JAの活動:今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で
【鼎談・河合勝正 × 村上光雄 × 大金 義昭】JAへの思い 次世代に伝えて(2)2019年10月17日
わが「農協人生」を賭けて住みよい農村づくりへ
河合勝正 愛知県JA愛知東代表理事会長
村上光雄 広島県JA三次・元組合長(元JA全中副会長)
大金義昭 文芸アナリスト
左から村上氏、大金氏、河合氏
◆協同参画は一歩一歩 教育は将来への投資
村上 人間は男女半々なんだから、男女共同参画社会を目指すのは当たり前です。かつては戸主が組合員であればいいじゃないかと考えられてきたが、女性の社会進出が増え、女性理事を増やしたり、フレミズの女性が総会の議長に選ばれたりするなど、新しい動きが出てきました。男女共同参画社会の実現には、突破口を具体的に一つひとつ切り開いていく必要がある。
河合 私たちのJAでは、女性の参画に男性の抵抗はありませんでしたよ。JAの理事・監事30名のうち、6名が女性です。女性の提案はすべて受け入れてきました。何かと理屈を唱え建前を重んじる男性と違い、女性は決めたこと、口にしたことはすぐにアクションを起こします。周囲の目を気にしてなかなか行動を起こせない農村社会で、地域を動かす大きな力になっています。
村上 女性部に限らず、職員も男女の差を設けず登用してきました。女性の課長、支店長もいます。対応が丁寧だということで、組合員から喜ばれています。
大金 「ヒト・モノ・カネ」といった地域・経営資源の中で、「ヒト」の過半は女性ですから、この人的資源を生かさない手はない。
次世代の人づくりについてはどう考えていますか。
河合 女性組織、高齢者組織は自主的、積極的に活動していただき、それぞれの立場で力を発揮し、お互いの組織を尊重し合うことで相乗効果もみられ、力強く感じていますが、心配は、次世代の育成です。
JAを理解し、地域社会のことまで考える社会環境になっていないことも要因でしょうが、協同組合運動に対する理解が進んでいません。若者からお年寄りまで、地域住民を含めた教育活動がおろそかになっていることは大きな反省材料です。
そこで、昨年から全ての組織を一体化した組合員大学(みんなのこころがこだまするの意味で「やまびこ大学」)を立ちあげました。元気なお年寄りや女性の力を借りて、地域や農村をリードする若者づくりをすすめようという狙いです。
もう一つは、管内の小・中学校、高校との関わりを多く持つ活動です。十数年前からはじめたこども農学校は、故郷の価値を感じてもらうこと、農業の意義を考えてもらうこと、農業に携わる人々の心に触れてもらうことなど大きな成果が生まれています。また全ての学校で行われるスポーツ競技には、「組合長杯」を出すなどで、活動が広がっています。
さらに、新規就農者を呼び込む活動も行っています。行政や指導機関やJAが総力をあげて取り組んでいます。その結果、管内以外からの定住就農者は、この5年間で60名を超えました。こうしたことは「自己改革」ではなく、農村地域の悩みを解決するための当然の取り組みだと考えています。
JA愛知東の新規就農希望者への説明会
◆ ◇
大金 自助・自立があって互助・共助があるというのが協同組合の考え方ですよね。若い世代にこれをどう継承するかということですが、JA三次の場合はいかがですか。
村上 次世代を直接教育したいのですが、できるのはJA青年部くらいで、全体に投げかける有効な方法が必要です。子どもの食農体験などに参加してもらい、将来、農業を継ぐかどうかは別として、命や食べ物を大切にすることを学んでもらうことが将来の財産になるのではないか。時間がかかるが、一つひとつ地道にやるしかないでしょう。
◆構造改革は徹底説明 痛みを伴なう要望も
大金 次世代の育成は、JAの「先行投資」でしょ。そうした組合員活動のオルガナイザーとして果たす職員や支店の役割が欠かせませんが、この点はいかがですか。
河合 JA愛知東には12支店ありますが、地域によってそれぞれ条件が違いますから、支店ごとに活動のテーマが異なる。組合員さんの意向を重視し、みなさんが集まりやすい課題を中心にアクションを起こすようにして、それぞれの取り組みに応じた資金援助をしています。大事なのは「運動」で、「経営」はそのための手段だと考えています。
しかし、経営がしっかりしていないと運動が続けられない。このため、組合員さんには痛みを伴う要望もします。たとえば、山間部の支店やガソリンスタンドをグループ化して、営業日を減らしたりしました。毎日給油する人はいないので、営業日を減らすことで人件費の削減につながります。
そして改善状況も踏まえ、すべての事業所の収支状況は支店運営委員会を通じ、組合員に分かるように開示しています。要するに、それぞれの支店において経営の自立ができなければ、支店管内のみなさんへの自立支援も難しくなるなど、危機管理を共有する取り組みでもあります。
◆ ◇
隣接するJAと共同運営するJA三次の葬儀場
大金 経営・収支の「見える化」ですね。抱えている問題を組合員のみんなと共有することで信頼関係が維持される。JA三次では、村上さんが唱える「構造改革」で経営問題に取り組まれましたが。
村上 支店統廃合は試行錯誤し、苦労しました。私たちの場合は「統廃合」ではなく「機能再編」として考え、取り組みました。いわゆる「スクラップ・アンド・ビルド」の考え方で、新しい機能を持たせて「再編」する。店舗が遠くなるかもしれないが、「再編」後は土曜・日曜も営業するなどの方策を講じ、組合員さんの理解を得ました。協同組合は組合員によって成り立っている組織ですから、組合員さんの理解を得ることが第一です。本当のことを正直に言えば、必ず分かってもらえますよ。
よくよく話し合い、お互いの知恵を出し合う。「機能再編」は段階ごとに計画を立てて明示し、計画通りにできなければ元に戻すことを約束して臨みました。説明の期間を十分にとり、問題があったらその都度説明に行くなどして、一気にやることはしませんでした。年数はかかるが、最終的にはほとんど反対の声もなく目的とする「再編」ができました。
どの事業も、もはや右肩上がりは望めず、横ばいならいい方です。従って小手先の部分修理ではどうにもならず、構造的に変わらなければなりません。少ない収益でも、少ない人員でもちゃんとやっていける体制や仕組みをいかにつくっていくかが「構造改革」だと思います。そのために、葬祭事業などは近隣のJAと一緒にやりました。大きな投資を伴う事業は、エリアを広げた方が効率的ですからね。
河合 JA三次さんの取り組みは、20年も前から手本にさせていただいています。協同組合間連携や県連との一体化事業展開など大変参考になります。
大金 JAグループをお城にたとえるなら、「単協は本丸、県連は内堀、そして全国連は外堀」じゃないかと私は常々考えています。その外堀を埋めるような攻撃が、この度の「JA全中叩き」であったように受け止めているのですが、いわゆる「農協改革」についてはどのようにとらえてきましたか。
村上 官邸主導の「農協改革」は、TPPに反対したJAグループに対する「意趣返し」だった。これは誰の目にもはっきりしています。そのために、農協はピラミッド型の組織だと勝手にレッテルを張り、その頂点にJA全中があると見做して、つぶしにかかったのです。組合員にとってJA全中は雲の上のような存在だから、JA全中を叩いても組合員は反対しないだろうと読み込んでいた。私たちは足元を読まれていたのです。
河合 JA全中は、9月30日に一般社団法人に組織転換しました。協同組合法の本則から外れたことは極めて残念なできごとだと捉えています。今日までJAグループの司令塔として、その存在価値は総合農協を維持発展させてきた要(かなめ)でもあったと認識しています。
そうした重要な意志決定がJA全中の理事会だけで最終判断したのはいかがなものかと感じています。少なくとも組合員組織ですから、単協の理事会で意見を求めるくらいの配慮があってもよかったかなと思っています。もっと言うと、全国の組合員に理解してもらう機会をつくることもあったのではないか。おそらくJA段階で議論すると、8割以上のJAが、中央会を協同組合の法制から外すことに反対決議をしたと思われます。
全国組織といえども、底辺は組合員であることを忘れると組織は思わぬところから綻びていく危険性があります。人の結集力がJA組織の武器です。組合員の知らないところで組織の基本的なあり方が変えられることなど、民主主義国にあっては言語道断です。この機会に、3段階の組織のあり方も含め、再確認する必要があるのではないか。
村上 信用・共済事業の分離や准組合員の利用規制などは、これからも「ためにする」議論が吹き出す危険性や可能性が十分にあると思いますが、これらの問題にしっかり対処するためにも、私たちは地方自治体を巻き込んだ取り組みを行うべきだと思いますね。TPP反対の時にはそれがあったが、「農協改革」では見られませんでした。JAの力が弱くなると、地域を守れなくなるのだということを訴え、幅広い協力や支援を求める。同じ地域に根差した組織として、地方自治体の支持を強く訴えるとともに運動に巻き込んでいくべきです。
大金 ともあれ、官邸主導の恣意的なJAバッシングを契機に、JAグループは懸命な「自己改革」に取り組んできました。ピンチをチャンスにする協同組合運動の再構築が当面の本質的で最大の課題ですね。協同組合としての組織・事業・経営のあり方を盤石にするためにも、大きな節目だと思います。
【鼎談・河合勝正 × 村上光雄 × 大金 義昭】JAへの思い 次世代に伝えて<3>
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