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特集:JA新時代を我らの手で JA全国青年大会

2020.02.19 
現地レポート 島根県・草野拓志氏 地域とJA 我らが拓く(2)一覧へ

新規事業に次々挑戦 農業で地域に仕事と雇用
島根県農協青年組織協議会会長 草野拓志さん

 これまでに挑戦した作目は水稲、イチゴを始め、ナス、メロン、ベビーリーフ、青汁用のケール、さらにスイセンやヒヤシンスの球根・切り花などと幅広い。島根県西部の益田市美都地区を中心に農業だけでなく、それに関連した事業を幅広く展開する第3セクター、有限会社「アグリみと」。その責任者の一人である草野拓志さん(31)は、兄の祐一さん(33)とともに、次々と新しい事業を取り入れて雇用をつくり、地域のけん引車の役割を担っている。JA青年部の活動もこの延長線上にあり、「みんなで力を合わせてやったら面白いと思われるような活動がしたい」と意欲を示す。

草野拓志さんと球根のほ場草野拓志さんと球根のほ場

 拓志さんが、水稲とイチゴの専業農家だった父親の後を継いで、福岡県農業大学校を卒業して就農したのは10年前の20歳のときで、農業以外の仕事は考えていなかった。両親と、1年早く就農していた兄の祐一さんとともに草野農園を立ち上げ、兄弟の新たな農業への挑戦が始まった。

 草野農園の中で、拓志さんが水稲を中心とする美都農場、兄が観光イチゴの山折農場と分業体制をとり、2010年に地元の農業法人、「有限会社アグリみと」の経営を引き受けた。併せて経営が悪化していたライスセンターの運営も引き受け、事業を拡げた。「アグリみと」が受託していた水田を引き継いで、現在、水田面積は約10ha。兄の山折農場は観光イチゴのハウスが150アールと経営面積も拡大した。このイチゴハウスは通路を広くとり、車椅子でもイチゴ狩りを楽しむことができる。

 さらに2011年に、苦しくなっていたベビーリーフの2ha経営を引き継いで、あらたに萩・石見空港の近くに白上農場を開設した。草野さんは「『アグリみと』も、ベビーリーフも、向こうから相談があって引き受けた。それが続き、とんとん拍子に規模が大きくなった」と言う。現在、従業員、役員合わせて20人余りが働いている。

春先にはヒヤシンスの花が一面に春先にはヒヤシンスの花が一面に

地図 それだけではない。さらに2016年には、スイセン、ヒヤシンス、アイリスの隔離栽培を始めた。これは輸入時の検査だけでは発見が困難なウイルス病などの発現を防ぐため、一定期間、ほ場を隔離して栽培するもので、無菌と分かって初めて国産として販売できる。これも県内の安来市で栽培していた地区が高齢化で対応できなくなり、困ったバイヤーから相談があって始めた。現在、約70万球の生産があり、「おそらく西日本で最大」とみる。このほか、青汁用のケールも栽培している。

◇   ◇

 全てが成功したわけではない。2012年には、広島市内におにぎり屋を開店。そのため大阪のおにぎり屋で修業したが、1年で撤退した。自分の性格について草野さんは「猪突猛進」と自己分析するが、新しい事業に挑戦するときには徹底的に調べ、準備する。しかし経営上、継続が困難とみたら撤退も早い。

 広島でのおにぎり屋は他人に任すことが難しく、自分が直接運営していては、「アグリみと」の事業が続けられないと判断して撤退した。「アグリみと」で行っていた葬祭事業も、黒字ではあったが「時間をとられて自分のやりたい農業ができない」ことが分かり切り離した。

◇   ◇

 草野さんには生まれ育った美都という基盤があり親戚も多い。それだけに地元に密着した事業を展開するには、地元の人の信頼が欠かせない。赤字だった農業法人「アグリみと」の運営を引き受けたのもそうで、必要な株は時価でなく額面で買い取った。火中の栗を拾うようなものだと忠告する人もいたが、農地を預けている農家や出資している人とともに、地域のために役立つことをしたい」という思いが根底にあった。

 「人に迷惑をかけず、喜ばれる仕事をする。それが『アグリみと』のやり方であり。近江商人の"3方よし"にもあるように、商売は人と人の信頼が大事」と、人のつながりの大切さを強調する。高齢化と担い手不足から、水田の委託を望む農家が増えている。それを預かつて地代を払うのではなく、"逆地代"を求めるべきだという人もいるが、「それをやったらお仕舞い。地代を払って信頼を得て、ちゃんと事業を続けられるように経営努力するのが商売だ」という。

 そうした姿勢が事業の拡大につながっている。草野農園の米は、ほとんどを独自のルートで販売するが、市の老人ホームや学校給食にも提供している。1袋(30kg)8600円の売価は、生産に必要なコストを相手に示し、納得して買ってもらった価格であり、何年も前から変わっていない。「共存共栄の精神でお互い納得できるようすり合わせした価格だ」と草野さん。ホームには「アグリ農園」の田んぼを預けている入居者も多く、間接的に自分のたんぼの米を食べていることになる。そこに草野さんら作る人と、入居者の精神的なつながりをみることができる。

 いまはJA青年部会長のほか、JA島根中央会の理事も務めており、時間的な余裕がないが、将来、確実に増える委託希望の農地は「地域のため、できるだけ受けるつもりだ」と草野さんは言う。米に限定せず、牧草を作り、レンタル放牧することで農地を守る一つの手段だと考えている。草野さんの将来の経営構想のなかには、肉用牛の繁殖もある。

◇   ◇

 益田市周辺は平成元年、国営開拓パイロット事業で460ha農地ができた。ブドウやトマト、ケール、西条柿、麦、大豆などが栽培されているが、高齢になって経営の維持が難しくなった農家も出ている。白上農場は、そうしたハウス農家のベビーリーフの経営を引き継いだもので、売却した農家には、引き続き一定期間、作業慣れしたほ場で働いてもらい、土地や施設の代金を退職時に支払う。これによって、購入時にまとめて必要な農地と施設の代金を用意する必要がなく、経営リスクを軽減できる。草野さんは、このやり方に経営規模拡大の可能性を探っている。

 草野さんは、組合員農家とJAの経営が成り立つ指標として、個々の農家の販売高700万円が必要とみる。つまり、経済事業で農家とJAがウィン・ウィンの関係になり、お互いがやっていけるというわけだ。そのためには「JAは営農指導を徹底し、新しい市場造成にコミットメントすること。JAと農家が一体となって付加価値を高め収益率をアップさせる仕組みをつくれば、売上高700万円は達成できる」と、JAの指導事業に期待する。

 JA青年部には、10年前の就農時にJA西いわみ青年連盟部に入った。同連盟の委員長を経て、昨年、島根県農協青年組織協議会の会長になった。「人の人生を支える農業という仕事は尊いことをしみじみと感じている。支部、県単位でも食育活動を展開しているが食への知識を高めるのはもちろん、不自由なく食べられる状況がどれだけありがたいことなのか今一度見つめ直す活動にしていけたらと思う」と抱負を述べる。

草野農園のナスのポスター草野農園のナスのポスター

 

【JA新時代を我らの手で JA全国青年大会】

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