【イスラエルとハマスの衝突と背景】人道的休戦 即座に 外交評論家 孫崎享氏2023年11月8日
いま中東ではガザ地区でイスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突が激化の一途だ。日本は中東にエネルギーの多くを依存する。ウクライナ侵攻と同様に遠い国の問題ではない。そこで元外交官であり世界情勢にも詳しい評論家の孫崎亨氏に「イスラエルとハマスの衝突とその背景にあるもの」をテーマに寄稿してもらった。
外交評論家・孫崎享氏
1:ハマスのイスラエルへの攻撃は唐突ではない。
起こるべきして起こったもの
10月7日早朝、イスラム主義組織ハマスがガザ地区からイスラエルに約2000発のロケット弾を発射し、同時にイスラエル南部を襲撃し1300人以上の非武装市民が死亡した。
多くの人は、ハマスが行った大規模軍事作戦に驚いた。「何故今、ハマスがこれだけの大規模な作戦を行ったのか」に疑念を持った。
この問いに対し、まず私達が知らなければならないのは、イスラエルの建国の歴史と、最近の歴史である。次はBBCが行った解説である。
「パレスチナと呼ばれる地域は長年、オスマン帝国が支配していた。
第1次世界大戦でこのオスマン帝国が敗れると、パレスチナはイギリスが支配するようになった。
この土地には当時、ユダヤ人が少数派として、アラブ人が多数派として暮らしていた。1917年バルフォア英外相は、イギリスに住むユダヤ人の団体に対する書簡で、「パレスチナにおけるナショナル・ホームの設立」に賛成し、約束した。「バルフォア宣言」である。 ユダヤ人にとってパレスチナは先祖の土地ではあるが、パレスチナのアラブ人も、ここは自分たちの土地と主張する。
1920年代から1940代にかけて、パレスチナ地域へ流入するユダヤ人は増え続けた。ユダヤ人の大勢が欧州での迫害をうけ、特にナチス・ドイツによるホロコーストを逃れて、彼らはパレスチナに入った。当然のことながらユダヤ人とアラブ人の間の暴力が続く。イギリスは1948年にパレスチナから撤退した。ユダヤ人指導者たちはただちに、イスラエル建国を宣言した。建国と同時にユダヤ人とアラブ人の軍事組織の戦闘は激化する。
建国に由来 闘争の歴史
つまり、パレスチナ人の闘争はイスラエルの建国と密接に関連している。
近年のパレスチナ情勢に関しては、「アルジャジーラ」が10月8日掲載したSomdeep Senロスキレ大学准教授の「ハマスの作戦に驚くべきことは何もない」が最も的確な解説をしている。
▽ハマスの作戦には何も驚くべきことはない、今次作戦はイスラエルの侵略と占領によって引き起こされた。それは抵抗行為だ。
▽西側諸国や政治指導者らは、イスラエルには「自衛する権利」があると主張しながら、これを「いわれのない」「テロリスト」行為だと決めつけている。
▽国連総会決議 37/43(1982年12月2日に採択)は、パレスチナ問題を含め、植民地支配からの独立と解放のために奮闘する人々には「武力闘争を含むあらゆる利用可能な手段」を用いてそうする権利があることを再確認している。
▽故エドワード・サイードはガザをパレスチナ闘争の「本質的な核心」と呼んだ。ここは家を追われたパレスチナ難民が主に住んでいる、
▽封鎖によりガザ経済はほぼ停止状態、移動の自由の禁止、食糧不安。エネルギー危機に見舞われている。
▽イスラエルはパレスチナ戦闘員を追跡していると主張し、飛び地への猛攻撃を正当化している。それは組織的に民間人や、住宅、病院、学校、浄水場などの非軍事的な民間インフラを標的にしている。
▽ガザはまた、16年間にわたって衰弱させる包囲下にあり、住民に大きな損害を与えてきているが、抵抗の意志を破壊することはできていない。
2.この騒乱はガザに限定されない。
ウクライナ戦争にまで影響を与える
2022、23年国際関係で最大の懸案はウクライナ戦争である。ウクライナ戦争はウクライナ人とロシア人のスラブ系同士の戦いである。ガザ地域での戦いはアラブ人とユダヤ人との戦いである。イスラエルの首都とウクライナの首都は約2000㌔離れている。ガザ地域の戦いがウクライナ戦争に影響を与えるとは通常考えにくい。だが、実は大いに関係がある。
米国等は、「ロシアがウクライナを破れば、ロシアは勢いに乗って西欧に攻める。従って西側は自分たちのためにも、ロシアを破らなければならない」との論理を展開した。この論理で、米国と西欧は大量の武器をウクライナに提供した。だが、もし米欧の武器供与が途絶えれば、ウクライナは戦場で敗れる。
関心薄まる ウクライナ
今、イスラエルとパレスチナの市民が戦争で殺害され、ここの状態が世界に連日報道される。そして、ウクライナへの世界の関心は吹っ飛んだ。米国国内では、下院でイスラエルの軍事支援が決定されたが、ウクライナへの軍事支援は未解決のままである。米国のウクライナへの軍事支援は確実に下がる。ガザでの騒擾(そうじょう)はこの流れを後押ししている。
イスラエルのガザ地域への空爆以降、イスラエルと軍事的対立を行っているのはガザ地域だけではない。イスラエルのガザ地域への空爆が起こるや、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、ヨルダン川西岸のパレスチナ人、シリア国内のイスラム組織、イエメンを拠点に活動するイスラム教シーア派武装組織フーシ等がイスラエルへの軍事行動を実施した。無人機やミサイルの台頭で、遠距離からの攻撃が可能となり、大量の武器・弾薬の輸送も容易になった。アラブ社会のイスラエルへの抵抗は今後強まっていくであろう。これら反イスラエル闘争の後ろにイランの支援もある。イスラエルは今後長い戦闘に引きずり込まれていく。
さらには中東の内政をも揺さぶる。ハマスは元々、ムスリム同胞団から派生した。ムスリム同胞団はエジプトに拠点を持つ。エジプトがガザでのパレスチナ支援で消極的なら、ムスリム同胞団はエジプトの政権を揺さぶる。ガザ地域の騒擾は他地域に拡大する可能性を持っている。
3.日本の選択
国連総会は10月27日、イスラエルとハマスに対し「人道的休戦」求める決議案を採択した。案はアラブ諸国が主導、採決では120カ国が賛成、45カ国が棄権、イスラエルと米国を含む14カ国が反対した。
日本は休戦訴えるべき
米国と反対の行動をとった国は120カ国、中東のほとんどの国が含まれる。米国は中東に影響力を失っていく。
こうした厳しい情勢の中、上川陽子外相は11月イスラエルを訪れ「テロ行為を断固として非難する」と主張した。今日本が主張するならイスラエルとハマスに対し「人道的休戦」を求めるというメッセージではないか。それはほぼ全ての中東諸国が求めるメッセージである。
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