JAの活動:【2024年新年特集】どうする食料・農業・農村・JA 踏み出せ!持続可能な経済・社会へ
【お登紀さんの2024年新春メッセージ】歌手・加藤登紀子さんインタビュー② 農は「生命の営み」2023年12月21日
千葉県の鴨川で農業に携わる加藤さん。「農は生命(いのち)の営みなんです」と力を込める。2つの戦争、気候危機の進行など先の見えない2024年になりそうだが、「希望を話したい」という加藤さんからの新春メッセージをお届けする。
歌手・加藤登紀子さん
加藤 もう1回取り戻さないと! 私もそうですが「素人農業」も素晴らしいのよ。藤本は「産業じゃない、営みなんだ」と言いました。農は「生命(いのち)の営み」なんです。大規模農業にもニーズはあるから、それを否定するとかではなくてね。
大金 「多様な担い手」ですか!
加藤 そうです! 「鴨川自然王国」もだんだんプロっぽくなってきて小さな機械も使うのですが、「子どもたちもおいで! みんなで田植えだぞ」というときは、昔ながらの手植えが楽しい。娘のYaeも「半農半歌手」と言っています。1反歩の田んぼがあれば、だいたい1家族が1年食べるのにふさわしい量はとれる。キュウリもタマネギもいっぺんにとれちゃうから、家族で食べきれなくて毎日毎日「ばっかり食」になっちゃうけど。(笑)
大金 ナスの季節はナスばっかり(笑)。ですが、野菜などを作ってみたいという気運が若い世代にも静かに浸透している面がありますね。
加藤 ちょっと始めれば、きっかけはつかめる! 「地産地消」が当たり前になり、「道の駅」がどこにでもあるように、どっち派の人が進めたとかじゃなく、「いいね!」となって広がった。「あ! いいね」という感じのことを後押しする政策がほしいのよ。学校給食を地場のお米と野菜で、とか。
大金 「有機で」という取り組みもふえています。
加藤 農業の全部が「有機」じゃなくちゃといった大旗を振らずにちょっとずつ。「半農半X」は生き方の探求、周りの環境がどんなものかをつかむためのツールやチャンスなんです。あとは野生動物ね。
大金 猪や鹿とか、北海道や秋田などでは熊の出没が問題になっています。
加藤 うちは猟師もしているのよ! ただ、猪の肉を売れる立場にはいない。解体や衛生の問題は厳しいので、家で食べるしかできない。もっと「ジビエ」が食べられるようにできませんか。おいしいのよ、ほんとうに!
大金 そういう暮らしを一挙に覆すような、きな臭い世の中の動きもあります。昨年は、タモリさんが「新しい戦前」と言って話題になりました。
加藤 私ね、脅かしはもういいの! 危機を煽るのは嫌なの。平和であるためにも危機が来ても、命を投げ出さないで済むために「こうすれば何とかなる!」という感覚がとても大事なのよ。何もできないでは、絶望につながる! だから学校でも病院でも野菜を作る。私の年なら老人ホームでね。(笑)
大金 いえいえ。
加藤 まだ入る予定はないけど(笑)、退屈なのは嫌なんで! 災害の避難所でも、農家の皆さんの中には「避難所の前に畑をつくり、やっと息ができるようになりました」と言った人がいました。一方で「元の暮らしには戻れない。今の生活が楽過ぎて......」と言う人もいました。私たち都市生活者はそれに近い。だけど考えれば、ちょっとくらいやれることがたくさんあるじゃないですか!
「土の日ライブ」を始める前から、私は十一日を「土の日」って呼ぼうよと言っていたんです。国やJAも一緒に呼びかけてほしい! ワーキングホリデーのように、人びとが土に触れる。で、その日は加藤登紀子と会おうよ、とか!(笑)
大金 YouTubeでお会いしています(笑)。アーカイブで藤本さんが出た第2回を拝見し、都市部で生まれ育ち、どこかに根を生やしたいという気持ちがその後の活動につながり、加藤さんもご一緒されてきたのだなあと胸に落ちました。JAでも、女性たちの「農産物自給運動」などが大型ファーマーズマーケットに結びついています。
加藤 小さくてもいいのよ。そんな姿や形が希望で、私たちの生きる道を示してくれている。国は「こうじゃなければならない」とか「農業はこうでなければならない」とか、大ナタを振るいながら来すぎた。あなたは、あなたがいいと思うように楽しみながら生きてね、と。その楽しみの選択肢に、農業が入るようにしたいんです!
大金 JAでは「関係人口を増やす」と言っています。
加藤 いいですね! 急に輸入が止まって、コンビニに行ったら棚が空っぽだった。そういう時に心が折れちゃうんじゃなく、「その時はこうする」という手立てを持った、粘り強い社会をつくっていくためにも、農業やJAは出番よね!
大金 その時に、歌はどんな役割を果たしますか?
加藤 「やる気」や「勇気」を出し、心が折れないためには音楽が必要です。あとは何より健康ね! 私は藤本から健康をもらった。彼が病気をしている時、健康について一緒に勉強しましたし、何を食べてということも考えました。私はおかげで今も元気なのだと思っています!
大金 去る12月27日で80歳になられ、「80歳はハッピー」とおっしゃって「70、80働きざかり」のモデルになっています。地球を庭のように飛び回って!(笑)
加藤 私は80歳を20歳(はたち)と呼んでいるんです。だから、来年は一歳バックして19歳になるの!(笑)。今年は20歳になる人と同じラインに立ち、ひとつずつ若返っていく。ウキウキした気持ちで、これからのことを考えていきたい。そう思いません!?(笑)
<インタビューを終えて>
加藤さんの近著に『哲さんの声が聞こえる』や『百万本のバラ物語』がある。前者の「哲さん」とは、2019年12月にアフガニスタンのジャララバードで凶弾に倒れた医師の中村哲さんのこと。井戸を掘り、用水路を建設し、現地の人びとと、砂漠化した大地を広大な緑野に変えた。
加藤さんも「あえて言うと、『オアシス主義』なの。砂漠の真ん中でも、緑の森であることを目指したい」(『自分からの人生』)とおっしゃる。身近に始める「田園回帰」が持続可能な経済・社会をつくると説く加藤さん。80歳を迎え、ますます情熱的に人と人とを結ぶ「縁」や「絆」を国の内外に広げている。圧倒されました!(大金)
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