JAの活動:第44回農協人文化賞
【第44回農協人文化賞】時世を拓く協同の力 信用事業部門 北海道・JA鹿追町組合長 木幡浩喜氏2023年12月22日
多年にわたり献身的に農協運動の発展などに寄与した功績者を表彰する第44回農協人文化賞の表彰式が11月30日に開かれました。
JAcomでは、各受賞者の体験やこれまでの活動への思い、そして今後の抱負について、推薦者の言葉とともに順次、掲載します。
JA鹿追町組合長
木幡浩喜氏
鹿追町は北海道の一大農業地帯である十勝平野の北西端に位置し、大雪山国立公園の麓に広がる山麓農村地帯です。人口は5085人(総世帯数2489戸=令和5〈2023〉年9月現在)うち農業人口約1200人(農家戸数202戸、うち法人40戸)、総面積4万470haの29・5%が農地面積(1万1947ha)となっており、残り大部分の面積は国有林を中心とする山林地帯となっていて、畑作、酪農(畜産)を中心とする鹿追農業は、基幹産業として重要な役割を果たしています。
畑作専業農家の1戸当たり平均耕作面積は約49ha。小麦・てん菜・バレイショ・豆類の主要農作物を中心に適期管理作業等の励行による品質・生産性の向上を図りつつ、野菜等も取り入れた中で所得向上を進めています。畑作農家の繁忙期は春のは種時期と秋の収穫期に集中し、労働力不足が深刻となります。大型トラクター、大型作業機の導入、自動操舵やコンビネーションシステムを併用し整地と同時には種作業をする効率的な作業を実現しつつあります。また、鹿追町では種子バレイショも生産していますがAIカメラ画像選別のシステムを有する種子バレイショ貯蔵施設ではほ場での選別をせずに原料を受け入れることで家族労働での収穫作業を実現し、加工キャベツも収穫機にAIカメラを搭載して無人オペレーターの実証試験を進めています。
酪農専業農家の1戸当たり平均耕作面積は約66ha。「土づくり」「草づくり」「牛づくり」を基本として適正施肥による良質粗飼料の確保、乳牛の遺伝改良等を推進し生産性向上を図っています。さらに哺育から初妊までの一貫預託による労働力の軽減と後継牛の資質向上、コントラクター事業(農作業委託)による粗飼料のは種から収穫まで一連の作業とTMRセンター(牛の給食センター)からの良質混合飼料の供給により組合員は日々の搾乳や繁殖、飼養管理に徹することができ規模拡大とゆとりある経営体の形成に貢献しています。
また、肉牛は鹿追町内で生産される乳雄子牛と交雑種を「町内一貫肥育」しており、年間5000頭を出荷し「鹿追生まれ、鹿追育ちの町内完結型」の生産体系により主に乳雄は関西、交雑種は関東圏を中心に安定供給を続け昨年関西の取引先とは産直20周年を迎えました。
農村女性を対象とした地区別懇談会や女性の会を実施
この他、農村女性を対象とした地区別懇談会や女性の会を実施し、多くの女性の意見を事業に反映させ、取り組むと共に青年部等農業後継者に対する経営参画に向けた取り組みも実施しています。営農経済面においては、農業経営体質の強化に向け営農コンサル担当者と連携し、コスト意識の啓もうと経営改善に向けた取り組みをしています。
「組合員勘定」(クミカンと呼ばれる)は北海道の多くのJAで用いられている制度です。この制度は将来収入となる販売代金を農業者に前貸しし、生産資材や生活物資を掛け売りする仕組みであり、農業者への資金供給・資金決済等の機能をもっています。しかし月々発生する営農取引や生活資金を含め適切な管理、運用が出来なければただの貸し越しができる貯金にすぎません。そうならないために進捗(しんちょく)や結果をしっかりと組合員へフィードバックすることを徹底していて、より精度の高い結果を求めて勘定科目(営農コード)を細分化し成果を上げています。この営農コードと呼ばれる科目コードは通常のJAが2桁のコードであるのに対しJA鹿追町では4桁のコードで取引しています。(収入141科目、支出247科目)。このデータを経営分析システムに取り込み、作目ごとの収支を解析し、営農計画の作成や投資相談等に活用しています。
さらにクミカンを保全するため一定のルールを設定し、実績に応じた枠を配分するために供給限度を設定しています。限度額の設定は「前年の販売実績40%+本年の営農計画での販売代金計画40%+本年3月交付予定の数量払い+前年交付の営農継続支払い+営農貯金残高-要償還金等」で設定していることから前年の実績だけではなく今年の計画も含めた供給幅で限度額を設定し、進捗管理は計画に対し4~6月60%、7~9月80%の割合を目安に検証を行い、実績が計画を超過する懸念のある場合は、必要に応じ営農計画の見直しや資金受け入れ(期中借入を含め)の協議を行います。
JA北海道中央会帯広支所からは「JA鹿追町独自のクミカンの営農コードは精緻に設定されている」と評価され、クミカン取引を活用した緻密な経営分析とそれを踏まえた経営支援の取り組みのメカニズムは高く評価されています。
JA鹿追町では4月と11月に組合員と後継者を対象とした地区別懇談会を実施して事業に対しての意見、要望をいただいていますが1月には農村女性を対象とした地区別懇談会を、これとは別に女性の会を実施し、営農に関する意見の他にAコープや給油所、整備工場など生活に関係する購買事業の意見を多くいただき事業に反映しています。
農業情勢は大変厳しい状況が続いていますが総合農協は地域の重要なインフラです。組合員との対話を大切に事業の利用・結集いただくことにより交渉力を高めた販売、購買力を一層強化するとともに、営農支援システムを活用し、組合員それぞれの経営状況を把握しながら営農支援して参りたいと思います。これまでJA鹿追町を創り上げていただいた組合員、役職員に心から感謝致します。
【略歴】
こはた・こうき
1961年3月生まれ。80年3月士幌高校農業特別専攻科卒業。2008年5月鹿追町農業協同組合理事。14年5月専務理事。17年5月代表理事組合長就任、現在に至る。また、17年6月よつ葉乳業株式会社取締役(20年6月同社副社長就任。現在は取締役)、現在に至る。
【推薦の言葉】
組勘活用した経営支援
木幡氏は、1980年に士幌高校農業特別専攻科を卒業後、実家の農業に従事し、96年に父親から経営を移譲される。現在、経営面積は48・44haで、小麦・てん菜・小豆・バレイショの畑作4品を作付けしている。2008年5月鹿追町農業協同組合理事、14年専務理事、17年代表理事組合長に就任。以来一貫して農業協同組合の使命である農家組合員の社会的・経済的地位の向上とゆとりある農業経営を目指し、各農業経営体の経営状況をJAがしっかりと把握し、各農業経営体に対して適切なコンサルができるよう職員に対し意識付けを行っている。また、独自性を持った経営分析システムが高く評価されている。
鹿追町農業協同組合代表理事組合長、ホクレン農業協同組合連合会理事である木幡氏は、農協信用事業部門でも優れたリーダーシップを発揮しており、特に信用事業における「JA鹿追町型の組勘取引を活用した緻密な経営分析と、それを踏まえた経営支援の取り組み成果」は今後の信用事業の新しいモデルづくりに貢献している点が高く評価される
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