JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
第8回 地域農業の構造をいかに改革するかーJAの果たすべき役割と活動はいかにあるべきかー2017年4月1日
「時計の針を止めずに分解修理しなければならない、難しいことだ」。たしか1959年の暮も押し詰まった頃だったが、私どもの先生であられた東畑精一先生(東京大学名誉教授)が、大学院の研究室をふらりと訪ねてこられて、大変厳しいお顔をされてこのようにポツリと話されたことを、いまだに昨日のように私の脳裏に深く刻み込まれている。
当時、先生は政府の農林漁業基本問題調査会の会長をされており、翌1960年に制定された「農業基本法」立案の最終段階にあったのだと思う。
「時計の針を止めずに分解修理する」とは、農村の内部から自発的、内発的にやらなければ、農業の構造改革など簡単にはできはしないのだ、という思いだったのではないかと、私なりにこの先生の言葉を受け止めた。
世界の歴史をふり返ってみれば判ることだが、例えば、イギリスの大農場制の確立は、周知のようにエンクロージャーによって小作農民たちを権力の力により強力にたたき出しイギリス産業革命の原点を作り出すことにつながったし、また、隣の中国では共産党権力による号令一下、零細農民を人民公社といういわば大農場に組織するということを行った。しかしこれは見事に失敗に終わったことは周知のことである。アメリカの農場制農業の原点は、ライフル銃によるインデアン(先住民)の掃討により確立したと言っても過言ではない。
つまり、いずれも「時計の針を止めて」分解修理してきたのである。
このような世界の歴史を踏まえて、先生は「時計の針を止めずに分解修理する」にはどうしたらよいのか、ということに心血を注いでおられたのだということが、私の小さな心を打った。
どうすべきか。私なりの仮説を次のように打ち上げた。すなわち、
「集団的・自主的・自己選別」という路線である。これを判りやすく言えば、「地域農民の自主性にもとずき、地域に根ざした集団的な話し合いを通じて土地の有効利用を促進し、地域農業の再編をはかり......地域農業の担い手たる農民層の形成をはかる」というものである(今村奈良臣『現代農地政策論』(1983年3月、東京大学出版会)69頁)。
あわせて、当時桎梏と化していた農地法、農地制度の抜本的改革の提言として、
「第1、中央集権的統制主義から地方分権的規範主義への転換
第2、自作地主義から借地主義への転換
第3、個別主義から集団主義への転換」
(前掲書 19~20頁)
という大胆な提起も行った。いまからみれば当たり前のことのように思われるかもしれないが、農地法がなお堅固な時代に、このような提言を行うには、清水の舞台から飛び降りるような覚悟を必要とした。こういう背景のもとに1980年の農用地利用増進法が制定されることとなり、「売買から貸借へ」「自作地主義から借地主義へ」「個別主義から集団主義へ」とさしも堅固であった農地法体制も大転換することとなった。
しかし、他方では、農業兼業化、さらには農家人口の激減、とりわけ次代を担う青年層の激減、という事態の中で、いかに地域農業の強固な拠点を確立していくかが、いま強烈に問われている。
こういう中で、農協は何をすべきか、地域農業の再建はいかにあるべきか。その先進事例の紹介、分析を通してJAのいま果たすべき役割について、次回以降述べていきたい。
(注:『現代農地政策論』は絶版となったので『今村奈良臣著作選集(上)・農業構造改革の展開論理』(農山漁村文化協会、2003年10月)に収録してある)
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