スマート農業への期待と課題で意見交換会 農水省2019年11月11日
農林水産省は10月31日、スマート農業関連サービス創出に向けた意見交換会を同省で開いた。スマート農業を経営に取り入れている農業者や農業分野のITサービスを提供している民間業者の取り組みから新たな事業を創り出すための課題や現場のニーズなど様々な意見が出た。
農林水産省で行われたスマート農業の意見交換会
農林水産省がけん引するスマート農業実証プロジェクトは今年4月に始まり約7か月を経て、現場から様々な声があがってきている。ひとつは高価なスマート農機をいかに普及していくか。導入にあたり農家の負担を軽減することは大きな課題となっている。また、操作の熟練度が必要なシステムの導入など専門家を現場に増やしていくことも課題。ICTを活用するためのデータ収集が大変であることや、データの活用の仕方がわからないなどの声もある。
こうした現状を踏まえ、「スマート農業関連サービスの今後の展開方向について」と題してNECソリューションイノベータの榎淳哉さんが、同社が農研機構と開発を進める「WAGRI(農業データ連携基盤)」について説明した。
◆WAGRIの役割
NECソリューションイノベータの榎淳哉さんはWAGRIについて説明した
WAGRIは、農業に関わるデータを集約、蓄積しデータの連携、共有、提供を可能にするために、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産創造技術」で構築されたデータプラットフォーム。背景としては、データに基づく農業を実践するためには農業ICTの活用が不可欠だが、データやサービスの相互連携がなく、さまざまなデータが散在しているためデータが活かしきれていない。そこで、メーカーや形式に寄らずさまざまなデータを共有・活用できる「プラットフォーム」をめざしてスタートした。
榎さんは「WAGRIを活用することでデータのポータビリティやオープンデータも実現できるように進めている」と説明した。
意見交換会ではWAGRIについて、農水省の担当者から「実際に現場の農業経営者は何をWAGRIに期待するのか」という問いかけに、「どこのデバイスやプラットフォームを使ったらいいかわからないという時の基準になるのがWAGRIではないか」という反応があった。
また、「データのやり取りは自動で行えるのが絶対条件になる」「作ったものが履歴や収量が出て売上まで出るように経営にいかせれば」「WAGRIを通じて北海道の生産者が鹿児島の生産者とコミュニケーションがとれるような、これこそプラットフォームというようになってほしい」と期待が寄せられた。
一方、情報セキュリティの観点から「出したデータがどう使われるのかわからない」「データを提供するにあたり何か見返りがあるのか。権利が保護される仕組みが入っているのか」という疑問の声もあがった。
◆音声入力への期待も
スマート農業へさまざまな業種やメーカーから参入が相次ぐ"乱立"状態のなか、何を選べばよいのかわからないという声とともに、農業生産者からは「いつ撤退してしまうかわからない不安がある。大手からすれば農業の規模は小さいかもしれないが、生産者としてはサービス停止が一番怖い」という声もあがった。
また、新たな技術を搭載した機器を使うにあたり、使い方を習得するための「ラーニング」が必要がないことが普及にとって重要という意見も。
この日、生産者代表として自らの経験を報告した埼玉県杉戸町の農業生産法人、ヤマザキライスの山崎能央さんからは「タブレットでの入力もわずらわしい。例えば『ヘイMAFF!』で起動してあとは音声入力で済めば非常に助かる」という提案には、農水省関係者からも賛同の声があがった。
ヤマザキライスの山崎能央さんから現場目線の提案があった
このほか、農林中央金庫の担当者は「先端機器を導入するには経営レベルも高度化していかないとメリットを最大化できないと思う。実際にはどの品目でどれだけ儲かっているのかもよくわからない生産者もいる。経営を見える化するなかで、播種から収穫、栽培までどこがネックの工程なのかをしっかり認識したうえで必要なアグリテック、スマート機器をあてていくという経営のアドバイスも必要とされていると思う」と話した。
◆5Gへの対応は
各産業でパラダイムシフトが始まると予想される5G(第5世代移動通信システム)についても意見があった。期待は大きいものの都市圏が中心で、農業生産の現場となる地方は取り残され、活用が遅れるのではないかという不安の声も聞かれた。
農林水産省は「確かにそういう面はあるが管轄の総務省は事業性を考慮して自治体が設置できるローカル5Gという新しい制度を打ち出しており、連携していきたい。スマート農業実証プロジェクトを横展開していく上でもそういう観点でネットワーク環境の構築に取り組まなければならない」と述べた。
農水省では今回をトライアルとして年度内に再び意見交換の場を設けるという。
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