JAの活動:新世紀JA研究会第1回全国特別セミナー 国民の食を守る役割を明確に
【日向彰農水省経営局協同組織課課長】黒字農協は共通財産 地域金融機関とも交流を2019年7月30日
日向課長
◆全農の改革を評価
JA全中は、「農業・農村の危機」「組織・事業・経営の危機」「協同組合の危機」の3つの危機に直面していると言っています。そのためにはどうするか。厳しい状況のもと、このままでは農協は立ち行かなくなる恐れがあります。しかし、いろいろできることはあると思います。そのことをしっかりやっていただきたい。
農協改革集中推進期間が5月で終わりました。規制改革推進会議は6月の答申で「一定の進捗が見られた」と評価した上で、農業者所得の向上、一層の資材価格の引き下げ、信用事業の健全な持続性などについて課題が残されており、「引き続き自己改革の取り組みを促す」としています。
この2年間、農水省として多くのJAと意見交換しましたが、農協は努力しているなと感じています。
農業機械や肥料価格を下げるなどきちんとやってきたことが評価を得たのだと思います。9月以降、これまで5年間の自己改革の取り組みを数字で積み上げ、評価することになります。
JAグループが問題にしている二つの懸念は承知しています。信用事業を強制的に分離するのではないか、准組合員の利用規制を入れるのではないかということですが、利用規制は5年間(平成28年~33年)の調査期間があり、まだ先の話です。
その間、与党が「准組合員規制は組合員の判断による」を公約しており、改正農協法の国会附帯決議でも組合員の判断を尊重する旨を明記しています。
◆事業譲渡は自由判断
信用事業譲渡も大臣が国会で述べている通り、あくまで任意です。信用事業で必要なだけ儲けてもいいが、それが厳しくなる。その中でどうやって農協を守るか。それが自己改革で求められていることだと言っているのです。これは農水省でなく、農協の経営の問題です。
赤字垂れ流しでは早晩行き詰まることは火を見るより明らかです。事業を続けるにはそこそこの利益をあげ、農業者から評価されるよう頑張っていただきたい。
農協は言うまでもなく農業者の組織です。農業や地域の発展に極めて重要な役割を果たしています。農業者は農協を利用することでメリットを得るのであって、農協はそのメリットを提供することで必要とされます。それには、組合員のニーズにしっかり応えて利用され続けることが重要です。
農協は民間団体であって公的団体ではありません。戦後の一時期は食糧政策上の必要から、行政の後押しがありましたが、いまは農協だけ特別扱いはできません。
◆経済事業赤字が8割
日銀によると、今後10年間で地銀の6割が赤字になるとレポートしています。お願いしたいことは、農協も、もっと地域の他の金融機関と交わりを持ち、地方銀行がいかに苦しんでいるかを知って欲しい。
農水省の調査によると、全国の8割の農協が経済事業で赤字になっています。それを当然として思考停止してはいけません。逆にみると20%(122農協)が黒字で頑張っているのです。黒字農協の大半は北海道で、都府県の黒字48農協でみると、事業総利益は、各事業とも万遍なく確保していますが、赤字農協は信用共済事業の比重が高くなっています。また黒字農協は販売取扱高が大きく、1JA平均100億円で、赤字農協は60億円です。
職員一人当たりの販売取扱高も農協によって2~2.5倍の開きがあります。黒字農協は農業に軸を置いており、品目は北海道が生乳と野菜、都府県は野菜、果樹、米の順です。
経済事業の比率の高い北海道は職員100人未満が多く人件費の負担を抑えていますが、全国で900人以上の農協でも黒字を出しているところもあります。やればできるということだと思います。
全農は共同利用施設の運営や農産物の海外輸出など、JAと連携して取り組んでほしい。ガソリンスタンドや生活購買店舗など、ライバル企業が多い中で苦戦していますが、営業で頑張っていただきたい。また赤字の生活事業も諦めるのではなく、本当に地域に必要なインフラなら、農協だけで頑張るのではなく、市町村や住民の皆さんの支援を求める方法もあるのではないでしょうか。
また、いま農協の合併が進んでいますが、それにはまず合併のメリットを明確にしてほしい。単に時間の先送りになっているように感じます。1県1農協も経済事業は大きな赤字です。旧農協の施設は一体化するなど、効率化する必要があります。これからは黒字農協が赤字農協を吸収するようなことはできなくなります。
◆食料の重要さ不変
最後に、これからの農水省の役割についてですが、駅伝の伴走者のようなものだと思っています。走者に声をかけ、時には助言します。農協に対してほめるところはほめ、改善すべきは愚直にアドバイスしていくつもりです。農協は、やるべきことをやればこれから30年、50年と生きていけます。なぜなら、時代が変わっても食料は絶対欠かせません。つまりニーズのある仕事をやっているのです。管内の人びとに自分たちが作った食料をどうやって食べてもらうか。そこに力点を置いて考えると必ず道は見えてきます。
これからは、最後には誰かがなんとか手を差し伸べてくれるようなことはありません。122の黒字農協のうち、5年連続黒字の農協が20あります。この例をJAグループ共通の財産にして頑張っていただきたい。
(この文章は、日向課長の講演を新世紀JA研究会事務局の責任でまとめました)
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