JAの活動:農業復興元年
【農業復興元年】農の多様な役割を広く発信 消費者と課題共有を 協同組合の真価発揮へ JAトップ座談会(1)2023年1月5日
コロナ禍とウクライナ戦争で資材やエネルギーの価格が高騰し、農業はかつてない危機に直面しているが、一方で食料安全保障への国民の関心も高まっている。危機の深化を逆手にとり、農業や地域の復興に向けてJAは何をなすべきか、協同組合の真価が問われている。「JAcom」 では、「2023農業復興元年」をテーマに、独自の地域振興策に挑む農協の現場レポートやJAトップによる座談会、専門家の提言を通してこの問題について考える。
今回はJAのトップ3人に地域の取り組みや、その展望を語ってもらった。司会は文芸アナリストの大金義昭氏。
(出席者)
JA秋田しんせい代表理事組合長 小松忠彦氏
JA茨城県中央会代表理事会長 八木岡努氏
JA福岡市代表理事組合長 鬼木晴人氏
(司会)文芸アナリスト 大金義昭氏
食守る価値を醸成の好機 農業は国民の問題
大金 新年号のキーワードが「2023農業復興元年」です。その中核となるのが、地域を担っている農業協同組合だと思います。今日は、地域の農業や暮らしが抱えている問題、それにJAがどのように立ち向かうかなど、幅広くお話しください。
JA茨城県中央会代表理事会長
八木岡努氏
八木岡 最近感じるのは長引くコロナ禍やウクライナ問題などで国民のみなさんの食料安全保障や国産を重視しようという声が大きくなっていることですね。この機に何ができるのかを考えなければなりません。
茨城県は47都道府県のなかで耕作放棄地を解消した面積が一昨年、全国一になりました。サツマイモや枝ものの作付けを通じてです。また、国は「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、今年は2年目になります。私は新規参入者や若い担い手が腕をふるえる環境や条件が大きくできつつあると考えています。それを誰かが後押ししたり、寄り添ったりして助けていかなければならない。まさにその役割を担うのが私たちJAの仕事ではないか。いいチャンスではないかと思っています。
同時に「買って使って食べて支えて」くれる人たちにどうやって農業の価値を伝えていくか、それを一所懸命に考えています。そこで力を入れているのが「広報」です。JA青年部をはじめとする若い農業者たちをウェブサイトなどで取り上げて県民や国民のみなさんに知っていただき、さらにこれから農業をやりたいという人たちにも情報を発信しています。
大金 危機が深化し、逆境の渦中にあるわけですが、それをチャンス(好機)にという「逆転の発想」と構えですね。鬼木さんはいかがですか。
鬼木 私が20歳の昭和45(1970)年ごろ、農業は「曲がり角」だと言われました。それから曲がって曲がってばかりで、昨今の基幹的農業従事者数は120万人余まで減少しています。
「憲法改正」の議論をするなら、「国民の食料を守ることは国の責務である」といったことを憲法で謳うべきではないかと私は思っています。それから農業者への所得補償ですが、EUでは農業所得の7~8割を所得補償が占めています。当今は政策として食料安全保障の確立が重要だという流れになっていますから、チャンスですね。この際、農業は消費者の問題であるということをしっかり訴えていかないと。
私たちはこれまでどうも「内向き」で、農業が厳しいということを訴えても外にはあまり伝わってきませんでした。だから外に向かって広く国民のみなさんに発信することが必要ですね。
地域との連携強化 エリアごとに特性生かした営農を
大金 小松さんは、いかがですか。
JA秋田しんせい代表理事組合長
小松忠彦氏
小松 秋田県は農業人口もそうですが、人口減少率が日本一高い県です。ですから農業の現場が弱体化し、それが進行しているのが現実ですので、私は今、農業の現場を変えていくのだと言って、いろいろな取り組みをしています。
具体的には農地とは先祖や先人からの預かりものだという意識をしっかり持ち、集落単位で農地を守り、営農をしていくというスタイルをこれから積極的に提案していこうと考えています。
そのために「地域営農ビジョン」を作ろうと組織を立ち上げているところです。行政と農業委員会、共済組合も入っていますが、JAが主体となります。管内には四つのエリアがあり、それぞれのエリアの地域特性を生かしながら、個々の農家と話し合い、その集落でどういう営農ができるかを提案していこうと考えています。
そこで「農業経営支援室」を新設しました。これまでは収量アップの栽培技術提案などをしてきましたが、これからは融資担当などと一緒に経営提案をしていこうと考えています。品目ごとの収量目標というよりも、経営改善の提案ができればトータルの収量と所得の増大に辿りつくことができるのではないかということです。すでに3年前から取り組んでいます。
大金 八木岡さんはかねてから「プロダクト・アウト」の時代ではなく、「マーケット・イン」の時代であり、作物の作り方も新しい発想で取り組んでいかなければならないと唱えていますね。
八木岡 首都圏の茨城県では、系統利用率が3割弱といった現状にあります。ですから生産者全体にコミットすることがなかなかできないという難点もあって、逆に「買って使って食べて支えて」という方向で消費者に強く発信しています。消費者がこれを食べたいというときに、地元の農畜産物を食べてもらう「地産地消」につながればありがたいとPRしようというわけです。
たとえば、地域にあるプロスポーツ・チームで試合や練習を終えた後に食べてもらう補食の提供なども含め、専門家と一緒になって食材を提供していくという取り組みです。
それから学校給食ですね。地元には多種多様の品目がありますから、平均で6割くらいは地元の農産物を学校給食で使っていただいています。私たちが食材を納めることになれば、これを教材としても使ってもらえます。そのときにJAの青年部や女性部が「出前講座」をしたり、田畑に来てもらって「体験学習」をしたりすることなどです。そんな取り組みから農業を志す人たちが出てくることを期待し、「関係人口」を増やしていこうというわけです。
一方、農業者に対しては「記帳代行」を長年やっていますが、今後は相続などの相談にも力を入れ、たとえば廃業してしまうという経営体の資産管理も含めて、できるだけ新規参入する人たちにつなげていくような取り組みも始めました。
そうして経営に寄り添っていけば、5年後あるいは10年後も、その経営体をずっと傍で見守っていくことができると思っています。また後継者がいないとなれば、たとえば新規参入者の紹介ができないか。あるいは集落営農への引き継ぎや、JA直営の農業法人を立ち上げて農地や農業機械を活用するなど、そこまで進んでいければいいなと考えています。
組合員とのパートナーシップと消費者への発信力強化を
大金 組合員とのパートナーシップを極め尽くすということですね。JA福岡市ではどんな取り組みをされていますか。
JA福岡市代表理事組合長
鬼木晴人氏
鬼木 生産品目は十数品目あり、販売高は40億円ほどですね。正組合員戸数は4000戸ほどですが、なかでも農業が主だという組合員はさらに少なくなります。
都市型JAですから、消費者が周りにたくさんいます。ですからJAの仕事は消費者に農業を知ってもらうということですし、それをしなければならない立場だと思っています。
先日も市役所の隣の広場で「一日直売所」を開きました。そのときも「農業の問題は食べ物の問題であり、いざというときにいちばん困るのは消費者のみなさんですよ」ということを訴えました。
一方、組合員との関係では資産管理に関する相談課を以前から設置し、1対1での相談に取り組んできました。それが功を奏して「自分が亡くなったときには農協に行くように」と組合員さん自身から家族に伝えてくれるという声も聞かれるようになりました。
私自身も農家ですが、JAの役員の立場になってみると、やはりJAをつぶすわけにはいかない。必要な組織なのだということを実感しましたから、これまで総代のみなさん延べ1800戸を各戸訪問してきました。そうすると組合員がJAのほうを向いてくれるようになるんですね。たとえば融資にしても、銀行利用だったのがJAへ借り換えるなどです。貯貸率はずっと50%を維持しており、これはたいへんありがたいことです。
私たちのJAでは農家戸数が増えませんから、准組合員を増やすしかありませんが、それは「JAファン」というよりも「農業ファン」を増やすということになります。
小松 私も職員と同じ目線で組合員宅を巡回することが大事だと思っています。職員が月に1回、「会報」を持って各戸訪問しており、昨年8月からですが、私自身も巡回するようにしました。訪ねられたほうがびっくりして「組合長が来るの?」なんて冷やかされますが、JAに親近感を持っていただけるようになっています。職員の苦労も分かりますし、農家一人ひとりとの接点を持つことはたいへん大事ですよね。
大金 「開かれたJAづくり」が唱えられてきましたが、そのためにも組合員とのパートナーシップを強め、足腰を強くしないと、消費者への発信力も高められないということですか。
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