JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】現地ルポ:JA松本ハイランド(長野)「自分たちのJA」絆強く 「組合員主体」ブレない運営2021年7月20日
協同組合運営の要諦は組合員による組織活動にある。組織活動を通して、組合員が主人公だという当事者意識を持つことが、JA組織の強化につながる。長野県のJA松本ハイランドは、この組織活動を徹底。その基盤となるのが女性・青年部などの組織のほか、集落を単位とする「農家組合」だ。組合員主体の運営が基盤になっている。(取材・構成:農協協会参与 日野原信雄)
農家組合が対話の要
長野県は北から北信、中信、東信、南信の4地区に分けられる。それぞれ独自の歴史と風土があり、特徴のある農業を展開している。JA松本ハイランドは松本盆地にあり、平地の少ない長野県では比較的農業条件に恵まれた地域だ。松本市の市街地を除き、西に北アルプスを臨む、農地地帯が広がる。
栽培作目は多様で、野菜、果実、特産(花き、きのこ採種など)の園芸特産が全体の半分を占め、残りを米穀、果樹、畜産で三分する。組合員数は約4万人で正組合員は約2万5000人。正組合員である農家の比率が高く、2021年度の農産物販売額は約187億4000万円。都市型JAであるとともに農村型JAの性格も強く残している。
全集落に農家組合
昔からの集落機能も健在で、農家組合は集落の組合員で構成する。組合員とJAを結ぶ組織であると同時に、総代や理事の選出母体としての機能をもち、JAの基盤組織として重要な役割を果たしている。
農家組合の目的は、集落を単位に、そこで暮らす人々のしあわせを協同の力で実現することにある。従って、活動は組合員の営農や生活のすべての分野にわたり、集落内の准組合員を含む全組合員で構成される。
農家組合には、基盤組織としてJAの運営に係わる基本的な活動と集落における課題をテーマとする自主的な活動がある。JAの運営に関しては、事業や活動に対する組合員の声をJAにつなぎ、またJAからの情報を組合員に伝える役割を持つ。
マレットゴルフ場の草刈りをする農家組合のメンバー
重層的な対話構造
この組合員の声をJAにつなぐ仕組みは、同JA独特の重層構造になっている。つまり組合員の声は農家組合の班長を経て同役員会につなぎ、そこから、(1)農家組合長⇒支所農家組合長会⇒農家組合長会長会(2)農家組合長⇒支所運営委員会⇒理事⇒理事会(3)総代⇒支所別総代会(4)各組織代表⇒各組織(生産部会、青年部、女性部、JA)と、複数のルートがある。
このほか営農生活くるま座集会・集落懇談会や、一斉訪問・日常の訪問活動などによる職員経由のルートを加えると、組合員の声は四重、五重に担保されており、組合員の声を重視する同JAの姿勢がうかがえる。
一方、JAからの情報は農家組合の役員を通じて、くるま座集会によって組合員に伝えられる集落懇談会、集落組合は組合員とJA双方の情報伝達機関として、重要な役割を果たしている。
自主的な協同活動では、食料問題の学習会や組合員の体力づくり、地域の利用者のための農園づくりなどのほか、遊休農地を活用したソバづくりや放棄されたマレットゴルフ場の再生などさまざま。
農家組合は、組合員による「班」で構成され、班長がまとめる。班長は農家組合長を補佐し、組合員を誘って農家組合活動に参加する。また農家組合には支所単位に農家組合長、班長などを構成員とする農家組合役員会があり、協同活動などを通じて支所の事業・活動をサポートする。
農家組合長のほか、支所によっては農家組合役員会には所属の「くらしの専門員」も参加する。福祉文化活動や健康管理、購買事業などの情報を組合員へフィールドバックする。また事業に対する組合員の意見・要望をつなぐ役目を果たす。
モデル組合へ支援
一方、同JAではモデル農家を選定し、農家組合活動を支援している。1支所1カ所ずつ、農家組合を選定。「集落内のコミュニケーションを深め、農家組合がより活発に展開されるきっかけになれば」との期待で、2005(平成17)年度から実施している。活動のテーマは自由で、集落の抱えている課題をみんなで参加・解決しようという取り組みならなんでもよい。一つのモデルに初年度7万円、2年目3万円を助成する。
この支援の背景には、高齢化、人口の減少で活動が落ち込んだ農家組合が出てきたためだ。集落の結束力を再生させようという狙いがある。2020(令和2年)度は、合計で42件のモデル農家組合に172万円を助成した。
農家組合も参加して支所協同活動のサツマイモ植え付け
支所ごと"小さな協同"
支所協同活動強化へ
同JAはいま、支所運営委員会のあり方について検討を進めている。同委員会は支所の協同活動をリードするため、活動を展開してきた。具体的には全支所で「夢あわせ農園」や支所ごとの地域催事への参加・出店、支所JAまつりなどを行い、組合員の参加を促してきた。
21年度はコロナ禍の影響で多くの活動を中止に追い込まれた。また、直近の昨年11月には合併でJA松本市、JA塩尻市が加わったが、JA松本ハイランドのような組織活動の基盤があるわけではない。
これまで数回の合併を繰り返し、大型化することで経営基盤は強化されたが、このままでは組合員とJAの距離が遠くなることを懸念。「組織基盤を強化するため支所単位での事業を土台とする共助の組織づくりを強化する必要がある」(田中均組合長)と考え、協同活動とリードする支所運営委員会のあり方についての検討に乗り出した。
支所運営委員会は女性部や青年部など組合員の各組織の代表者のほか、地区担当理事、総代、農家組合、くらしの専門委員代表などで構成する。検討委員会では、農家組合の活動など支所単位の「小さな協同」による運営を強化するための方策を検討する。組合員・支所が主体となる仕組みづくり、支所運営委員会の権限と予算、構成員の見直しなどを協議する。
共選場は自主運営
農家組合は、いわば組合員参加の横展開だが、生産者による部会の組織は縦の組織としてJAを支えている。同JAの野菜共選場は、生産部会の自主運営で、利用料金や増改築は部会で協議して決める。このため、同じ作目でも、施設によって利用料金が異なる。
これによって共選場は「自分たちの施設」という意識が生まれ、それが「自分たちのJA」につながるというわけだ。共選場のほか、ライスセンターのどのJA施設も、部会によって自主運営されている。
◇
もともと日本の農協組織は、明治の産業組合時代から、旧小字単位の集落を基礎単位として発展してきた。農作業における農村の結(ゆい)が精神的紐帯(ちゅうたい)となり、産業組合、戦後の農協につながったということができる。その集落が人口の減少と高齢化で、かつてのような機能を果たさなくなった。
JA松本ハイランドは、もともと集落のまとまりがよかったところに、それを生かしながら農協運動を展開してきたところに特徴があり、強みがある。コロナ禍のなか、新たな人のつながりが求められている。集落の今日的意義・役割をあらためて考える必要がある。
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