JAの活動:農協時論
【農協時論】二つの提案 食の危うさ伝え所得補償政策を 鬼木晴人・JA福岡市組合長2023年2月17日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならないのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回は福岡県のJA福岡市代表理事組合長の鬼木晴人氏に寄稿してもらった。
鬼木晴人 JA福岡市組合長
新型コロナウイルスの脅威、ロシアのウクライナへの侵略、そしてトルコでの大地震など21世紀に入っても世界中で恐るべき出来事が続いています。我が国においても輸入物資が品薄となり、外国に頼らざるを得ない日本の弱点がさらけ出されました。
そのようななか国内農業の状況をみますと、まず目につくのが農業者数の減少が加速していることです。全国の農業就業人口の推移によると、2000年の389万人から2020年には152万人と、61%も減少しています。さらに、2022年までの2年間に30万人も減少し122万人となりました。戦後生まれの団塊世代がリタイアの年齢となり、2024年には100万人を切るのは確実な情勢です。国そして農水省は、何十年もの間「何をしていたのか」という思いです。政府でしっかりと統計を見続けていたにもかかわらず、このような結果を招いたことは「何もしなかった」か「対策を取ったけれども失敗した」かどちらかでしょう。国に総括を求めたいと思います。
ただ、農産物の生産量は少なからず維持されており、農業者の減少とは比例していません。農業者が雇用労力を増やして規模拡大に励んでいる面もあるでしょう。しかしこれにも限界があり、生産コストがここまで上がると労賃が限界収益を超えてしまいます。今一番苦しいのは雇用労力によって規模拡大してきた大規模農家なのかもしれません。逆に、家族経営に近い労力で経営している農家は設備投資が少ないこともあって労働生産性は比較的高く、今後は持続可能な経営体のモデルとなる可能性もあると思います。
いずれにせよ、生産コストを価格に転嫁できない現在の市場原理においては、頑張っておられる農家も後継ぎが出ないのではないかと危惧しています。ここで、輸入食料や輸入野菜に負けずに国内農業を維持していくため、私は新しく日本型の戸別所得補償の仕組みを創設することを提案します。残念ながら、新自由主義の影響で「安さ」だけを求める現代の消費者の心を変える事は容易ではないでしょう。そこで、消費者には依然安価で供給し市場原理をある程度容認しつつも、農家には再生産に必要な一定の所得を国が補償するという仕組みがどうしても必要です。仮にきちんと確定申告を行っている100万戸の農家に年間100万円ずつ補償しても1兆円です。少子化対策なども重要ですが、国民の食料確保という最重要課題と捉えればできない相談ではないと思います。原案をJA全中で作成し、政府へ立法化の働きかけをぜひともお願いしたいです。
さらにもう一つ提案があります。前段では消費者の心を変えるのは難しいと述べましたが、それでも消費者の国産農産物や国内農業への理解は粘り強く訴え続けなければなりません。この手段として、スマホ社会の現代においては、それらのことを広く国民にSNS等を用いて発信することが有効ではないでしょうか。
「日本の食の危うさ」をより具体的に、「ケーキやパンの原料の80%が外国産である」ことや「EUで輸入が禁止されているホルモン剤を使った牛肉が、日本では輸入されている」ことなど、事実として確認できることを広く伝えていくことです。また「自衛隊や公立学校の仕事は税金で賄われています。食料を作ってくれる農家に税金を払って作り続けてもらうのも当たり前ではないでしょうか」といった意見を発信することも可能です。私たち農業者があきらめずにこのような話題を発していくことが今後ますます大事だと思います。
経済界の主導で加盟したTPPですが、現段階において日本経済への影響の検証もされていないと思います。食料安全保障が国民の耳に届いている今こそが国民の心を変えるチャンスなのかもしれません。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日