を提示したが、JAグリーン近江は昨年12月に「JAグリーン近江の自己改革組織討議依頼文書」を組合員に向けて発信した。同JAでは各支店に「ふれあい委員」を設置しており、その総数は158名。これに青年部や法人連絡協議会から参画した組合員を集めて今回の自己改革に向けた組織討議の場とした。
岸本幸男理事長は昨年12月の組織討議の呼びかけで「JAの主権者は組合員。しかし、規制改革の考え方は政府が主権者であって、政府がJAを思うままに動かせると考えている」と指摘し「JAは綱領にあるとおり、自主・自立の協同組合。組合員の意思で改革に取り組むのが本筋」、「われわれ現場がどのような改革に進むのか、組合員のための改革となるよう建設的で活発な議論を」と訴えた。
自己改革組織検討会議は15支店のふれあい委員会レベルでの会議と全体会議を合わせ延べ33回の会合が持たれたという。その結果、「組合員と一体となって取り組むJAグリーン近江5つの自己改革」として▽農業と地域社会のために全力、▽組合員の多様なニーズに応える事業方式への転換の加速―など5つの方向を打ち出した(関連記事)。
改革の具体的な課題は組合員の立場から挙げられており、直売所など農業振興の拠点となる施設の将来構想を策定する、暮らしに役立つ情報提供の仕組みづくり、地域の特色や伝来を活かした農産物で付加価値性、物語性の創出などが盛り込まれている。また、職員の人材育成の重要性、支店の協同活動の強化による地域の人々との関係づくりなども挙がっている。同JAでは事業計画、中期経営計画などで具体化を図るとともに同JAの10月のJA大会宣言に盛り込むという。
(写真)4月18日に開催された農業協同組合研究会のようす
◆改めて農業とは何か
組織討議の場では今回の農協改革の内容についても説明し組合員と意見交換した。JAの理事構成については、その過半を認定農業者と農産物販売のプロするなどの規定が盛り込まれる。岸本理事長によると、討議の場でこうした規定を見越して青年農業者に対しJAの役員に就任、経営に参画する意向を聞いたところ、自分の経営で精一杯でとてもその余裕はないのが実態だとの声もあったという。現場の実態に即した改革が必要だと強調している。
また、今回の農業・農協改革は「農業の成長産業化」が叫ばれ、そのもとで農協改革も「農業者の職能組合」という方向が強められた。
これに対して岸本理事長は、組合員をはじめ内外にJAとして発信すべきこととして「農業は単なる生産現場ではなく、水や土地の管理を含め生産と生活が一体となった地域社会形成の場」であると指摘。現場の実態と実感に基づく取り組むが求められる。
◆本質を押さえて改革を
JAおきなわの普天間朝重専務は、昨年の本紙インタビューで今回の「農協攻撃」は50年前に沖縄で起きたことと同じだと、その歴史を指摘し関係者の大きな反響を呼んだ。 今回の研究会でも改めてその問題に触れた。本質は▽農産物の自由化促進、▽そのための農業の大規模化・企業化、▽小規模農家の切り捨てと農協解体、というロジックである。50年前は砂糖の自由化、現在は米をはじめとする重要品目がターゲットになっているTPP交渉が背景だと指摘。時代の変化に合うよう地域の農協の改革が進まないのは中央会(当時の沖縄では農連)が阻害しているから、というのも当時も展開された。普天間専務は「今回の改革について、60年前と環境が変わった、役割が変わったと政府は主張したが50年前の沖縄とまったく同じ理屈」だと批判した。歴史を振り返りどういう時代のなかでわれわれは議論をしなければいけないかを、改めて押さえておく必要があるのではないか。
そのうえで県単一JAとしての合併から今日の到達点までが報告された。沖縄県としては人口が増加しているが、条件不利地域や離島は人口減少が進んでいる。JAの金融、生活事業が住民にとって代替の効かない機能になっている現状と、農業振興も直売所設置、加工施設の整備を進めて農業所得向上につなげている。離島などへの投資も「県単一JAになったからこそできる」取り組みだ強調した。
農産物販売では組合員からの全量・値決め・複数年買取り(作物はシークヮーサー)などを実践し農業所得の安定に貢献し、地元企業との提携による販売事業も展開。新卒者の就職希望先として3年前の29位が今年は4位にアップしたといいJAの存在、評価も高まっているという。
基幹支店52のうち離島16支店。そのうち他に機関がなくライフラインとなっているのが10支店。普天間専務は「大規模化を進めれば離農した離島の人はどこで暮らすのか」と強調。今回の「農業の成長産業化」の議論を念頭に農民作家の山下惣一さんの「儲かる農業は潰れる農業」との指摘を改めて考えたいとした。
◆販売事業をどう伸ばす
一方、開拓から100年余りの北海道の農業の歴史とともに農協の実践と今後の方向を提起したのは、JA帯広かわにしの有塚利宣代表理事組合長。
十勝の農業生産額は約2900億円。都府県順位にあてはめると2014年では8位になる。しかし、1960年代からの自由化による価格暴落で離農が増加するという苦境が続く。そこで十勝では澱粉工場や製糖工場、さらに乳業メーカーの設立など食品加工業への参入による付加価値の組合員還元と、農協同士の協同事業によるコスト低減と効率化だ。また、収益性の高い作物の導入も進めた。そのなかでJA帯広かわにしは、カルビーと提携しポテトチップス原料の提供を始めた。それも産地に工場を設置し産地ならではのジャガイモの風味を活かした商品づくりと、雇用の創出につなげた。企業との連携の先駆けでもある。
また、長いもの栽培と輸出への取り組みでも知られる。ただ、有塚組合長はマーケティングに力を入れるというような“優等生的な取り組みではなかった”という。核家族化が進み長いも一本は好まれずカットして販売することに。また、豊作で価格低下に悩まされることもあった。そのなかで台湾では薬膳料理の材料として大きな丸ごと一本へのニーズが高いことを知る。さまざまに販売努力をするなかで見出した契機を輸出につなげた。現在では輸出先は米国などにも広がり、国内の需給調整にも役立ち農家の経営安定につながっている。
こうした販売事業の取り組みで農業振興を図っているが、准組合員数は1万人を超える。過疎が進む地域ほど准組合員からJAの店舗が求められているとして、運営には准組合員を運営委員とするなど、地域の暮らしを支える事業に住民の意思を反映させる工夫をしていることも指摘した。准組合員の意思反映、共益権問題も今後、積極的に検討していくことが求められる。
(関連記事)
・【シリーズ・農協改革元年 地方創生の主役は農業協同組合】「現場からみた農協『改革』と地方復権」 農業協同組合研究会 第22回研究会
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