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【JA全農の若い力】寄生虫、感染症...改善策に日夜奮闘 家畜衛生研究所(1)「現場で成果」使命 獣医師・藏樂建太さん2024年2月22日
日本の畜産現場を支えるJA全農の若い力を紹介するシリーズ。今回は家畜衛生研究所の獣医師を訪ねた。
研究開発室 獣医師 藏樂建太さん(2018年入会)
藏樂建太さんは2018年入会。家畜衛生研究所クリニックセンター勤務を経て、現在は研究開発室に所属する。
テーマは子牛の下痢症の原因のひとつである寄生虫クリプトスポリジウムだ。
牛では免疫力が不十分な子牛で感染するが、治療法や予防法はなく、水分補給や点滴など対症療法をするしかない。10日間ほど下痢が続き、子牛は水分を失い体力が落ちて餌を食べることもできなくなる。
クリプトスポリジウム症は重篤であれば下痢に伴う脱水で死亡することもある。死亡すれば生産者には大きな打撃だが、治療の結果、死亡しなくても成長が遅れ出荷までの飼養日数が伸びれば、それだけ経済的な損失となる。
藏樂さんの研究は、このクリプトスポリジウムに対する対策資材の開発。現場に求められる資材を実用化しようと日々、実験などを行っている。
具体的にはクリプトスポリジウムを培養細胞に感染させる実験のなかで、その感染を抑制することができる有用な物質を探し、実用化を目指している。もし感染抑制効果が確認されれば、クリプトスポリジウムが牛の腸内に入ったとしても、その有用な物質を給与することで、下痢の発生を抑えることができる。あるいは発生しても軽症で済むことも期待される。
藏樂さんによると有用な物質については培養細胞での実験で効果が確認できたという。ただ、実際の牛で効果を確認するにはまだ課題が多い。
それでも培養細胞を用いて有用性を評価できるまで実験が進んできた意義は大きい。というのもクリプトスポリジウムを研究対象として扱うこと自体が難しいことだからだ。家衛研でクリプトスポリジウムを扱うことになったのは藏樂さんの前任者からで、まずはクリプトスポリジウムという寄生虫を安全に取扱う方法を学ぶところからスタートしたという。
具体的には、クリプトスポリジウムは新型コロナウイルスと同じ5類感染症に指定されていることから、使用する施設・機材の準備から始まった。また、クリプトスポリジウムは培養細胞に感染はするものの、その細胞内では増殖はしないというやっかいな特性がある。そのため実験で使う量を維持するには、マウスの生体内でクリプトスポリジウムを増やすという地道な作業を行ってきた。
「培養細胞では増えないという制約があることが、世界的に研究や治療薬の開発が遅れている理由です。今のような実験ができる土台づくりに実は2年かかりました」と振り返るが、「だからこそやりがいを感じています。何か一つでも発見や開発ができれば困っている畜産生産者に貢献できますし、世界にも大きなインパクトを与えることになると思っています」と意気込む。
こうした土台づくりがあったうえで、感染抑制が期待される物資の評価などへと研究段階が進んできたといえる。

そのなかで藏樂さんはクリプトスポリジウムの感染抑制に有効な物質などに対する新たな評価法を確立した。
クリプトスポリジウムは、特殊な顕微鏡下では目視でその姿を捉えることができる。そのためある物質が有効かどうかを評価するには、その物質を投与した後、クリプトスポリジウムの数を数えて減ったかどうかを確かめることができる。数が減っていれば有効性が確認されたということになる。
しかし、藏樂さんは「数」だけでは評価する"物差し"としては不十分ではないかと考えた。
それもクリプトスポリジウムの特性に関わる。寄生虫であるクリプトスポリジウムは虫卵のなかに虫体が入っていて、その虫体が虫卵から、いわば脱皮して牛やヒトに感染することから下痢を発症する。
したがって、顕微鏡下で目視できるといってもそれが正常な虫卵なのか、死んでしまって虫体が脱出できなくなってしまった虫卵なのかなどの区別はつかない。藏樂さんは、こうした対象の特性を踏まえれば、「数」だけではなく、投与した物資によってクリプトスポリジウムの「構造」の変化まで評価する必要があると考えた。たとえば、「数」に変化が見られないとしても、なかには虫体は死滅し「殻」だけが溶液のなかに漂っていることもあり得る。「数」だけで評価していたのでは不十分ということになる。
そのために活用したのが細胞の数をカウントする装置として家衛研が導入していたフローサイトメーターという機械だ。これは観察する検体を流し込んだ溶液に光を当て、その反射で検体の内部構造を把握するという仕組みだという。
「この機械を応用するとクリプトスポリジウムの虫卵が押しつぶされたようなかたちになっていたり、あるいは殻だけになっているなど、いわばゴミをきちんと評価できます」
このように"物差し"の精度を高めることも、研究を押し進め、子牛の下痢症を予防する対策資材の開発につなげるための重要な仕事となる。それらによる早期の実用化が期待されるところだ。
大学では細菌学を研究し創薬開発に関心を持っていたが、獣医師という立場として畜産、さらには食品に関わる研究を志し、全農の研究所を選んだ。
「農業協同組合という組織が持っている研究所として、研究・開発のモチベーションが常に現場にあり、現場に求められていることを研究しなければならないと実感しています。日本の畜産が明るくなるような夢のある研究を行い成果を出していく使命があると思っています」と藏樂さんは話している。
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