【農中総研緊急フォーラム】食料安保に危機感を 生産基盤維持が最重要2022年4月15日
農林中金総合研究所が4月13日にオンラインで開いた緊急フォーラム「世界と日本の食料安全保障~ウクライナ情勢を受けて~」の後半は同研究所執行役員の平澤明彦基礎研究部長が「国際情勢と日本の食料安全保障 ~その特質と課題~」と題して講演した。
平澤明彦基礎研究部長
乏しい農業資源
平澤部長は▽日本の基礎的な条件と課題、▽食料確保のリスク、▽国際的に見た日本の位置の3点を中心に話した。
日本の根本的な問題は農地資源の乏しさ。モンスーンアジアは水田農業を背景に、人口が多いが一人当たりの耕地面積が少ない国が多く、日本は人口1億人以上の国としては世界でもっとも一人当たり耕地面積が少ない。
現在の食生活を維持するには日本の3倍の農地が必要で農産物の輸入は不可避となっている。ただ、不足するものだけを輸入しているわけではなく、安価な輸入農産物に国内市場が侵食され、平澤氏は「農地が足りないにも関わらず耕作放棄が進むなど生産基盤が脆弱化していることが問題」と指摘した。
輸入のリスク高まる
海外から食料を調達するには経済力が重要となる。高度経済成長期以降は値上がりしても欲しいものを海外から買うことができた。しかし、近年、日本の経済的地位は低下し、買い負けが増加している。
また、貿易は平和が前提で国際市場が機能しない緊急時には経済力があっても解決できない。戦争となると貿易制限や輸出量の割り当て、さらに禁輸など措置が取られれば経済力では解決できない。2007~8年の食料高騰時には南米やロシアなど多くの輸出国で輸出制限をした。今回のウクライナ危機でFAOは3月に米国による小麦の輸出制限の可能性も示唆した。
国内生産と流通には緊急時に統制が可能だが、輸入食品の海外での生産や輸送に対して、日本の主権は及ばない。
大規模な輸入によるリスクもある。輸入先の変更が簡単ではないことや、日本の行動が国際市況に影響しかねず、機動的な対応が難しい。こうしたことから平澤部長は「最低限の国内生産を維持する必要性がある」と、国レベルの食料安全保障がますます重要になっていると強調した。
食料安保の重要性について国民的議論を広めるには、国際情勢の変化を認識する必要もある。
EUは食料安保に力
平澤部長は2000代に入ってから中国にみられるように大量輸入国が複数台頭してきたことや、ロシアや南米、黒海地域が輸出を拡大してきたが、作柄に加えて、まさに今回のような政情不安、禁輸などリスクがすでに高まっていたことを指摘した。
また、中国は輸入は行うが対米依存への警戒から輸入先の多元化をめざすとともに、今回の事態を受けて食料自給指向を強めている。ロシアも2014年のクリミア侵攻以降、西側諸国による経済制裁への報復で農産物の禁輸を行うとともに、国内農業を振興して、畜産物などの自給体制をつくってきたという。
EUでは2023年からの次期農業政策で目標の第一に食料安全保障を明示し、所得支持のための直接支払いもEU全域で農業生産を維持するため、と位置づけられた。
今回のウクライナ危機にもすでに対応し、直接支払いの環境要件を1年間緩和し、環境重点用地での作付けや、農薬使用を許可しているという。
スイスでは2017年に憲法に食料安全保障の条項を追加した。
これに対して日本の食料・農業・農村基本法では理念の第一が「食料の安定供給の確保」で国内生産の増大を基本として、適切な輸入と備蓄を組み合わせるとしている。このうち国内生産については2015年基本計画から食料自給力指標を打ち出した。
日本の自給力低下
その指標では現状が続けば2030年までに推定必要熱量を供給できなくなる見込みだ。これが示すのは農業生産基盤の縮小で「国民を養うのに必要な最低限の国内生産すら難しくなりつつあること」。
平澤部長は、旧農業基本法では「選択的拡大」という言葉に示されているように「何をどうつくっていくか」が示されていたと指摘、その一方、現在の食料・農業・農村基本法では「どういう農業にしていくかが示されていない」と強調する。
品目転換が大きな課題
参加者からの質問には「水田の活用が重要ではないか」との意見があったが、平澤部長は農地は不足しても米が余っている状況が50年来続いており、今後は水田で生産するものそれ以外の農地でどのような食料を生産するかを検討するべき時に来ていると強調した。人口減と担い手も減るなか、「水田を活用すれば何とかなる、という時代ではなくなった」と話す。
一方、国内生産の縮小は工業製品を輸出するかわりに農産物貿易を自由化する政策の結果でもある。自由化は今やTPPをはじめとするメガFTAの時代となった。参加者からは、条件が不利でも自国で農業生産ができるよう農業保護や互恵的な観点の協定を世界の食料安保のために構想することも必要ではないかとの指摘もあった。
この問題について平澤部長は、内外価格差が大きいという日本農業の現状を現行の協定のなかでいかに支えるかという議論をして、生産基盤の維持が最重要となっていることを国民が理解していくことが必要ではないかと提起した。
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