【農業改革、その狙いと背景】家族農業の衰退を招くな~農委と農地制度の見直し~ 井上和衛・明治大学名誉教授2014年7月8日
・岩盤規制崩せ!農業改革の狙い
・農業委制度は解体し再編へ
・法人要件見直し所有緩和が目的
6月24日に閣議決定された政府の「規制改革実施計画」と改訂された「農林水産業・地域の活力創造プラン」に盛り込まれた農業改革は農協だけでなく、農業委員会と農業生産法人の要件見直しも対象になっている。安倍総理は「3点の改革をセットで断行していく」と強調している。その狙いと背景は何か。井上和衛・明治大学名誉教授は農業の成長産業化の名のもとに農外資本の導入を促進するもので家族農業が衰退すると警鐘を鳴らす。

政府の規制改革会議・農業ワーキンググループは、5月14日、農業委員会、JA、農業生産法人の見直しを盛り込んだ「農業改革に関する意見」を発表した。「意見」は、戦後日本の農業・農村を支えてきた農業委員会と農業協同組合の制度的な組織解体につながる大胆なものだった。関係団体組織および農村の現場からは、直ちに反対の声が上がり、広がった。
規制改革会議は、6月13日、自民党農林議員からも反対意見や慎重論があり、自民党との若干の調整を図ったが、基本的に「意見」を受け入れた「規制改革に関する第2次答申」をまとめ、安倍晋三首相に提出した。安倍政権は6月24日に同答申に基づく農業委員会・JA・農業生産法人の見直しを取り入れた「骨太の方針」「新成長戦略」「規制改革実施計画」を閣議決定するとともに、「農林水産業・地域の活力創造プラン」の改訂を行い、次期通常国会(2015年1月)に提出する関連法案改正の準備にとりかかることになった。
◆岩盤規制崩せ! 農業改革の狙い
今回の「農業改革」は、安倍首相の執念である「戦後レジームからの脱却」、新自由主義に依拠した安倍政権のアベノミクス「成長戦略」の推進、その具体化に当たって邪魔な「岩盤規制」と認識している戦後民主主義の創り出した農業・農村の制度的枠組み(農業委員会、農協、農地制度等)の解体に向けた取り組みが背景となっている。
農業委員会と農業生産法人の見直しについては、結論を先にいっておくと、その究極の狙いは農外資本の農業進出、農地所有の実現に向けた規制撤廃である。それは、今後、TPP(環太平洋連携協定)交渉のゆくえとも絡んで、わが国の農業・農村を支えてきた家族農業経営の大幅な衰退につながり、農業・農村に深刻な事態をもたらすものとなる。
◆農業委制度は解体し再編へ
農業委員会等の見直しについては、▽公選制から市町村長の選任制へ変更、▽委員数の半減、▽農地利用最適化推進委員の新設、▽意見の公表・建議・諮問答申の法令業務からの削除、▽都道府県農業会議・全国農業会議所制度の指定法人化など、組織の根底を覆す内容となっている。農業委員の公選制廃止(市町村長の選任)・半減は、地域の農地管理・利用調整が市町村長の意のままにすすめられ、市町村長の意向次第では、地域の農業者多数の意に反した農外資本の農地転用、農地集積に歯止めがかけられなくなる恐れが生じる。 これまで農業委員会は、適正な地域の農地管理・利用調整の取り組みとともに、法令業務として位置づけられた「意見の公表・建議・諮問答申」の取り組みにより、農業者の意見を行政庁に反映させてきたが、その役割は農業委員会等の見直しで失われることになる。
現行の都道府県農業会議・全国農業会議所の廃止・指定法人化は、これまで「市町村ー都道府県ー国」を結ぶ系統組織として機能し、農業委員会の法令業務に基づく行政事務のサポートと同時に、全国的な農政活動の展開を支えてきた系統組織としての農業委員会制度の解体を図るものである。 都道府県農業会議・全国農業会議所の指定法人化によって、農業委員会の「ネットワーク化」を図るとしているが、それは、系統組織としての農業委員会制度を単なる意見交換・交流程度のものに改変してしまうことに他ならない。要するに、今回の「農業改革」は、農業者主体の農業委員会制度を廃止し、市町村長選任の「農地利用最適化推進委員の新設」、「農地利用状況調査の公表」と合わせて、農地に関する農業委員会の権限を市町村と農地中間管理機構へ移し、農業委員会の農地中間管理機構の農地集積に役立つ下請機関化を図るものに他ならない。
◆法人要件見直し所有緩和が目的
農業生産法人の見直しでは、農地を所有できる農業生産法人の要件を緩め、農地制度の規制緩和を図り、農外資本の積極的参入をめざすことにしている。
農地を所有できる農業生産法人の要件は、役員の農作業従事要件として、現在、「過半が農業の常時従事者(原則年間150日以上)」で、このうち「過半が農作業に従事(原則年間60日以上)」であるが、「役員か重要な使用人のうち1人以上が農作業に従事する」に見直し、また、出資者構成員要件として、議決権を持つ出資者の構成割合は、現在、「農業関係者は4分の3以上」「農業関係者以外は4分の1以下」であるが、これを見直し、農業関係者は「半分超」とし、農業者以外は「半分未満」に変えて資本増強が図れるようにした。
要するに、農地を所有できる農業生産法人の要件を緩め、農地制度の規制緩和を図り、農外資本の積極的参入をめざしている。規制改革会議・農業ワーキンググループ「農業改革に関する意見」では、農地を所有できる農業生産法人の事業要件=「農産物の加工・販売などの関連事業を含め、農業の売上高が全体の過半を占める」=の廃止を求めていたが、自民党との調整の結果、「規制改革に関する第2次答申」では、農外資本の農地所有に限りなく近づく事業要件の廃止は見送られた。
しかし、「答申」では、「事業拡大を進める意欲的な法人にとって、農地を所有できる法人の要件が成長の壁になっている」と指摘しており、今後、事業要件の廃止を含め法人要件の緩和が継続し、農外資本の農地所有に大きく道を開く可能性を残している。要するに、安倍政権の新自由主義的「農業改革」は、国連による「国際協同組合年」「国際家族農業年」の設定にみられる「協同組合」「家族農業」重視の今日的な国際的潮流に逆らい、「協同組合」「家族農業」の価値を否定し、市場原理優先の企業による農業・農村支配をめざすものに他ならない。いま、財界主導の「農業改革」に対し、地域からの反撃を強め、全国に拡げていくことが喫緊の課題となっている。
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