JAの活動:第67回JA全国女性大会特集
【第67回JA全国女性大会特集】里山と生きる 石坂産業女性専務に聞く(1)「ゴミ」ゼロめざし産廃処理から土づくり2022年1月21日
埼玉県三芳町の石坂産業は約50年前から産業廃棄物を「ごみにしない技術」に挑戦。98%の再資源化を実現するなかで、工場周辺の平地林の整備と農園づくりにも取り組み、自然と地域と共生する企業の姿をめざしてきた。こうした産業廃棄物処理業の大きな転換に取り組んできたのが、現在の石坂典子社長と石坂知子専務だ。石坂専務にこの20年の歩みとめざす姿を聞いた。
石坂産業 石坂知子専務
産廃業者も風評被害に
石坂産業の創業者は現社長の父の石坂好男氏。石坂専務にとっては叔父にあたる。
入社したのは1995年。その4年前に現社長が入社しました。当時、産廃業者といえば女性が働く職場ではなく、従業員数も50人程度で、家業というかたちでした。
ただ、1997年には他の会社に先駆け、ダイオキシン恒久対策炉へのリニューアルを行いました。当時、私たちの周辺には同業他社の煙突が58基ほど並んでいて、このあたりは産廃銀座と言われていました。そのなかでも真新しい高い煙突を掲げていたのが石坂産業でした。
そのころ、後に誤報だと分かりましたが、所沢のホウレンソウから高濃度のダイオキシンが検出された、と全国に報道され、埼玉の野菜が一切売れなくなってしまうということがありました。
ニュースによる風評被害が広がる一方、所沢をはじめ埼玉県産の野菜を買い支えようというJAグループの取り組みも当時は展開された。
農家のみなさんは黙っておらずテレビ局を相手に訴訟を起こし、結果として誤報でありテレビ局は謝罪しました。しかし、風評被害は続き、農家のみなさんの矛先は産廃業者に向きました。
当時、私たちは地域のためにこの事業を始めていたものですから、正直、反論したかった。ごみを出すのは誰ですか、と。まるで石坂がごみの発生施設のようにたとえられてしまったことが非常に残念でした。署名活動も起きて、農業と産廃は共存できない、という垂れ幕も掲げられたほどです。 そのころ、教育現場で一般廃棄物の処理場の見学は行われていましたが、税金で処理されない産廃については、見えない業界、あるいは見せない業界でした。
当時の産廃業者のスタイルは安全鋼板で囲って、地域の人が中を見ることができないものでした。危険なので近寄らせないということでしたが、そんな閉鎖的なイメージが地域の人々が見る目をさらに悪化させ、風評被害もヒートアップし、何か悪いことをやっているのではないか、などと噂(うわさ)が広まってしまいました。
創業者の原点を知る
そんなときに現代表の石坂典子が創業者の石坂好男に、なぜ、この事業を始めたのか、初めて聞く機会がありました。
もともとは土砂処理業から始め、練馬区に事務所を構え、ダンプ一台に土砂や廃棄物を積んで、東京湾の夢の島に海洋投棄に行くという仕事でした。朝5時にも関わらず100台以上もダンプが並んで、どんどん海に捨てていく。それを見ると、まだまだ使えるものがあり、資源のない日本でこの状況が続くのはいいはずがない、これからはリサイクルの時代、ごみをごみとしない社会を作らなくてはいけないと思ったということでした。それでここ埼玉県三芳町に移転して、中間処理業、リサイクル事業をスタートしたというのが創業者の思いでした。
これを聞いたとき、自分たちの仕事はまさに日本にとって必要な事業で、この価値を知ってもらわないと地域に愛される業界には変えていけないと思い、現社長は焼却事業から撤退を主張し産廃をリサイクルする再資源化プラント工場を立ち上げを決めました。
あのときそういう判断をしていなければ今のような石坂産業はありません。
産業廃棄物の再資源化を極限まで進めようと手選別に汗を流す関係者
処理する人を「見せる」
同時に、こうして新しく転換した産業廃棄物処理という事業をどうしたら理解してもらえるのかを考えました。賛否両論はありましたが、私たちはまだ若かったこともあって、いっそのこと、工場の中を見せたらどうか、と提案しました。誰が産廃屋なんか見に来るんだ、お菓子工場ならおいしいお土産を持って帰ってもらえるが、ごみでは誰も喜ばない、といった反対意見も飛んできました。
そのとき、私たちが本当に見せたかったのは、汗水たらして廃棄物のなかに手を突っ込んで手選別をしているスタッフの姿です。その姿を見ていただければ、価値を分かってもらえるのではないか、と。誰もやりたがらない仕事、でも誰かがやらなければならないこの仕事を見て、何かしら共感してもらえるのではないかという、根拠のない自信がありました。
それで工場見学通路を作り、現在、年間5万人を超える方々が足を運んでくれるような工場に生まれ変わりました。
地域との関わり深める
同社の所在地は江戸時代から続く、平地林の落ち葉をたい肥にして利用する農法が行われている「三富」(上富・中富・下富)地域。日本農業遺産にも指定され、実はリサイクルの地である。同社は今、工場周辺の平地林の整備から始めて「三富今昔村」という里山体験や農業体験、さらに農業法人も立ち上げている。
平地林の地権者は手入れをし保全していくのは費用と労力がかかって大変だということでした。ジャングル化し不法投棄の温床にもなってしまっていました。
一方、その当時、企業の社会貢献活動のメインは海外に植樹をすることでした。しかし、私たちは地域で困っているこの森を再生させることが、まさしく社会貢献活動ではないかと考えました。地域に必要とされる事業体に変えるのであれば、地域の森の再生から始めようと、地権者の方に整備をさせてほしいと声をかけたのです。
一方で、工場見学通路も作りましたから、口コミで訪れる人が増えて、私たちの事業に理解をしてくれるようになった人からは、森に遊びに来たいという声がかかるようになりました。
そこで社会科見学や地域の保育園、幼稚園の遠足の場として一般公開しながら、手入れした森を広げていったということです。
最初はわずかな面積でしたが、今では工場の周囲の森すべてを、一部は購入しましたが、大半はお借りして管理しています。東京ドーム4.5個分、20万平米もある土地です。最初は森への入場は無料としていましたが、一緒に森を保全していきましょうという思いも込めて、今は里山保全費として入場の際には大人の方に500円をいただいています。それでも社員の人件費がかかりますから、まだ採算は取れていませんが、里山での体験を通じて、社員にも、訪れる方にもウェルビーイング、つまり、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態に近づいてほしいと願っています。
里山と生きる 石坂産業女性専務に聞く(2)「産廃から土」循環のカギ
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