JAの活動:農業と消費税増税
【インタビュー 農業と消費税増税】萬代宣雄氏(JAいずも会長、JA島根中央会会長、JA全農副会長) 2013年7月2日
・農業の特性ふまえて
・記帳の努力も必要に
・世界は農業に配慮
・農業・食料政策との関連からも軽減税率は不可欠
農業や食料品への配慮がないままに消費増税が実施されれば、農業は大きな打撃を受ける。JA運動をリードしてきた島根県中央会会長でJA全農の副会長も努める萬代宣雄JAいずも会長に現場からの思いと課題を聞いた。
◆農業の特性ふまえて
消費税増税は非常に重要な問題ですが、TPP問題があるために少し関心が弱いというのが現状だと思います。ただ、今、問題提起をしておかないと遅きに失したということになりかねない懸念がある。問題意識を広めていかなければなりません。
今さら言うまでもないことですが、農業者は自分たちが生産しながらも価格は自分でつけられないという、農産物価格の構造的な問題、あるいは商慣行の問題があります。
工業品ならかりに零細業者であっても農産物と違い天候に左右されることもなく、豊作・凶作での価格変動もなく安定的に供給できますから、消費税UPへの対応は単純です。国の監視体制もありますし、また、それがなければ弱者は困る。
ただ、農産物は自然環境の中での産物ですから、毎日、価格が変わる。したがって消費税が3%上がったから価格はこうなります、ということについて、なかなか根拠が説明しにくい。そうするとつい農産物については弱者である生産者が泣き寝入りせざるを得ないことになる可能性が非常に高いのではと私は心配します。同じ零細企業であっても工業品とは基本的に違い、3%引き上げを転嫁できる環境は非常に弱い。
したがって、JAグループとしてもいろいろな政策要求や、また指導、手助けにも取り組まなければならないし、当然、行政には農業者の特性を斟酌しながら、軽減税率の導入や簡易な還付申告制度などの対応策を講じてもらわなければいけないと思っています。
◆記帳の努力も必要に
ただし、対策を講じてもらう一方で、農業者もしっかり記帳することも必要になる。今までも簡易課税制度があり、これはかつての3000万円が1000万円に引き下げられたことから、本当に零細な農業者は消費税納税の対象からはずれることになるとは思います。しかし、やはり農家も記帳は義務化されたのだから、ということではなく経営努力という意味、さらに生活設計を立てるためにも、記帳は行わなければいけないのではないか。
この面ではそれこそJAが経営指導を徹底し、相談があればアドバイスすることも大切になります。これは消費税問題だけではなくて、これからの時代、農業を「業」としていこうというのなら、零細であっても収支の記帳程度の努力は必要ではないか。それをやりながら経営管理をし、消費税増税分を吸収できたのかどうか、実質の労賃はどうだったのかなどが分かるようにならなければいけないと思います。
◆世界は農業に配慮
やはり経済的に裕福な人ばかりではありませんから、食べ物ぐらいは消費税をゼロにして安く提供できるような仕組みづくりは必要ではないか。消費者のためにもという観点も必要で、実際、世界の主要国は食料品に対する軽減税率を導入しているわけです。
現在の論議では第一段階の8%への引き上げ時ではなく第二段階の10%になったときから軽減税率を検討するという方向になっています。また、消費税引き上げそのものが今後の経済状況で判断するということになっています。しかし、仕組み自体の検討には入っていると考えられるため、早い段階から声を上げて運動を展開し、第一段階から導入を求めていかなければいけないと思います。
これまでのわれわれの議論では農家が記帳するなど簡単なことではないという議論もありました。しかし、一方で水稲を中心に集落営農の組織化が進んできており、農業法人も含めて以前にくらべれば記帳への取り組みは進んでいると思います。かつてのような個人経営で、それも3ちゃん農業のようなかたちからは脱皮している。
そういうなかで全農家が記帳運動をするなど経営管理を行ったうえで、健全経営への努力をせねばなりません。
◆農業・食料政策との関連からも軽減税率は不可欠
私がいちばん心配しているのは2050年に世界人口は93億人になると専門家が予測していることです。そのときに農畜産物の生産量は世界中で90億人分だという。つまり、3億人は食べ物がないということになる。温暖化による干ばつで砂漠が増えてしまって、耕地は減少する。
そのときに日本が買い漁れば、今でも10億人いるといわれる飢餓人口がまだまだ増え、所得の低い地域は食料を得ることができなくなることも想定される。
こうしたことが見込まれているのに、日本は自給率を下げるような政策であってはなりません。自給率は50%に上げるといっていますが、TPP参加なら農業は壊滅的な影響を受けます。その一方で農業所得倍増も打ち出されていますが、本気になってそれを実現するというのであれば、一時的に予算を増やすなどの対策ではできないはずです。
その意味でも、消費税増税問題は農業、食料をどう位置づけるのか、という大きな意味も持つ。日本の農業、食料をどうするのかという大前提があって、そのなかで農家が弱者として被害を受けないよう対策を講じるべきだと思います。再生産可能な、人並みな生活が出来る環境を造るべく努力せねばなりません。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】カンキツ類に果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(1)2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(2)2025年10月17日
-
【国際協同組合年・特別座談会】いまなぜ二宮尊徳なのか 大日本報徳社鷲山社長×JAはだの宮永組合長×JAはが野猪野氏(3)2025年10月17日
-
(457)「人間は『入力する』葦か?」という教育現場からの問い【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月17日
-
みのりカフェ 元気市広島店「季節野菜のグリーンスムージー」特別価格で提供 JA全農2025年10月17日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」群馬県太田市で25日に開催2025年10月17日
-
【地域を診る】統計調査はどこまで地域の姿を明らかにできるのか 国勢調査と農林業センサス 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年10月17日
-
岐阜の飛騨牛や柿・栗など「飛騨・美濃うまいもん広場」で販売 JAタウン2025年10月17日
-
JA佐渡と連携したツアー「おけさ柿 収穫体験プラン」発売 佐渡汽船2025年10月17日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」 クイズキャンペーン開始 JAグループ2025年10月17日
-
大阪・関西万博からGREEN×EXPO 2027へバトンタッチ 「次の万博は、横浜で」 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月17日
-
農薬出荷数量は0.5%増、農薬出荷金額は3.5%増 2025年農薬年度8月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年10月17日
-
鳥取県で一緒に農業をしよう!「第3回とっとり農業人フェア」開催2025年10月17日
-
ふるさと納税でこどもたちに食・体験を届ける「こどもふるさと便」 IMPACT STARTUP SUMMIT 2025で紹介 ネッスー2025年10月17日
-
全地形型プラットフォーム車両「KATR」、レッドドット・デザイン賞を受賞 クボタ2025年10月17日
-
農業分野初「マッスルスーツSoft-Power」と「COOL-VEST」を同時導入 イノフィス2025年10月17日
-
伝統のやぐら干し「産直大根ぬか漬けたくあん」がグッドデザイン賞受賞 パルシステム2025年10月17日
-
鳥インフル 米モンタナ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月17日
-
鳥インフル 米アイダホ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月17日