韓日善隣友好の回復を 文化交流に尽くした日本人 NPO・韓日農業農村文化研究所・玄義松氏2022年3月31日
「骨肉相食む」と言われるが、隣国同士が仲良くするのは難しい。ロシアのウクライナ侵攻がまさにそれであり、日本と韓国もその例に漏れない。農協間の交流を歴史・文化に精通するNPO・韓日農業農村文化研究所代表の玄義松(ヒョン・イソン)氏(元韓国農協中央会常務、元農民新聞社社長、平成23年度「農協人文化賞」受賞)に、善隣友好へのやむにやまれぬ思いを寄稿してもらった。
4月5日は韓国政府が定めた第77回植木日だ。山林緑化のために全国民が木の苗木を植える日である。韓半島は昔から焚き口で木を燃やして暖房するオンドル方式が生活化されていたため、焚き物用の伐採が盛んに行われていた文化があった。そのため韓国の山林には構造的にはげ山がたくさんあった。
韓国の山を緑にした浅川巧
植木の日になると、韓国人が恋しく思う人がいる。日本人の浅川巧(1891ー1931)である。浅川巧は日本の山梨県に生まれ、朝鮮総督府の林業研究所に勤めるため1914年5月17日にソウルに到着した。彼はモミの木「埋蔵法」という養苗法を開発した。これらを活用し、朝鮮の山野の森林緑化を実現した。また京畿道抱川(ポチョン)市にある国立樹木園も彼の企画で誕生し、現在も韓国人の誇らしい森として保存されている。彼の養苗法開発の成果で、現在韓半島の人工山林の40%は彼が植えた木の森として今も残っている。
浅川巧は「朝鮮の膳」、「朝鮮陶磁名稿」のような陶磁や民芸に関する本を出版するなど、朝鮮文化財の研究成果を盛り込んだ数冊の本を残している。普段から彼は朝鮮式の韓服を着て、小籠を結び、陶磁器や民芸品を買い入れた。朝鮮語も流暢で、マッコルリを飲みながら興が沸くとアリランを歌ったりもした。このような奇怪な姿のため、日本の警察の取り調べを受けたこともあった。
彼は1932年、植樹の日の行事を準備していたところ、41歳で息を引き取った。「朝鮮式の葬儀で朝鮮の地に埋めてほしい」という彼の遺言により、現在もソウル郊外のマンウリ共同墓地に葬られている。
浅川巧は朝鮮の陶磁器に関心が高い実兄の浅川伯喬(1884―1964)と共に朝鮮文化芸術の保存に重要な役割をした「朝鮮民族美術館」(現在?国立民族美術館)の建設のために自分たちが集めた各種民芸品数千点を寄贈している。
朝鮮民族美術館の建設には日本人の民芸運動家で美術評論家の柳宗悦の役割も重要だった。柳宗悦は朝鮮総督府の朝鮮人弾圧について、「反抗する朝鮮人よりも愚かなのは圧迫する日本人だ」と非難した。彼は、日本総督府がソウルの景福宮(キョンボックン)と光化門(クァンファムン)を撤去することを最後まで反対した。
慶長文禄の役で戦死した日本兵の墓地は、今も地元の人に管理されている(珍島の倭徳山)
最近、淺川巧の墓地を参拝したことがある。墓の横にこのように記された墓碑がある。「韓国の山と民芸を愛し、韓国人の心の中で暮らしていった日本人、ここ韓国の土になる」。 浅川巧の故郷である山梨県北杜市には彼の記念館があるという。毎年4月2日には彼の墓で韓国の山林庁公務員を中心に慰霊祭が行われる。
筆者は木浦市で小学校と高校に通った。その時、あるクラスに4、5人の生徒が戦争で親を失った孤児を養育する共生院の出身者がいた。共生院は朝鮮人キリスト教伝道師の尹致昊(ユン・チホ)と日本人の田内千鶴子が運営した。田内千鶴子は7歳の時、日本の高級官僚である父について木浦に来た。1928年に尹致昊氏が設立し、約3000人の孤児を養育した。
共生院の孤児たちの音楽教育のために奉仕活動をするキリスト教学校のチョンミョン女子高校の音楽先生である田内千鶴子に出会い、結婚することになる。敬虔なクリスチャンだった母親は「結婚は国と国がするものではない。人と人がするものだ。天国では日本人も朝鮮人もみんな兄弟だ」と、娘の結婚を承諾した。
彼女が亡くなると、木浦市は同市で初めての市民葬として葬儀を行った。これをテーマにした韓日合作のドキュメンタリー映画「愛の黙示録」が韓国と日本で放映されたこともある。これを見た小渕首相が直接1999年8月、全羅南道木浦(チョルラナムド・モクポ)にある児童保育施設の共生院に電話をかけてきた。電話を受けた共生院院長の尹緑(ユン・ロク)氏と話した小淵首相は、「東京の小渕でございます。テレビで見ました。あなたのお祖母さんの話に感動しました。私も木浦に行くからその時まで頑張って」と言って電話を切った。 小淵元首相について韓国では周辺国を配慮した首相というイメージが残っている。
全羅南道珍島郡には倭徳山(ワドクサン)がある。豊臣秀吉が侵略した文禄・慶長の役で戦死した日本水軍の遺体約100体を珍島の山野に埋葬し、これまで世話をしている地元住民がいる。侵略した日本軍だが、死んだ魂を慰霊しなければならないという島地域の慣習に従って埋葬し、周りのお年寄りたちが今も墓地を管理している。
筆者の故郷は全羅南道霊岩郡(チョルラナムド・ヨンアムグン)だ。霊岩邑(ヨンアムウプ)の中学校の校庭に松一本がよく育っている。松の前に案内表示板に、日本人の兵頭一雄が松を植えた日と名前を記した表示板がある。日本人の兵頭一雄は霊岩邑(ヨンアムウプ)で大規模干拓農地を開発し、大規模に営農したと伝えられている。趙さんという93歳のお年寄りが、その松の木を学校と協力して今も管理を続けている。
仲のよかった時を思い出し
人と人の間でも誤解が解けない時は、仲が良かった時を思い出しながら、考え直さなければならないという話がある。国と国の間にも通用すると考える。浅川巧はこう語った。 「朝鮮人と日本人の親善は政治と政略では不可能だ。それよりも、朝鮮と日本の文化芸術を相互交流することで可能である」と。
最近のロシアとウクライナの悲劇的な戦争を目の当たりにして、北東アジアの韓国、日本、中国は文化芸術の相互交流を活発に行い、善隣友好関係が回復することをひとえに願う。
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