JAの活動:シリーズ
【シリーズ 動き出す 担い手コンサルティング】大規模法人支援で地域農業に活力 JAグループ大分2023年4月4日
地域農業の担い手育成と確保に向けてJAと県連、全国連が連携した担い手コンサル事業が動き出している。営農指導だけではなく、経営分析や資金対応、販売ルート開拓などまで支援することが特徴でJA事業の強化にもつながるという面もある。今回は大分県の取り組みをレポートする。
大規模経営を襲う不安
コンサルチームのメンバー(左から)中川さん、兒玉さん、菊本さん、妹尾さん、長谷川さん
大分県では2021年6月、JAグループが連携した担い手コンサルティングチームが立ち上がった。コンサル先にはJAグループによる経営分析などを求めていた農業生産法人(株)晴舞台を選んだ。
同社は2020年、農業生産法人(株)らいむ工房の関連会社として設立された。らいむ工房の設立は2010年。国東市の建設会社を父親から引き継いだ佐藤司会長が、兼業で行っていた農業をもう一つの事業の柱にし、地域特産の武蔵ネギの復活と「耕作放棄地を増やさない」との思いで立ち上げた。自作地1haからのスタートだったが2022年では136haまで拡大している。
その10年後に母親の実家がある豊後大野市に設立した「晴舞台」も思いは同じ。高齢化が進む集落営農組織の農地をまるごと任されるなど「最後の砦と思ってできるだけ引き受けている」と話す。社員17人のうち、20代は8人で平均年齢は34.6歳と若い。2年前から県立農業大学校から新卒を採用している。
作付面積48haでスタートした同社は、2023年には80haまで拡大する見込み。麦50ha、米25ha、大豆5haを作付ける予定だ。
このところ面積は2社計で毎年30haほど増えるという。それだけ地域では後継者不足と高齢化が深刻化していることの表れだが、佐藤会長は強烈な不安に襲われたという。
「たとえば、80ha経営の翌年は20ha増え100ha経営になりますが、収入は80ha分しかない。そして翌年も面積は増える。果たしてこの経営は成り立つのか、と」。
そんなとき耳にしたのが担い手コンサルティングの取り組みだった。「第三者が評価する仕組み。喜んで飛びつきました」と佐藤会長は話す。
分析と連携による提案
佐藤司会長
コンサルチームは佐藤会長へのヒアリングを重ね、さまざまな課題を明らかにしていった。
その一つが単収の引きあげだった。規模は拡大しているもののほ場の平均面積は11a。伝統的な田園風景ではあるが、まさに小規模分散で効率は悪い。人手不足も手伝って管理が不十分になっていたことや、ジャンボタニシの発生なども単収が上がらない要因と考えられた。
解決策として示したのは、全農県本部による土壌分析と結果を受けた系統肥料による施肥。適切な施肥量もアドバイスした。
佐藤会長は「どうしても規模拡大が先行してしまい、土づくりが大事という認識が薄れていることに気づかされました。社員には土壌診断の結果に忠実に施肥するよう指示しています。農業の原点に戻り、持続可能な農業をめざすことも大切にしていきたい」と話す。
ジャンボタニシの発生は水位の管理が不十分であることも考えられた。ただ、ほ場は分散している。そこで提案したのが遠隔管理をする水田用自動給水機の導入。試験を実施し現在は導入場所を検討中だ。
販売見直しが単収向上に
「晴舞台」が受け手となっている農地
主食用米は商系へ紙袋詰めで販売していた。しかし、袋詰めにするには人手がかかる。そこでコンサルチームが提案したのがフレコンによるJAへの出荷だ。主食用米としての売り上げは全体として下がるかもしれないが、袋詰めする人手が減ることからコストダウンにもつながり、収支はほぼ変わらないという試算値も示した。むしろ、その人員を水田の管理に振り向けることで単収の向上につなげることもできるのでは、と提案した。
「紙袋出荷では3人必要だがフレコン出荷なら1人で済む。残り2人は常に田んぼに出ていますから単収向上につながると期待しています」と佐藤会長は評価している。
さらに同社には規模拡大にともなって自前でライスセンターを持ちたいという希望もあった。JAのライスセンターを利用する場合、持ち込む日程が決められてしまうなど制約があると考えられたからだ。自社で持つことが適期収穫と効率的な乾燥調整につながる。
ライスセンター
その希望を受け全農県本部が具体的なライスセンター案を提案し、県信連が資金を融資、2022年産から稼働している。収穫後、ライスセンターで玄米に調製しフレコンでJAに出荷している。麦、大豆も同様に出荷している。
佐藤会長は自前でライスセンターを持つことは効率的な作業が実現するだけでなく、品質向上につながるとしている。「共同出荷ではありませんから、社員は自分の作物の品質向上に、より責任を持つようになる。モチベーションの向上も図れます」。
グループの強み発揮を
そのほか、品目ごとの補助金を調べ、作付け面積との有利な組み合わせを経営計画として示すなど政策を経営に活用する提案も行った。
また、決算期の見直しも提案した。同社の決算期は8月だったが、それでは当年分の売り上げに翌年分の費用も入った決算書となっていた。佐藤会長が懸念した毎年経営面積が増えるなかで経営の見通しを立てるため、決算期の見直しが必要なこともコンサルを通じて分かったことだ。
規模拡大にともなってトラクター、コンバインなど設備投資が必要になることから、メンテナンスを含めたJAによる農機販売も提案、商系から切り替え、購入につなげた。JAとしてコンサルチームに参加したJAおおいたの妹尾正春さん(現在、竹田支店ライフアドバイザー)は「JAへの米の出荷スケジュール、農機具のメンテナンス体制など各部門とのパイプ役となって調整し、コンサル先に納得してもらえる情報提供に努めました」と振り返り、JA内でも事業連携が大切だと話す。JAおおいたは2022年度からJAとして担い手コンサルティングに取り組んでいる。
JA大分信連職員としてチームに加わった、現在、JAおおいたの改革推進課専任課長の菊本拓哉さんは「手さぐりで始めたが横の連携を深められたのではないか。今後の事業運営に生かしたいきたい」と話す。
JA大分信連農業融資課の兒玉直人さんは「コンサルの取り組みによって、それぞれの組織に引き継ぐべき仕事が生まれた」と話す。
JA全農おおいた肥料農薬課の長谷川敬さんは「他の法人にもJAグループ一体でコンサルに取り組めば県内農業の活性化につながる」と今回の体験を振り返る。
農林中央金庫福岡支店で大分県を担当する中川慶俊さんは、コンサルを通じて「思ってもみなかった課題」を発見したことが成果だと指摘する。たとえば、米の出荷をフレコンに変更することでコストだけでなく、人員を作物の管理に回して単収向上につなげるという視点などだ。「経営分析から営農の提案までソリューションを広げられるのがJAグループの強み」と強調する。
今回のコンサルでは6回の面談でヒアリングなどを行い、3か月後の一昨年9月に提案資料などをまとめた。
佐藤会長は「次の作付けに間に合うよう答えを出してくれた」と評価、さらに「資金対応にしても販売開拓にしても1人でがんばらなくてもよくなった。横のつながりでそれぞれがバックアップしてくれた。つながりが少ない法人でも今回のように徹底的にサポートすればJAグループのファンになる」と今後の活動の広がりに期待する。
【法人概要】
〇(株)らいむ工房
2010年設立。大分県国東市。作付面積136ha。社員8名。米190t、麦184t、大豆15t。
〇(株)晴舞台
2020年設立。大分県豊後大野市。作付面積48ha。社員3名。米92t、麦49t、大豆6t。
このほかに小ねぎ事業本部がありハウス144棟で味いちねぎを生産する。
佐藤司会長は大学院終了後、日本道路公団入社。父他界後、建設会社を継ぐとともに農業生産法人を設立。国東市農業委員会副会長、JA大分経営管理委員などを務めている。
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