JA解体の第1弾 監査機能を剥奪し中央会の無力化へ 福間莞爾・新世紀JA研究会顧問2014年10月23日
・全中「社団化」の意味
・解体への政策誘導
・国家を存亡の危機に
政府による農協改革の方向は、単協が営農経済事業に専念し農業者のための組織としての機能発揮するよう迫る。そのために単協が自立することがもっとも肝要なのだと強調するが、実は安倍総理が機会を捉えてアピールしているのは「60年ぶり」の農協改革だ。つまり、60年前の昭和29年(1954)に制度化された中央会がターゲットにされているといえる。総理は「現在の中央会制度とは異なる制度への移行」と度重ねて発言しているが、実は、これはJA解体への第一歩を意味している。とりわけ中央会監査制度は、中央会事業の根幹であり、一般社団法人化によってこの機能がなくなれば、中央会は一挙に無力化する。「全中はなくなるが県中は維持され、そのもとで農協の自己改革を進めればいい」といった声を地方から聞くが、そんな中央と地方の分断政策にこそ問題の本質をそらす意図がある。
◆全中「社団化」の意味
政府による「規制改革実施計画」がさる6月24日閣議決定された。また同時にJAの自己改革を踏まえて来年以降の法案審議に反映させるという。これを受けてJA全中では有識者会議や総合審議会を開催して自己改革の内容を審議している。しかし、どうやらこうしたことは意味をなさず、政府はシナリオ通り一方的なJA解体を進めようとしていることがはっきりしてきた。
そう考える根拠は中央会からの監査機能の剥奪である。周知のように、中央会監査は農協法で法定化されており、中央会事業の根幹をなしている。「実施計画」では、中央会制度の新制度への移行が決められているが、中央会監査の是非についてまでは触れられていない(もちろん中央会規定が農協法から削除されれば監査が法定化されないぐらいのことの認識はあった)。それが今回、中央会監査についてその法的根拠を無くするということがはっきりしてきた。いわゆる中央会の一般社団法人化である。
中央会から監査事業を取り上げるということは、全農から販売・購買事業を取り上げるのと同じことを意味する。これにより中央会は実態のない全くのサロンになってしまう。要するに新制度への移行といっても、その内容は中央会を根こそぎ消滅させることであることがはっきりしてきたのである(これまで中央会監査はJA指導に十全の機能を発揮したことに目を背け、強引に監査権の剥奪を図ることは、それが中央会を潰す最も効果的な方法であるからだ)。政府は今後のJAの自己改革の内容を見て新制度への移行など制度の見直しを検討するといってきているが、これも全くの嘘っぱちであることが明らかとなった。結論は最初から決まっていたのである。
「規制改革会議」の農業ワーキング・グループ金丸座長は、「提言」はJAの経済事業強化であり農協解体の意図はないと発言しているが、これも当人の意志かどうかは別にして、周到に仕組まれたJA解体の意図を明確に持ったものなのである。
(写真)
福間莞爾・新世紀JA研究会顧問
◆解体への政策誘導
政府が閣議決定した「実施計画」の内容を筆者なりにまとめれば、[1]JAの運営を販売専門農協的運営へ転換する、[2]JAを営農・経済事業に全力をあげさせるため信用・共済事業を分離する、[3]組織再編として株式会社の運営とする―全農・農林中金・共済連のJA出資の会社化、[4]JA理事の経営のプロ化、[5]中央会制度について、JAの自立を前提とした自律的な新制度への移行、[6]准組合員の事業利用制限の検討であり、それは政府によるJA改革の「仮説的グランドデザイン」ともいうべきものだ。
「仮説的グランドデザイン」とは、時期を定めて必ずこうしようというものでなく、将来の望ましい姿を描き、それに向かって政策誘導を行うというものだ。このため、JAグループ関係者には、そうしたことはJAが了解しないと無理だ、どうせそんなことはできっこないなどという高をくくった意見が多い(今回のJA批判の内容については、詳しくは近・拙著『新JA改革ガドブックー自立JAの確立』:全国共同出版刊を参照されたい)。
だが、今回中央会からの監査事業の法的根拠の剥奪が明らかになったことにより、次のようなシナリオが浮かび上がってきた。
それは、第1段階:JAの総合調整機能を果たしてきた中央会の無力化、第2段階:信用・共済事業のJAからの分離と事業連の会社化、第3段階:JAの解体、最終章:助けあいといった協同組合組織の壊滅化と競争原理一色の社会の実現といったものである。
第1段階で中央会の無力化が行われれば、JA間および、JA・連合組織間の連携・統制が取れなくなり、JAグループはかつて、自民党の金丸信が言った「馬糞の川流れ」状態になる。信長が桶狭間の戦いで今川義元一人の首をとることで勝利を得たように、JAグループを壊滅状態に導くのは中央会とりわけJA全中の首をとればいいということを十分に熟知しそれを見越した極めつきの戦略なのである。
このような状況を見計らって続く第2段階では、全農の会社化(すでに農水省の説明資料『攻めの農林水産業』では、全農を式会社に転換できるよう法整備すると明記されている)と信用事業の単位JAから農林中金への事業譲渡を進め、最終的には農林中金や共済連も会社化する。
そして第3段階では、ねらいどおり総合事業を否定され、組合員の協同活動を奪われたJAは経営体として維持が困難になりやがて消滅する。かくして不効率な協同組合という厄介な存在はなくなり、弱肉強食で生き残ったものだけが支配する社会をつくる、というものだ。
「規制改革会議の提言」、「実施計画」では、ことあるごとに今回の改革は単位JAの強化を目指すものということを言っているが、それはとんでもない欺きの言葉なのだ。現に、「提言」に基づく農水省説明では、全中は役割が終わったが県の中央会は必要だとか、単位JAの存在は重要であり機能強化が必要だとか、指導機能は事業をやらない中央会にできるはずがなく事業連が持つべきとか、JAと連合組織間、また中央会と事業連間の分断をあおる発言が意図的に行われており、それは極めて巧妙かつ悪質なものだ。
この結果、県中央会からは全中は大変ですねと言った他人事の意見が出されたり、経営指導は全中でなく農林中金で行えばいいなどの雰囲気が生まれたり、最悪なことに中央会の新制度移行や全農の会社化のことはJAにとっては対岸の火事のように見られており、JAに全く危機意識がない状態が生まれている。今回の中央会からの監査事業の剥奪提案により、われわれはJA解体の第1段階が踏み出されたことを認識すべきであり、総力を挙げて「提言」を受けた政府案の撤回に向けて行動を起こす時期に来ていることをはっきりと自覚すべきである。
ことは、中央会やまして全中だけのことではない。今回の政府提案は明確にJA解体を意図したものであり、JAグループは総力を挙げて反撃に出なければならない。今回のJA批判はまさかのことがたびたび起こるのが特徴だ。中央会解体や全農の会社化、信用事業の事業譲渡などいずれもまさかのことが次々と提案され十分な議論もなく実行に移されようとしている。今回の提案は、仄聞するところによれば、官邸筋と一部農水官僚による合作と言われるだけに用意周到で、甘く見ていると取り返しのつかないとんでもない事態を招く。前述のまさかと思われる「仮説的グランドデザイン」は今後着々と実行に移されると考えた方がいい。
◆国家を存亡の危機に
筆者は、かねてから世の中は競争・助けあい・自己保全の三つの要素(人間の本性・Human Nature)で動いており、この微妙なバランスのもとで良き社会が生まれると考えている。ところが、閉塞状況を打破するために競争社会のみが突出する社会をめざした市場原理・新自由主義の政権運営が行われている。これはまた民衆に迎合し、支持を得るための安直なヒットラー的政権運営と言っていい。競争・助けあい・自己保全の三つの要素のバランスが崩れれば、助けあい組織たる協同組合ばかりではなく、国家の存立さえも危うくする。
日本は、武力行使の戦争にこそ参加していないが、別の形で国家間の戦争を仕掛けている。それはグローバル化という名のTPP交渉などの経済戦争である(最も集団的自衛権行使で武力行使まで容認しようとしているが)。競争は本質的に敵の徹底的打倒まで進む。今のような安倍政権の行く末は協同組合の抹殺だけではなく、国家の存立さえも危うくする。
それはともかく、現政権は本気で競争社会実現のためJAを不要な組織と考えており、そうである以上、われわれも本気でこれを阻止しなければならない。
JAグループ内には、その本質をよく考えないで、ともすれば会社化や事業譲渡に賛成な人もいる。今回のJA批判を契機に協同組合とは何かの本質論議をまきおこし、協同組合や国の方向を誤らないようにしたい。
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