全農が取り組む農業ICT 営農管理からドローン活用まで JA全農永島部長が講演2019年10月16日
農業の総合展示会「第9回 農業Week」(10月9~11日)が千葉・幕張メッセで開かれ、国内と海外から680社が出展し3日間で約4万人が来場した。最終日の11日には、JA全農 耕種総合対策部の永島聡部長が「JA全農がめざす農業ICTの取り組み」をテーマに講演し、日本の農業の現状と全農の基本戦略、農業ICTを取り入れたスマート農業への取り組みを説明したが、その要旨を紹介する。
幕張メッセで行われた「農業Week」の会場
日本の農業の就業人口は1995年の400万人から2017年には180万人にまで激減している。平均年齢は約67歳と高齢化が進み、離農者から田畑を委託された担い手や集落の営農法人に土地が集中し大規模化。こうした法人による経営体は2015年時点で約1万9000件あり、日本の農産物の約3割を担っている。
一般的に大規模化すればコストが下がり、より効率的な農業ができそうだが、従来と同じ生産技術体系では一定の規模を超えると規模の効果が出にくく、10haを境に生産性が鈍るという。また、担い手に集まった農地は、実際には土地が離れて分散しているため、作業効率が上がらない。こうした状況を破るため、「ICT技術をフルに活用し、労働生産性と土地の生産性を高める取り組みを全農で進めていく」と永島部長は語った。
◆土壌解析やセンシングデータなど連携が進むZ-GIS
その中心となるのが、全農が推進する圃(ほ)場管理システム「Z-GIS」の活用。ほ場の情報をインターネットの電子地図と関連付けることで、ほ場の利用状況や栽培環境を見える化し、効率的な営農管理を助ける。また、担い手の経営改善や、JAが行う生産振興も支援する。
導入事例として滋賀県の営農法人では、米、麦、大豆の約240筆を通し番号で管理していることを紹介。Z-GISで品種、管理者の情報を登録し、これまで手書きで作っていた作業指示書をプリントアウトして使うなど管理が効率化したという。
また、ブランド米の「コウノトリ育むお米」で知られる兵庫県のJAたじまでは生産者がZ-GISにより作業記録やGAPの生産履歴にも活用。さらに、JA鳥取中央は、管内約7万のほ場を登録する台帳を作成し、県オリジナル米「星空舞」の900筆の管理に使っている。今後は無人ヘリ防除など作業の管理効率化に活用する予定だという。
土壌分析やセンシング、気象などのデータをほ場の位置情報とリンクさせる機能拡張も順次進めており、直近ではNTTデータの営農管理システム「あい作」とのデータ連携が可能になった。今後は、人工衛星のリモートセンシングデータと連携し、衛星でセンシングした生育状況を品種別に表示したり、解析データを地図画面で見える化するなどの取り組みも進めていくという。
Z-GISは、エクセルによる管理がベースとなっており使いやすいのが特長。登録100ほ場ごとに月額200円と利用しやすく、「無料お試し期間を一度使ってみて」とアピールした。
講演する永島部長
◆Z-GISとのリンクで経営改善するZ-BFM
Z-GISとリンクすることで農業経営のPDCAを回すことができるようになるのが、全農が農研機構と共同開発した営農計画策定支援システム「Z-BFM」だ。雇用人数や作付け面積などの経営概況や労働条件を入力し、作付け作目を経営指標から選択し、所得を最大化するための営農計画案をシミュレーションできる。「グラフなどで見える化でき、経営者が来年の計画などを意思決定するときに使われている」という。
また、インターネットでJAや生産者の営農活動を支援する会員制サービス「アピネス/アグリインフォ」は、3000件以上の農薬登録情報、1キロメッシュ気象情報、病害虫雑草図鑑、技術・営農情報の4つのサービスを提供。事前に登録した気温、降水量、風速、降雪、霜、積算気温の基準値を超えるとアラートで知らせる機能を追加し、新たにリスク管理面を強化した。
◆空中散布に使える登録農薬数を大幅増
スマート農業の普及、開発に向けて、全農は完全自動飛行型ドローンを開発するナイルワークスに出資し、精度の高い農薬散布やAI技術を用いた生育診断のための実証試験を行っている。現状では、野菜と果樹で空中散布できる農薬が少ないことがネックになっているため、2022年度末までに野菜類で現在の2.5倍の121剤、果樹類で同3.8倍の69剤まで登録数を増やすことを目標にしている。
また、水稲管理で農家が費やす時間の2~3割を占める見回りや水管理の作業を軽減するため給水の自動化にも力を入れ、よりシンプルでメンテナンスがしやすく低コストの自動水門「農匠自動水門」の普及も行っている。
ナイルワークスの展示ブース
◆高軒高ハウスで多収めざす「ゆめファーム全農」
一方、施設園芸では高軒高で長期で収穫し多収安定経営をめざす「ゆめファーム全農」の取り組みを紹介した。2003年から栃木の「ゆめファーム全農とちぎ」で始めたトマトの生産は安定的に10a当たり年40tを収穫するまでになった。2017年には高知の「ゆめファーム全農こうち」でナスの実証を開始し、今年12月には佐賀でキュウリの10aあたり50tをめざす「ゆめファーム全農SAGA」を開く予定。ゆめファームの事業を通して培った技術を全国に広め、新規就農者も受け入れていくという。
永島部長は「全農はいろいろな技術を活用しながら生産基盤をしっかり作り、農家所得の向上を実現できるよう全力で取り組んでいく」と締めくくった。
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