JAの活動:第45回農協人文化賞
【第45回農協人文化賞】土づくりへのこだわり 営農経済部門 秋田県・JA秋田しんせい前常務 高橋徹氏2024年8月10日
多年にわたり献身的に農協運動の発展などに寄与した功績者を表彰する第45回農協人文化賞の表彰式が8月6日に開かれた。
JAcomでは、各受賞者の体験やこれまでの活動への思い、そして今後の抱負について、推薦者の言葉とともに順次、掲載する。
秋田県・秋田しんせい農業協同組合前常務理事 高橋徹氏
このたびは、栄えある農協人文化賞の授与を賜り誠にありがとうございました。改めてご推薦いただいた当JAの組合長佐藤茂良氏をはじめ、組合員や職員の皆様に厚くお礼申し上げます。
私は1983年に営農指導員として西目町農業協同組合に採用されました。西目町は水田面積約530㌶の小さな町でしたが、一大事業としてほ場整備事業に着手する時でしたから、入組時に伝えられた課題はほ場整備後の収量安定化と田畑輪換で畑地化により水田転作での所得向上を目指すことでした。また過剰投資を抑制するため、行政が主体となり集落単位にミニライスセンターを整備、私は営農集団を育成し複合経営と法人化の推進を担い、ミニライスセンターは5カ所整備され、七つの農業法人を設立させました。
農家との面談
1997年のJA広域合併後に、カントリーエレベーターでの大豆乾燥が可能となったことから、大豆のブロックローテーションを本格化させ、田畑輪換による大豆の本作化に取り組みました。大豆の単収を上げるために沢入地などの条件不利地には作付けさせず、パイプかんがいのブロック単位に団地化を推進したことから、農家の一部には大豆作付けに反対する方もいましたが、町の産業課長と一緒に一軒ずつ説得に歩き団地化を実現しました。農家と正面から向き合い、納得してもらうまで話し合い、ブロックローテーションを実現出来たことは非常に良い経験になりました。
またしんせい管内は「由利ササ」の良食味米地帯として知られていましたが、合併当初全県の米食味値の分析結果は県内最下位でした。ササニシキにあぐらをかき、努力を怠った結果と捉え食味向上プロジェクトで議論し、米の食味値を上げるには健康な稲体、つまり根づくりによって充実した米粒にすることが重要との結論から、土づくり運動に取り組むことになりました。土壌の団粒構造を促進するため、堆肥の代替品として腐植酸を含むアヅミンを主成分とした独自肥料「秋田の大地」10㌃100㌔をJAが無料で散布しました。西目町は地力が低かったこともあり、ここでも農家に対し食味値が低い現状と土づくりの必要性を説き、初年度で散布率30%とし、2002年以降は10年以上連続して100%を達成することができ、しんせい管内の土づくり運動をけん引したとの自負があります。その後管内全体にも土づくり運動が広がり、2008年には管内全体でも9割を超える散布実績となりました。
販売にあたっては農家が出荷前にタンパク値を分析し、タンパク含有率6.5%以下の米を「土づくり実証米」として買い入れ、2006年には商標登録を取得し、米卸には加算金(当初300円、現在320円)を求めています。
JA東京みなみ直売所「みなみの恵」にてきりたんぽの試食販売会(清橋社長と共に)
2009年には土づくりを進化させ、堆肥をペレット化して施用するために、農山漁村活性化プロジェクト支援交付金を活用してペレット堆肥製造施設を取得。同時に温湯消毒施設も取得し、翌年には原料堆肥を安定確保するため養豚場も整備しました。飼育する豚には管内で生産された飼料用米を給餌し、排出された豚堆肥を水田に還元することで、資源循環型の生産を目指しました。土づくりとしては、ペレット堆肥とようりんケイカルを施用しましたが、豚ぷんはリン酸分を多く含むことから、元肥にL字型肥料を組み合わせ肥料コストの削減も図りました。
2021年長年の土づくりの成果を確認するため、秋田県立大学金田吉弘名誉教授の監修のもと土壌分析をした結果、管内全域で成分目標値をクリアしたことから、近年温暖化で問題となっている高温対策として、ケイ酸分が有効なことに加え、肥料コストの削減も兼ねケイカルを施用することにしました。
ケイ酸施用効果が顕著に現れたのは、2023年産米が高温登熟の影響で県内産の一等米比率が57%だったのに対し、しんせい産米は85%に留める事が出来ました。このことは土づくりの重要性を理解し、長年にわたり土づくりを継続してきた農家の努力が報われものと考えております。
2022年に(株)ジェイエイ秋田しんせいサービスの常務取締役に就任してからは、新規事業である土づくり実証米ひとめぼれを原料にした、きりたんぽ販売に取り組んでいます。昨年はJA東京みなみ直売所「みなみの恵」と神奈川県のJAさがみ直売所「わいわい市藤沢店」にて試食販売会を実施しました。きりたんぽを試食されたお客様から「とてもおいしい」と言われるたびに、土づくり実証米のおいしさを知ってもらえた喜びを感じています。今後はJA秋田しんせいの土づくりへのこだわりを、あらゆる機会を通じて多くの方々へPRしてまいりたいと思っています。
【略歴】
たかはし・とおる
昭和35年4月生まれ。昭和58年4月西目町農業協同組合入組(営農指導員)、平成9年4月11農協が合併し秋田しんせい農業協同組合が発足 西目町営農生活センター課長、平成23年3月営農経済部長、平成25年6月常務理事(営農経済担当)、令和4年6月株式会社ジェイエイ秋田しんせいサービス代表取締役常務就任。
【推薦の言葉】営農経済事業を黒字化
高橋徹氏は職員時代から今日まで一貫して地域の農業振興に関わってきた。JAにおける第1の功績は営農経済事業を黒字化したこと。令和2年の役職員大会で常務だった同氏が自ら営農経済事業の黒字化を宣言。営農経済事業の損益の構造や店舗・施設ごとの損益状況を集落座談会に開示した。組合員と一緒に考えることで理解を深め、課題解決につなげた。
第2に気候変動に負けない稲づくりへの取り組みがある。令和5年は、夏場の猛暑で秋田県全体の一等米比率は57%に留まったなかで、同JAは85%だった。20年以上、土壌改良に努めてきた成果である。この取り組みが、独自ブランドとして商標登録した「土づくり実証米」の有利販売につながった。
第3に花き集荷施設の建設が挙げられる。平成17年、転作田の有効利用として「秋田鳥海りんどう」の栽培を導入。花き類では秋田県で初めてとなる基礎GAPを導入するなど、生産農家の作業改善や品質の安定につなげた。
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