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JAの活動:緊急連載-守られるのか? 農業と地域‐1県1JA構想

「むら」から農協創る 農家組合の協同強化へ2018年4月13日

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田代洋一横浜国大・大妻女子大名誉教授

◆営農指導体制

 今日の合併の背景には信用事業があるが、その信用事業に適正規模を見出すことは難しく、大きいほどいいということになると、これまでの産地形成の適正規模から大きく遊離しかねない。農水省によると近年の米価は自県産米の需給動向に左右される傾向があるという。その点からは上限は県規模だろう。しかし野菜、果樹、畜産等をとれば適正規模は昭和合併町村、せいぜい郡程度ではないか。昭和40年代には1農協1団地を超える広域営農団地構想もあった。
そこで、近年の大型合併や1県1JA化は、営農指導体制については合併前の旧農協エリアごとに再構築する例がほとんどである。ただし分荷権は新合併農協に一元化する、あるいは一元化をめざす事例が多い。品質を高位平準化し、生産者数の減少等をカバーして、高品質ロット確保で市場対応力を強めようとするものだろう。それに伴ってマークや表示も一元化する。高位平準化には広域営農指導の担当を設けたり、新農協単位での研修が欠かせない。そのなかで旧農協単位の作目部会組織の再編も課題になろう。
 かくして今日の合併の本質は、同一商品を販売する信用・共済事業は思い切った統合メリットの追求、集権化を果たしつつ、営農指導については分権化するという、集権と分権の統合、あるいは二重円の組織化といえる。地区本部としてのまとまりもそのような面に活かされるのかもしれない。

 

◆不祥事の発生防止

 大型合併に伴い不祥事が発生しやすい。不祥事ではなくても不良債権を引き継がざるをえなかったり、手数料、賦課金、資材販売単価等を低い方にあわせる低位水準化により新JAの足を引っ張る事例もある。
 不祥事の発生を合併と直に結び付けることはできないが、合併に伴う組織のめまぐるしい改変や複線化・複雑化、それによる人的紐帯の弛緩等から死角が生じ、人数の少ない支店等で起こりやすい。それを未然防止するという観点に立った組織・ガバナンスの体制づくりが求められる。眼の行き届く管理体制、風通しの良い組織風土づくりであり、それは何も不祥事対策に限らず新生農協の組織づくり全体に言えることである。

 

◆農家組合で距離縮める

 大型合併により組合員にとって農協は確実に遠くなる。旧農協では数十人はいた理事が2人、3人になってしまう。総代数も旧JAの1/5~1/6に減るのではないか。それだけでも農協は組合員・地域から遠くなる。
 農協は何よりも地域密着組織であり、地域密着業態である。農協が地域から離れたら農協ではなくなる。合併農協はこのディレンマを乗り越えなければならない。農協を地域・組合員につなぎとめるためには、農協が大きくなっても変わらないものに依拠する必要がある。
 その一つがいわゆる農家組合ではないか。農家組合は地域によって実行組合とか生産組合とか呼び方はさまざまであるが、農協が農家小組合、農事実行組合として事業展開の末端に位置づけてきたものであり、大字(≒藩政村)の下の農業集落が基本である。全中も1955年に「集落組織の育成方針」を出した。回覧板が回ってきて肥料農薬の予約注文をとったりする。総代会の前には集落座談会が開かれる。地縁組織として正組合員、准組合員の交流の場にもなりうる。行政も自治会等の末端組織に位置づけ、一定の事務と引き換えに助成金を出したりするので使い分けに注意を要するところもある。
 この農家組合を土台にして理事や総代が選ばれてきた。実際には農家組合ごとではなくその連合体によるところが多いだろうが、基礎には農家組合があるといえる。この農家組合で農家の意見を集約して、それが総代等を通じて農協の運営・運動方針に反映される。そのことがしっかりしていれば、合併によって農協が地域・農家から遠ざかることを多少はカバーできる。

 

◆現実の農家組合は...

 しかし以上は現実を知らない者の観念論だろう。現実には、耕作農家の減少や高齢化、混住化、作目部会組織の地域横断的組織化などで、農家組合は不活発化し、組合長も持ち回りになり、非農家が当たったり、果ては引き受け手がいなくて解散ということにもなりかねない。中山間地域では猿などの獣は集団をなして里に降りて来るが、集落の人々はばらけてしまって拮抗できない。
 集落を基盤にした集落営農の取り組みもみられるが、法人化して水管理・畔草刈りまで担うようになると、地権者が完全離農し、農家組合の空洞化を招きかねない。このような農家組合の弱体化・空洞化はつとに指摘されてきたことだが、今日、改めて強く意識されるようになっている。
 JAいわて花巻は「農家組合を集落営農ができる規模に再編」するとして、580組合を368組合に統合した(正組合員37戸から52戸へ)。JA松本ハイランドは農家組合の活性化に向けて3年で15万円の支援をしている。JA岩手おきたまは「実行組合再編検討委員会」で検討し、JAあつぎも「『生産組合』の今後に関する提案書」をまとめた。
 いずれをとっても、必要に応じて「再編」や学習・活動資金を助成する以上の妙案は今のところない。「むら」は農協や行政以前の「自生的」組織なので、外部から下手にいじるべきものでもない。集落の営農や生活にとってのギリギリの必要性、また農協事業にとっての必要性を再確認しつつ、例えば総代選出の母体地域ごとに連合体を作るなど補強策を考える必要がある。それがないと合併農協は砂上の楼閣になる。

 

◆剰余金処分政策

 この点は農協により実にさまざまである。高位平準化ということで、高い出資配当率に合わせがちだが、農協を取り巻く今後の厳しい状況、なかんずく信用事業の先行きを考えると、合併を機に剰余金処分政策を明確にして組合員に諮るべきである。
 まず、バーゼルⅢ等の会計基準が厳しくなるなかで、内部留保と配当の比率をどうするかが課題である。
 配当については、改正農協法で事業利用分量配当(利用高割り戻し)が重視されたが、経済民主主義として収益がある以上は出資配当は不可欠であり、そのうえでの利用高割り戻しだろう。都市農協等では貯金、貸付金等を基準にした割り戻しが多く、信用事業の競争力を高めているが、産地農協としては資材や販売の額に応じた割り戻しが重要である。
 また総合ポイント制をどうするかも論点である。准組合員の多いところでは、直売所やGS利用者への「還元」といった意味合いをもち、集客力を高めるうえで有効だが、ポイント制は期末の収益還元ではなく期中コストから支払われるという違いを忘れるべきではない。a.本来は資材価格等の引下げで対応すべきこと、b.期中コストを負担してでも緊急対策すべきこと、c.期末の収益から利利用高割り戻しすべきこと、の仕分けが必要である。

 

◆公認会計士監査等への備え

 公認会計士監査の費用は、重要な経済事業の数とボリュームに左右されるとされており、産地JAにより厳しく作用する。とくに合併により地区本部制をとり、その自立性を高くしたところでは、地区本部ごとの監査になりかねず、監査費用がかさむ可能性がある。かといって監査費用を抑えるために農協組織をいじるのは本末転倒だろう。
 改正農協法の附則50条3項で監査費用の実質的負担増を抑えるとしたが、具体案が見えない。本紙2018年3月10日号で萬代宣雄氏(JAしまね前組合長)が農水産業貯金保険機構の保険料負担を地域農業振興に回すべきと主張しておられる。筆者も2015年8月25日の参院農水委員会の参考人意見として、保険料を監査費用の補てんに活用すべきとしたが、議員の関心は得られなかった。改めて検討すべきだろう。
 合併農協で施設の重複等があると、利用状況によっては減損会計の対象になる。合併農協としての監査問題への対応が求められる。
 本連載はこれで中締めとするが、情報化時代の今日の合併の検討は先行事例に学んでいる点が多い。そこに「協同」の強みがあるので、今後とも折に触れて事例紹介を続けたい。

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