JAの活動:農協時論
【農協時論】自然との共生 里地里山再生へ みどり戦略期待 宮永均JAはだの代表理事組合長2021年12月7日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。
今回はJAはだのの宮永均代表理事組合長に寄稿してもらった。
宮永均
JAはだの 代表理事組合長
人の営みによって連綿と受け継がれてきた里地里山の自然環境は、いま危機にさらされている。経済社会の変化によって農林業の暮らしの中での里地里山の利用が減少し、耕作放棄地や手入れが行き届かない森林の増加、藪や竹林の拡大、水路やため池の荒廃が進んでいる。
この結果、これまで生息・生育してきた多くの動植物が姿を消しつつある。生物多様性にとって里地里山の保全は重要な課題である。保全するうえで、人と自然の関わりの再生が鍵になる。新たな担い手や行政、専門家も加えた多様な主体による協働の枠組みのもとに里地里山を保全活用することが重要である。
人と自然との関わりの歴史を通じて、集落を中心に資源が循環し持続的に自然の恵みを享受する空間が形成・維持されてきた秦野市は神奈川県の西部に位置し、東西約13・6km、南北約12・8kmで面積は103・7平方km。丹沢大山国定公園をはじめとする豊かな自然に恵まれた都市である。北部には神奈川県の屋根といわれる丹沢山塊が連なり、南部には渋沢丘陵と呼ばれる台地が東西に走る県下で唯一の盆地である。
この丹沢山麓と都市地域との中間に、集落を取り巻く農地、溜池、二次林、人工林があり、人間の働きかけを通じてこの環境が形成され、動的、モザイク的な土地利用、循環型資源利用が行われてきた。この結果、2次的自然に特有の生物相、生態系が形成され、自然と共生する生活文化が形成されてきた。
秦野市はかつて、葉たばこの産地として知られ、秦野葉は茨城県水府、鹿児島県国分と並んで日本3大葉たばこの一つとして知られた。300年以上の伝統を持つ葉たばこ栽培は、里山から落ち葉かきをして苗場をつくることから始まる循環型資源利用だった。
また、秦野は「山谷村」といわれる伝統的農村システムで農業が営まれてきた。古記録によると新富士火山の噴火は781年以降16回記録され、800年から1083年までの間に10回程度、1511年にも噴火や火映等の活動があったことが、複数の古文書の分析や地質調査などで明かになった。特に1707年の宝永大噴火は、富士山3大噴火の一つで、その他2回は平安時代に発生した延暦の大噴火(800~802年)と貞観の大噴火(864~866年)である。火山灰は関東一円に降り、秦野の里地里山に大きな被害をもたらした。
そこで、農作物で火山灰の影響を受けにくい葉たばこ栽培が盛んになったのである。毎年12月には、葉たばこの苗を育てる苗場づくりのために、里山で落ち葉かきや葉たばこの乾燥、風呂やご飯を炊くための燃料に使用する槇山(里山の雑木伐採)が行われてきたが、300年以上続いた葉たばこ栽培は1987年に終えた。
この背景には、1963年から都市化が進展し、高度成長とともに里地里山の住宅開発やゴルフ場建設が行われ、また生活様式の変化や燃料革命、営農形態の変化、里地里山利用の減少、少子高齢化による農林業や集落の活力低下などで、里地里山を管理・保全が困難になった。伐採、クズハキを怠り臨床植物が開花しない状況が広範囲で発生、また薪炭林の需要低下で雑木林は大木となり、伐採後再生できない事態になった。
この結果、生物群集が存在できる生息場所の再生力が低下して、多様な里山水系トンボ相、里山景観と鳥類、アカガエルを支える里山生物群集、里山水系の魚類、ゲンジボタルなどの保護ができなくなった。
国の「食料・農業・農村基本計画」は、農業の持続的な営みを通じて形成され、多くの生物に生息環境を提供する田園地域、里地里山を保全していくため、地域で策定される計画の下で、農業生産の維持や生産基盤の管理といった生産関連活動と生物多様性の保全を両立させる取り組みである。さらに、「森林・林業基本計画」では、里山林について、林業の振興等をはかる中で多様な生物の生息・生育地などを保全しつつ、ボランティア、NPOなどとの連携により多様な利用活動を促進するとしている。
しかし、農業経営や里山管理では、除草や病害虫、除菌など駆除・防除のために広範囲で農薬が使用されている。いずれの計画でも、例えば「環境保全型農業の促進」などに生物多様保全の観点から農薬使用を制限させることなどを里地里山保全施策に加えるべきである。
なぜなら、前述した理由はもちろんだが、化学肥料や農薬の影響により重要な生物種の生態が消滅の危機の状態だからである。
農林水産省が、今年の5月に発表した「みどり食料システム戦略」は2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション実現を掲げ、化学肥料30%削減、化学農薬50%削減、有機農業を100万haに拡大する目標など14項目を掲げた。この取り組みで、2050年に向けてすべての環境対策の一歩を踏み出したい。
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