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2017.02.12 
トランプの影にウォール街:経済評論家 内橋克人氏一覧へ

どうするこの国のかたち【農協協会新年の集い 新春講演会】

 1月27日に都内で開いた農協協会新年の集いの特別講演会で、経済評論家の内橋克人氏、東京大学教授の鈴木宣弘氏、JAふくしま未来代表理事組合長 の菅野孝志氏にご講演いただきました。出席できなかったという方のために講演内容を掲載いたします(他2名の講演内容は文末にリンク)。

経済評論家  内橋克人氏 時間が限られておりますので、本日は次の3点に絞って話したいと思います。第一に「トランプ大統領のアメリカ」をどう解釈すべきか。皆さん方が強く反対してこられたTPPですが、トランプ氏は就任直後の大統領令で直ちにTPPからの永久離脱を表明しました。しかし、これをもって皆さん方の中に「私たちが反対してきた通りになった。私たちが正しかった」などと考える人がいたら、それは「とんでもないお門違い」と申し上げておかねばなりません。
 どこが間違っているのか。トランプ氏のいう「アメリカファースト」なるものの実像に迫りつつ、いまアメリカと世界に何が起ころうとしているのか。ともに考えを深めていきたいということです。
 第二に、いわゆるトランポノミクスのもと、それではアベノミクスはこれからどうなるのか。この点につきましては、これまで何度も農業協同組合新聞紙上でも述べて参りましたところでもあり、時間が許せば、ということでお許し願いたいと思います。
 第三に、そうした厳しい内外情勢のなか、皆さん方、すなわち「協同組合」はいかにあるべきなのか。故宇沢弘文先生が唱えられた経済学の基軸概念、すなわち「社会的共通資本」をいまに蘇らせつつ「協同組合の新たな使命と役割」について、私の考えをお聞き頂きたい。
 ざっとこのように考えます。なかでも皆さん方のご関心はやはり「覇権国アメリカのこれから」にあるでしょう。時が時でもあり、以上に挙げましたテーマのうち、第一についてやや詳しく話すことにしましょう。
 トランプ大統領をめぐっては全米で完全に意見が分断されていること、ご承知のとおりです。たとえば著名な映画監督マイケル・ムーアと、同じく著名なオリバー・ストーンとの間でさえ大きく異なっています。マイケル・ムーアは『華氏911』や『シッコ』で知られ、痛烈なトランプ批判派です。トランプ勝利を耳にしたとき、彼はひるむことなく「私たちは負けた。人種差別主義者、ナルシスト、ウソつきのトランプが勝った。もう終わりだ」とツイートし、大きな波紋を広げました。 
 一方のオリバー・ストーンもまた苛烈な"新自由主義アメリカ"批判の急先鋒。脚本家としても知られ、数々の国際賞の受賞者です。そのオリバー・ストーンは「仮にトランプのいう"アメリカファースト"が、今後アメリカは海外に不当介入はしない、という意であれば、私たちは別の角度からトランプを評価し直してもよいのではないか」と各所で発言しています。私たち日本人はどう受け止めるべきなのでしょうか。まずは「トランプ人事」の詳細を解明すべきと私は考えます。
 選挙戦中、トランプ氏はホワイトハウス、既存の権力中枢、ウォール街などを激しく攻撃しました。が、はっきり指摘しますと、トランプ氏こそは「ウォール街との利益共有者」であるということです。彼はまず『ドッド・フランク法』、正式名は『ドッド=フランク・ウォール街改革および消費者保護法』という長い名の法律ですが、その廃止を宣言しました。この法律は例の「リーマンショック」による世界経済危機を契機に、オバマ政権のもと、2010年7月に定められた「金融規制法」です。 
 もっと遡れば、あの1929年、世界を破滅に導いた「世界恐慌」を再び繰り返さないように、と、時のルーズベルトが「大統領令」でもって制定した『グラス・スティーガル法』に発する「金融規制」に至ります。「金融・証券の分離」を厳しく求めたものですが、それがクリントン政権下、廃止された。つまり「金融規制緩和」ですね。これがその後の「リーマンショック」へと結びついていく。そこでオバマ政権は再び金融秩序の回復をめざして「ドッド=フランク法」を制定したわけです。恐慌の元凶である金融、言葉を換えていえばウォール街の規制を強化し、再びの経済危機を阻止する、と。が、むろんのこと、ウォール街は大反対でした。
 そこへ現れたのがトランプ新大統領。この「ドッド=フランク法」を廃止する、と。それこそ「マネー」の望むところです。白人下層の人びとを取り込むため「反マネー」「反ウォール街」の"仮面"を装いつつ、その実、数々の経済撹乱、恐慌を仕掛けてきたマネーの元凶、すなわち「ウォール街」と利益を共にしている。これがトランプ政権の正体です。
 以上のことは「トランプ人事」が見事に証明しています。顔ぶれを見て下さい。ウォール街最大手の証券会社・ゴールドマン・サックスから財務長官はじめ3人を起用。そもそも国務長官ティラーソンからして石油大手エクソンモービル会長兼最高経営責任者だった人物。ミリオネアーと軍人、親族だけで占めるトランプ人事。世界の警戒感はいやが上にも危険水域に達しています。おっとり刀ではせ参じ「トランプ氏は信用できる政治家」と公言したのは安倍さんだけ。2月10日予定の会談も日本側から願い出たものです。
 強調しておきたいことはトランプ氏の通商戦略は「二国間」主義にあること。日本に対しては、すでにムリヤリ国会を通したTPPでの諸条件を「ミニマム」、つまり最低条件として、それプラス「いかにアメリカに有利な譲歩を積み増しさせるか」に絞られています。
 これがトランプ流の「FTA」であり、いま自動車産業や円安誘導を例に、強烈な日本叩きを始めているトランプ砲の向かう先は、TPP合意の「積み増し」にあること、強調しておきたいと思います。こちらから頭を下げて「日米トップ会談」をお願いした、という経緯を日本のメディアは一言も報じておりませんが、海外ではこれを"朝貢外交"と蔑(さげす)む報道があい次いでおります。2月10日、何が決まるのか。私たちは気を緩めるわけにいきません。例の「メキシコの壁」にしても、ヒト・モノは防げても、世界を駆け巡る「マネー」の奔流をせき止めることはできません。トランプ政権下、ウォール街発マネーの奔流は世界に獲物を求めて乱舞するでしょう。「アメリカファースト」をもって「世界市場化」「グローバル化」の勢いは終わるのではなく、「マネー」を主役に猛然と加速する。JA共済なども標的のひとつです。
 さて、こうした世界情勢のもと、いま協同組合は何をなすべきでしょうか。これまで各所で話して参りました私の考えを要約して終わりの言葉としましょう。協同組合は何よりも「自覚的消費者」を育てること。モノの値段は安ければ安いに超したことはないが、しかし、いったいそれはなぜ安いのか、を問うことのできる消費者を一人でも多く育てなければなりません。
 第二に冒頭でも触れた「社会的共通資本」。誰のものでもない、みんなのもの、それが協同組合であること。その概念を掘り下げる。
 第三にFEC自給圏の形成を目指すこと。私が何度も話してきたことなので、ここでは繰り返しません。四番目は「社会的有用労働」に目覚める、ということ。そして最後、五番目に「市民資本の育成」に向けて全力あげて取り組むこと。
 昨年、皆さん方の「協同組合」はユネスコの「無形文化遺産」に登録されました。私の知る限り、日本のメディアでこれを報じたものは皆無でした。マネー資本主義が跳梁をつづけるなか、「もう一つの経済」としていかに協同組合が貴重な、高い使命と役割を果たしていくのか。ドイツからの申請が認定のきっかけとなりました。皆さんと喜びを共にしたい、と願っています。JAあずみの「くらしの助け合いネットワークあんしん」が取り組んでこられた「できる人が、できるときに、できることを」の精神と仕組みのあり方、全国に向けて発信して頂きたいものです。私は協同組合に大きな夢を託しております。
 権力にすり寄ってそのおこぼれに与(あずか)る、それだけは協同組合の「あってはならない姿」です。ますます厳しく困難な時代、協同組合こそは社会の「よき指針」であって欲しい、と切なる私の祈りをもって終わりたい、と思います。ありがとうございました。

(他の講演会内容)
「農協改革」は農協潰し:東京大学教授 鈴木宣弘氏
合併し組合員と会話保つ:JAふくしま未来代表理事組合長 菅野孝志氏

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