JAの活動 特集詳細

特集:今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で

2019.10.16 
【提言:農業協同組合の目指すもの】黒田栄継・元JA全青協会長 小さくとも未来につながる一歩を一覧へ

 10月1日、全国農協中央会は一般社団法人に都道府県中央会は連合会への新たな組織に移行した。これを農業とJAにとって新しい時代を拓く契機としたい。そんな思いから今回の特集では「今、始まるJA新時代 拓こう協同の力で」をテーマとした。
 そうした意味で、JAが新たな時代を切り拓いていくために、これから農業協同組合がめざすものは何か、その基本的な視点について、これからの日本農業そして農協運動を担っていく若手生産者である元JA全青協会長の黒田栄継氏に提言していただいた。

toku1910161601.jpg

◆改革に臨むべきは個々の組合員自身

 「農協改革」。平成26年の5月に突如俎上に載ってから、早いもので5年の月日が流れた。この5年間、全国の農協をはじめ、JAグループ全体で、血のにじむような努力を重ね自己改革を進めてきた。
 農協とは企業体ではなく、ある意味運動体であり、その構成員たる組合員が運営から利用までを行う組織であるのは周知の事実である。つまり、組合員自身が農協そのものといっても過言ではない。
 これは当時から申し上げてきたことなのだが、こういった観点から照らし合わせた時、本来改革に臨むべきは、組合員一人ひとりということになる。しかし、自らが改革の対象者だという自覚を持つ組合員は、残念ながら少数であったと言わざるを得ない。当時、規制改革会議の示した内容が、組合員個人が取り組むべきことではないものが多かったせいでもあるが、中央会をはじめ、各連合会、単協の執行者など、一部の方々に自己改革の苦労は集中してしまっていたように思う。そのような中でのこの5年間の自己改革の取り組みには、改めて敬意を表したい。

◆今まで以上に大きい中央会の機能と役割

 これまでの自己改革推進期間を経て、いよいよ新たな農業協同組合がスタートする。中でも一番の大きな変化は、全国農協中央会が農業協同組合法に基づく中央会から、一般社団法人へ組織変更したことかもしれない。
 これまでの議論の中で、一社化することによる機能低下を心配する声もあったが、決してそのようなことはないと、私自身は考えている。
 なぜなら、中央会は農協の運営にとどまらず、農業の振興、さらには農村の振興にいたるまで、幅広い視点で事業展開してきたわけだが、それらの持つ課題が、現状、決してなくなったわけではないからだ。むしろ、高齢化は進み、厳しい国際競争にさらされ、さらに厳しい局面を迎えることも想定される。そのような中、中央会の果たすべき役割は、今まで以上に大きいものになることは疑う余地もない。大きく2つの点で今後の活躍を期待したい。
 「代表機能」「総合調整機能」「経営相談機能」、これまで同様、この3つの機能を充実させ農業・農村の振興をはかる過程において、特に「地方創生」との密接なかかわりを意識しながら事業展開をすることで、その存在価値は、これまで以上に発揮されると思われる。

◆地方支える人材育成を

 すっかり全国民に定着した「地方創生」という言葉。世に登場してから久しいが、未だこの言葉が世間をにぎわせているということは、裏を返せば、現在に至ってなおその成果は明確でなく、道半ばの状態であるということでもある。
 地方創生の主役は、間違いなく地方に生きる住民であり、その手法がまちおこし的なものであれ、産業政策的なものであれ、それらに取り組むべき人材の育成がその成否の鍵となる。
 地方創生を語るとき、多くの優良事例が紹介されることがあるのだが、これらが実現している陰には必ずそれに取り組むリーダー的な人や組織の存在があるはずであるが、手法ばかりがクローズアップされることが多く、人材の育成が重要視されることは極めて少ない。
 中央会に今後期待する取り組みの一つ目は、まさにこの人材育成である。組合員教育を通して、協同の価値を共有させるにとどまらず、青年部や女性部の活動を支え、地域で活躍する人材を多数輩出してきたJAグループの存在は、これまでも、どれほど地域の発展に寄与してきたか計り知れない。人口そのものが減少することももちろん地域の衰退に影響を及ぼすのではあるが、それ以上に「志」をもって現場で実践し活躍する人材の減少は、まさに「地域力」の低下に直結する。
 四季が豊かで、多様な植物の生育に適し、自然と調和した生活環境が整う日本のいわゆる農村には、観光分野においても、生産分野においてもまだまだ発掘可能な資源が豊富にある。しかし、それらを活かそうという志を持った人がいなければ、すべてが無用の長物になってしまう。
 実際に農業の分野に進出する企業も増えたが、人材の不足が大きな足かせとなり、拡大基調であるとは言い難い状況である。農業・農村の価値と存在意義を伝え、志を持って活動する人材を育むことの中心には、やはり中央会をはじめとした、日本の隅々の地方にまでネットワークを持つJAグループの存在が欠かせない。自己改革を通して、各連合会も農業所得の増大にむけ、様々な取り組みを進めていく中、なかなか人材育成にまで注力しづらい状況であるからこそ、まさに「総合調整機能」を発揮し、組織全体での取り組みに発展させてもらいたい。人への投資は、まさに未来につながる投資である。成果がすぐに見えづらいだけに、強い信念と忍耐が必要な取り組みとなるが、地方創生のキーマンとしての自負を持ち、これまで以上の人材育成に、その力が発揮されることを心から望んでいる。

◆協同精神の守護者 未来の人々を救う

 そしてもう一つは、「協同精神の守護者」としての役割発揮である。これまでも、協同組合として「相互扶助」「共存共栄」という、本来、人が生きていく上で欠かすことのできない価値を育み実践してきたことは、当然誰もが認めるところであるが、今後さらにこれらの取り組みは意味を持ってくる。
 戦後、日本の復興と豊かな生活を求めて、誰もが必死に働いてきた。その結果、日本は目覚ましい経済成長を遂げるに至るのであるが、このこと自体は、称賛に値することであり、この時代を支えてきた世代には畏敬の念さえ覚える。がしかし、過度の競争が生んだ格差や、労働環境の悪化による精神的な疲弊が社会問題化し始めることとなる。
 さらに平成という時代に入り、我々日本人は、本当に大きな災害に直面してきた。そのたびに、互いに助け合うことの大切さ、人と人とのつながりの大切さをかみしめながら、なんとか力を合わせて乗り越えてきた。災害時だけではない。社会全体がどれだけ効率化し便利になったとしても、人は決して自己完結しては生きてはいけないことを実感してきた。競争社会の中で生まれたひずみは、社会問題として未だに我々の生活に影を落としているのである。
 加えて、SDGsに象徴される環境への配慮は、今後の人類の生存を左右しかねないほどに緊急性を増している。これまでグローバル経済という名のもとに人類は多くのものを地球から収奪し続けてきたわけだが、今求められているのは、未来に生きる人たちへの配慮・思いやりなのだと考えている。具体的な取り組みが様々示されてはいるが、最終的にはこの思いやりを共有することが、求められているのだ。

◆自分のためではなく 誰かのために命を...

 すでにお気づきの方もいるとは思うが、ここまで挙げてきた様々な現代社会の課題のほとんどは、「相互扶助」「共存共栄」を掲げる協同の精神が解決してくれる。
 先にも書いたように、人が生きていく上で欠かせない価値観をJAグループは有している。かつてこの国は、このような価値観で満ち溢れていたはずだ。自然と対峙する中で、互いに力を合わせ乗り越えるすべを身につけてきた農民は、この国の人口の9割以上を占めていた。数少ない都市部でも、長屋文化が定着し、他者と共存することは当たり前であった。ほんの一握りの武士でさえ、自分のためではなく、誰か(主君)のために命をかける、そんな他者を思う気持ちが社会の基本であった。
 今一度こういった価値観を国民全体で再考しなければいけないときは必ず訪れる。「思いやりを持ちましょう」「環境に配慮して節約しましょう」と言われれば、その考え自体を否定する人はまずいない。だが、他人に利益を譲ってまで自らの行動を律しながら皆が生きられるほど、人は決して強くない。だからこそ教育が必要なのだ。これまで組合員教育を通して協同の価値を維持してきたように、中央会が、JAグループが、全国民レベルでこの価値を共有するための旗印になるときがきっと来る。
 これこそが長年の組合活動で築き上げてきた、最大の功績である。すでに一部の地域では協同の価値を組合員にとどまらず、より多くの国民と共有しようという取り組みが始まっている。北海道では中央会が窓口となり、小中学校に勤務する栄養教諭の初任者研修で、農村におけるホームステイを実施することにより、まさに教育の現場に協同の価値を定着させつつある。
 国民の命と健康を守り、さらには農村の再生や社会問題解決のキーマンとして奮闘する、これがJAグループのあるべき姿なのだと思う。今始まるJA新時代-。中央会、連合会、そして各単協の力を最大限に発揮させるため、改めて組合員一人一人が、自らの組織の存在意義を再確認し、それぞれに課せられた責任を果たすため、小さくとも未来につながる偉大な一歩を踏み出す時なのだ。

本特集の記事一覧はこちらからご覧いただけます
【今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で】

一覧はこちら

このページの先頭へ

このページの先頭へ