農政 クローズアップ詳細

2013.08.30 
【クローズアップ農政】成長産業か、重要産業か 所得倍増元年めざす26年度予算一覧へ

 農水省は8月29日、26年度農林水産予算の概算要求額を総額2兆6093億円とすることを決めた。25年度予算より13.6%の増加だ。自民党は年末の予算決定では、民主党に政権を奪われる前の21年度予算額、2兆5600億円の確保を目標にしている。
 党として概算要求額を了承した27日、小里泰弘農林部会長は「26年度は所得倍増10か年戦略の実行元年だ」として、十分な予算確保をめざすと強調した。

◆さまざまな会議で検討される“農業・農政”

 「農業・農村所得倍増目標10か年戦略」は参院選を前に自民党として4月にとりまとめ、その後、安倍総理も「私はここで正式に農業・農村の所得倍増目標を掲げたいと思います」と政府の政策として打ち出した。日本の将来像を集中的に検討するため経済、労働、教育など各界と学識者らが立ち上げた会議、日本アカデメイアで行った5月17日のスピーチである。
 そのスピーチで総理は「私は農業の構造改革を今度こそ確実にやり遂げます」、「私は必ずや若者たちが希望をもって働きたいと思えるような『強い農業』を創りあげます」と明言した。いずれも「私は」と切り出した。実際、官邸に自らを本部長とする「農林水産業・地域の活力創造本部」を設置した。
 官邸では、このほか産業競争力会議、さらには規制改革会議でも農業の議論が行われている。そして農水省には「攻めの農林水産業推進本部」だ。総理は先のスピーチで「農業が産業としてこれほど注目されたことがあったでしょうか」と話したが、これほど農政を検討する場が政府にあったでしょうか、と言いたくなる体制である。しかし、どこでどんな議論になるか注視が必要だ。

◆「農業・農村の所得倍増」の定義とは?

 もっとも、いずれの場でも課題は非常に単純に整理されている。担い手への農地利用の集積化、6次産業化、輸出拡大である。
 所得倍増のイメージも単純だ。安倍政権は2%の経済成長を掲げているから、現在の農業生産額10兆円は10年後には12兆円となる。農業所得は現在3兆円だから、その割合で考えれば4兆円程度に増えると見込む。
 同じように食料産業全体では100兆円が120兆円に成長する。この20兆円のうち農村部への還元分を半分と見込み、さらにその3分の1の1.7兆円ほどが農業所得になるだろうという。これで合計5.7兆円。その他、生産効率化を加えれば、所得は倍増する、というのである。
 だから自民党議員にも、こんな説明では説得力がないという声もある。「6次産業化や輸出拡大などは絵に描いただけ。結局は、農地を担い手に集め小規模農家を切り捨てれば農家数は減る。所得の受け取り手が減るのだから所得は倍増する、というだけのことではないか、農家にはこんなイメージしかない」とある議員は話す。
 しかも先に挙げた総理のスピーチでも明らかなように「農業・農村の所得倍増」とそもそも定義がはっきりしていない。
 また、小規模農家切り捨ての懸念が出るのは政府が6月に閣議決定した「日本再興戦略」のなかで、「企業参入の加速化などによる企業経営ノウハウの徹底した活用」など「大胆な構造改革に踏み込んでいく必要がある」などと記すからだ。

◆現場ニーズに応じた政策で所得倍増を

 こうした声に対して「放っておいても(担い手が減って)所得は倍になるではないか、とは間違っても言ってほしくない」と力説するのは自民党の計画とりまとめの責任者の一人、小里泰弘農林部会長だ。 7月にあったある勉強会では、日本の食料安全保障にとっても「小規模農家を切り捨てる余裕などない」と強調、「みんなで課題を考え知恵を出す。そこに政策を当てる。なければ政策を作る」と生産現場と一体となって政策をつくるのがこの計画の狙いだという。「算式はないが、現場ニーズに応じて取り組めば所得は倍増する」。
 「たとえば」として挙げたのが奄美大島の農業だ。繁殖牛の拡大で所得向上をめざすが、それには飼料確保が課題。ローズグラスを作付けているが、霜害に弱いため秋口までの3回収穫が限度、しかし、面積を増やせばサトウキビ畑と競合してしまう。
 そこで現場で知恵として出されたのがイタリアングラスへの転換。これで2回収穫が増え本土からの輸送コストをかけずに飼料が確保できる。子牛の増頭でふん尿が増えるが、サトウキビ畑に戻せばいい。さらにサトウキビの残さを発酵させれば粗飼料になる。
 サトウキビの単収向上も課題だが、喜界島では地下ダムによる畑地かんがいで30%アップも実現している話が参考になるなどなど、「こんなサイクルをうまく構築すれば所得が向上する」。
 粗飼料生産についていえば、実は沖縄はローズグラスの周年栽培が可能で奄美とは気候条件が違うことが分かった。これほど「日本農業のかたちは一様ではない」として、地域別・品目別の所得向上への筋道をつくっていかなければならないと強調する。

◆地域振興に果たすJAの役割

 現場から知恵を出して政策を作りあげ実現するということに異論はないだろう。ただ、それを強調するなら、政府・与党は農政の何を問題にしようとしているのか、議論をしっかりと整理する必要がある。先に触れたように日本再興戦略などでは「企業参入」など企業の力がしきりに強調されているだけ。たとえば、地域振興に果たす農協の役割などは見当たらない。ひたすら「農業は成長産業」を繰り返す。一方、農業が衰退すれば地域が衰退する、というのが現場の危機感で、だからJAは地域づくりを常に掲げる。
 政府の議論に対し農林中金総研の清水徹朗・基礎研究部長は農業を成長産業としてではなく「重要産業」と捉えることこそ求められていると指摘している。こんな核とすべき視点が私たちにも求められている。

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