【今年の焦点 都市農業】三大都市圏 生産緑地保全 2021年が鍵2021年1月14日
特定市街化区域農地で指定されている1万2000haの生産緑地は、2022年にその8割にあたる約1万haが指定から30年を迎え、買い取り申し出が可能となる。ただし、法律改正で引き続き生産緑地として指定を受ける特定生産緑地制度が創設されるなど、都市で貴重な農地を残していくことはできる。そのため3大都市圏特定市のJAにとって情報提供や相談対応、農地活用提案など組合員への取り組みが今年の焦点となる。
2022年問題 不安あおるハウスメーカー
生産緑地指定の急速な解除による農地の大幅な減少とともに、その農地が不動産市場に供給されることによる地価の暴落や活用されない空き地の発生などを指して「2022年問題」と言われている。ハウスメーカーなどはセミナーなどで不安感をあおっているという。
一方では都市の空家問題は深刻化する。野村総研による予測では空家率は2018年の16.9%が2033年には30.2%に上昇すると予測している。既存の住宅を除去したり、住宅以外への有効活用が進まなければ2033年の総住宅数は約7100万戸となり、そのうち実に約2150万戸が空家になるとの予測だ。
こうした状況を見据えた対応が必要になる。とくに都市農業政策をめぐる変化について改めて認識することが大切だ。
2015(平成27)年に国会で全会一致で成立した都市農業振興基本法とそれに基づく都市農業振興基本計画(2016)では、都市農地をこれまでの「宅地化すべきもの」から「都市にあるべきもの」へと180度大転換した。国民の7割が都市に住むなか、都市農地は農業や農業政策に対する国民理解をつくるための「身近なPR拠点」と高く評価した。
そのうえで2017(平成29)年には、指定後30年を経過した生産緑地にも引き続き税制上の優遇が確保される特定生産緑地制度を創設した。JA全中は三大都市圏の最重点取り組み事項として特定生産緑地への指定促進を上げている。その背景には2020年の意向調査で生産緑地指定を受けている農業者の約3割が特定生産緑地への指定意向が明らかでないことがある。さらに半数以上の自治体が2021年末までに申請受付を終了する見込みであることも分かった。
生産者の不安解消を
2021年が重要な年だと強調するのは、こうした危機感が背景にある。指定促進のために使いやすくなった都市農業関連制度を整理しておく必要がある。
生産緑地に指定されると農地として評価され課税されるため固定資産税と都市計画税が大幅に軽減される。一方、本則課税に達していない市街化区域農地は、今後の税負担が増加することが見込まれている。ここが生産緑地指定のメリットとなる。
今回は生産緑地法の改正内容について整理しておく。
1つは生産緑地の面積要件の緩和だ。もともとこの制度は農地の全面積を指定するのではなく自分で指定することができる。その下限面積を500m2から300m2に引き下げ小規模農地も指定できるようになった。生産緑地地区内で直売所や農家レストランなどの設置が可能になった。それらに加えて10年更新の「特定生産緑地制度」である。
特定生産緑地を後から指定することはできない。そのため2021年が申請終了であれば対応を急がなければならない。特定生産緑地を選択しない場合、固定資産税・都市計画税の負担が1年ごとに急増し5年後には宅地並み課税になるといわれる。
相続面でも特定生産緑地を選べば次の相続でも選択肢が広がる。また、相続税納税猶予制度を利用した生産緑地の貸借が可能になる。これは「都市農地貸借円滑化法」の特例によるもので、相続税納税猶予を受けている農地を貸借しても猶予は継続される。貸主が一定の作業に従事することで「主たる従事者」とみなされることになったからだ。一方、特定生産緑地を選択しない場合は次世代が相続税納税猶予を受けられなくなる。
JA全中では2021年のJAの取り組みの例として以下のような具体策を示す。
【ステップ1:自治体・農業委員会との情報共有】
自治体と協議を行い特定生産緑地制度の申請受付期間のスケジュールを把握。2022年も特定生産緑地指定の申請ができるよう柔軟な対応を働きかける。また、意向が明らかでない農家への対応を確認する。
【ステップ2:集中支援期間の設定と具体策の検討実践】
2021年中に集中支援期間を設定し、集中した効果的な指定支援を行う。意向が明らかでない農家への個別対応など具体策を検討・実践。必要に応じてプロジェクトチームの設置など一時的な体制強化。
【ステップ3:集中支援期間終了後の状況共有と対応検討】
残された期間への対応と2023年以降に期限を迎える農地対応の検討。
都市農業は新鮮で安全な農産物の供給だけでなく、環境面、防災面、福祉・教育面などで多様な機能を発揮しており、都市住民から期待されている。そうした農地を残すために必要な情報提供と相談、土地活用提案や仲介、相続事前準備などに総合的に取り組むことができるのはJAだけである。「それが都市部のJAの存在意義の大きな柱」(JA全中)との認識で取り組みを進めることが求められている。
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