JAの活動:今村奈良臣のいまJAに望むこと
【今村奈良臣のいまJAに望むこと】第88回 中山間地域、とりわけ棚田地帯を生かす和牛の放牧をいかに推進し実践すべきか(第3回)2019年6月15日
1. 牛の持つ優れた7つの機能
かねてより私は、牛は次に述べるような優れた機能を持っていると考えてきた。
(1)口は一生研ぐ必要のない自動草刈機
(2)あの長い首と喉は食べ物を運ぶ自動式ベルトコンベアー
(3)4つの胃を持つが、特に巨大な第1胃は人間の食べられない草を栄養素に変える巨大な食物倉庫
(4)内臓は牛乳を作る精密化学工場。これまで科学技術は大幅な進歩を遂げてきたが、未だ牛乳の人工合成技術はできていない。なお、乳牛の場合はもちろん、和牛も子牛に授乳する乳は作る。
(5)尻は貴重な有機質肥料製造工場
(6)足は30度をも越える急坂を登り降りできる超高性能ブルドーザー
(7)1年1産で子孫を増やす
この7つのすぐれた機能の中でも、特に私が棚田地帯の保全・活用との関連で重視するのが、「超高性能ブルドーザー」と指摘した特長である。棚田地帯は急坂が多いだけでなく、石積みの壁もあるが、それらを和牛は巧みに登り降りしている姿をこれまでの実態調査の中でたびたび観察してきた。それほど強靭な脚・腰を特に和牛は備えていると思う。
2.「山地畜産研究会」の研究・調査を現代に活かす
この、「牛の持つ優れた7つの機能」については、今から28年前に出した「山地畜産研究会」の報告書ですでに述べてきたことである。その当時、私は(財)21世紀村づくり塾の副塾長を東京大学教授(のちに日本女子大学教授)と兼任でしていた。塾長は故檜垣徳太郎氏で、農林水産事務次官や畜産局長を歴任され、当時は全国農業会議所会長もされていたが、農水省から巧みに研究調査費を調達してくれた。そういうなかで全国各地の農民塾で講義や講演を行うとともに、可能なかぎり機会をとらえて、中山間地帯や棚田地帯での放牧についての調査をした。もちろん和牛のみではなく、乳牛の放牧の実態についても調査することができた。
3.「山地畜産の推進に全力を」
その当時、中山間地域の農民の皆さんならびに行政を担当している県、市町村の担当者あるいはJAの皆さんに話した講演のレジュメが探していたら出てきたので、今でも通じると思うので紹介しておこう。
『山地畜産の推進に全力を』
Ⅰ. 衰退著しい中山間地域
(1) 労働力の流出・高齢化と過疎化の進展
(2) 耕作放棄地の激増と集落機能の低下
(3) 野生動物(猪・鹿など)による被害の拡大
(4) 林業の不振とモウソウ竹の繁茂など林地荒廃の進展
(5) 災害の多発、特に豪雨化による中山間地域の被害激増
Ⅱ. よみがえる中山間地域の近未来ビジョン
(1) 谷を単位とした集落農場構想の推進と実現を
(2) 土地利用調整の精力的な取り組みと総合的土地利用計画策定とその実現を
(3) 水利用調整による土地利用の再編・実施・実現を
(4) 潜在的草資源を生かす山地(草地)放牧畜産の実現と推進を
(5) 牛の持つすぐれた7つの機能を活かす
(6) 地域農業の6次産業化による付加価値の増大と新たな雇用の創出
Ⅲ. 解決すべき当面の課題
(1) 農林行政の縦割り行政から真の総合行政へ
(2) 土地利用調整と地域農業改革へ農業委員会の役割をさらに高めよう
(3) 農業・農村への人材を増やし伸ばす―特に女性の参入が焦点
(4) 地域特性に応じた家畜改良と草の生産技術開発
(5) 畜産・草地研究機関、行政組織、普及指導機関の有機的結合の実現を
(6) 「適地適作」「適地適策」「適地適産」の原則の徹底的推進を
(7) 他分野からの人材・英智・技能・技術を特に中山間地域の農村へ
(8) 日本型グリーン・ツーリズムの実現を―家畜と遊ぶ村には女性が来る
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今村奈良臣・東京大学名誉教授の【今村奈良臣のいまJAに望むこと】
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