JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】多様な形態 学び合い 「理念を形に」まい進 田中均JA松本ハイランド組合長に聞く2021年7月21日
組織活動は協同組合組織であるJAの基本である。口で「組織活動強化」をとなえるのは簡単だが、長野県のJA松本ハイランドは、農家組合や生産部会を始め、さまざまな組合員の組織づくりによって、これを徹底して実行しているところに特徴がある。組合員は組織活動への自主的な参加の積み重ねによって、JAを自分たちの“財産”と考え、JAの活動に参加・参画している。「理念を形に」と同JAの田中均組合長は言う。その取り組みを聞いた。(聞き手・構成:日野原信夫 農協協会参与)
組合員による組合員のための組合員のJAモットーに
農家組合活動に助成
田中組合長
――JA松本ハイランドは、組合員組織が活発に活動しています。JA運動のなかで組織活動をどのように位置付けていますか。
農家組合はJAの重要な組織基盤の一つです。集落を単位にそこで暮らす人みんなの幸せを協同の力で築こうというものです。生産部会のように営農活動を目的に結集した縦の組織と違い、横に結集した組合員による自主的な組織です。現在、375の農家組合があります。
活動を支援するため、JAでは毎年モデル農家組合を募集し、テーマに沿った活動に対して助成金を出しています。例えば地域の人々と一緒に農園をつくるとか、子どもが参加するイベント、花いっぱい運動などがあり、テーマは自由です。初年7万円、2年目3万円です。これがきっかけとなり、協同活動に取り組む集落が増えています。
ただイベントだけで終わる組合もあり、もう少し横展開できないかと考えています。それには支所単位で、自助を土台とした組織づくりをする必要があると考え、いま支所運営委員会のあり方を検討しています。いわば農家組合は点ですが、支所での活動で面的な広がりを持たそうというものです。
その必要性は、JAが協同活動を担う人づくりのため行っている「協同活動みらい塾」や「はつらつ大学」などの修了者が、せっかく協同組合のことを学んでも、実際に活躍する場が十分保証されていないと感じたからです。
JA松本ハイランドは昨年11月、JA塩尻市、JA松本市と合併し、組合員4万人を超える新たなJAとしてスタートしました。合併という大きな協同は経済合理性の面でメリットはありますが、"寄らば大樹の陰" なり、自助が後退して共助だけを求める傾向が強まる心配があります。
総代減らし運営委員
JAでは平成26(2014)年、900人の総代を600人に減らしました。一方で支所運営委員会の参加者を400人増やしました。組合員の自主的な協同活動を支えるのが役目です。そのための支所運営委員会です。今後、組合員・支所が主体となる仕組みづくり、権限と予算付け、准組合員を含めた構成員の見直しなどを検討する方針です。
――支所協同活動の具体的な活動にはどのようなものがありますか。
一例を挙げると、ある支所では、数人の組合員が会費を募り、福祉施設の協力で買い物弱者のための送迎車を走らせています。小さな協同の一例ですが、困りごとを自分たちで解決するという、"自動巻き"活動を増やしていきたいと考えています。それが組織基盤を固め、JAの事業・経営基盤強化につながるのだと思います。
自動巻きの基本理念は自助の精神にあります。宮脇朝男・元JA全中会長は「農協はいつの時代でも自助を土台とした共助の組織。自らを助け、自らが立っていくという決意の上にお互いが手を握って共に助け合っていく。そこに農協の協同組合たるゆえんがある」と言っていますが、その原点に立ち返る必要があると思います。
部会が共選所を運営
――その考えはJA松本ハイランドの共選所の運営・管理にみられますね。
野菜・果実の共選場所はすべて生産部会によって運営されています。施設はJAがつくりますが、運営は部会員の利用料金によって賄います。余剰が出たら、原則として部会員に返す仕組みです。
これによって「施設は自分たちの財産だ」という意識が育ちます。ライスセンターの運営も同じ仕組みです。このような施設運営は全国でも珍しいのではないでしょうか。多くのJAは施設の利用料は固定されていますが、当然ながら、JA松本ハイランドでは利用料金は変動します。
これも重要な協同活動です。自助があっての共助です。共助は単なる理念でなく実践していくものであり、JAの役割はその仕組みを考えることだと思います。
福祉は皆のしあわせ
――JA松本ハイランドは、前身の松本平農協のころから福祉事業には定評がありますね。
福祉の「福」も「祉」も「しあわせ」という意味があるそうです。単に弱い者を救済するというのではなく、福祉とは相手にとってなにがしあわせかを理解することだと聞いています。なるほどと感じましたね。
地域で暮らす人の困りごとを解決することが福祉ということは、農協の事業すべてが福祉と考えてもよいのではないでしょうか。
現にデイサービスにしても、それによって家族の介護負担が減り、農作業に専念できます。それがまさに福祉です。介護を受けるお年寄りだけの福祉ではなく、その家族全体の福祉であり、それが営農の継続につながり、地域全体がしあわせになるのだと思います。
家族農業で生産維持
――営農を継続するための、地域農業のビジョンはどのように描きますか。
10年先の農業はどのような姿になるのか見当つかないというのが本音です。食料・農業・農村基本計画では、所得の増大と輸出の拡大を挙げていますが、輸出の拡大が果たして所得の増大につながるのか疑問です。
ただ、いま大事なのは、現状を維持することだと思います。人口が減る中で生産の拡大は難しいでしょう。一番は遊休農地を出さないようにして農業の生産基盤を維持することです。それは法人組織でも、担い手による組合、あるいは家族経営でもかまわない。それぞれの地域の特性を生かした多様な農業形態があってもいいのではないでしょうか。
最近、管内で家族経営の野菜農家が法人化する例がみられます。例えばネギで親子、兄弟による法人化などです。家族経営だと、勤めをリタイアした人でも十分戦力になります。他の産業を経験した人は消費の変化に敏感で、幅広く農業の人材を求めるという意味でも、これは一つの農業のあり方だろうと思います。
「ふれあい」見直し
――今年10月に開催する第29回JA全国大会議案で、協同組合らしい人づくりを挙げています。これからの人づくりについてどのように考えていますか。
単に人を集めたセミナーだけでは人が育たないと思います。中組学園で3年間学びましたが、そこで仲間と農協運動について侃々諤々(かんかんがくがく)議論しました。そこで生まれた人と人のネットワークが大事です。机上でなく、体に染み込む教育活動が必要です。
ネット研修では、知識は得ても協同活動の本質は身に付きません。やはり協同活動は、人と人のふれあいから生まれるものであり、それが職員や組合員の教育の場でもあるのです。
その意味で、JAの「協同組合みらい塾」、「若妻大学」などで人づくりに力をいれています。塾や「大学」を終えた人の活躍する場を広げると、総代や理事などになる人も増えてきます。各種のセミナーは、それで終わりでなく、始まりだと考えています。
――協同組合はSDGsにどのように関わるべきでしょうか。
SDGsは農協の本来の役目です。家族農業の役割が見直されていますが、SDGsに貢献していることは数値的にも明らかです。2ha下の小規模農家が世界の資源の20~30%で食料の50~70%を生産していると言われています。その意味で家族農業が生産性においても、工業型農業よりも優れていることが分かります。
コロナ禍は、改めて人と人の触れ合いが大事だということを示しました。改めて協同組合の価値が見直されたと思います。
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