種苗法改定への意見書を国提出求め埼玉県議会に請願2020年2月25日
「子どもたちのために食の安全を考える会・埼玉」は2月20日、埼玉県議会あてに「種苗法の改定に関する意見書を国へ提出することを求める請願書」を提出した。この請願の県議会、同委員会での審議は3月6日午前10時から行われる予定。
今国会に3月に提出が予定される「種苗法の一部を改正する法律案」については、2月20日に「日本の種子(たね)を守る会」が主催した緊急院内集会「種苗法改定─論点整理と今後についての討論会」で、日本の農家・農業に与える深刻な弊害と問題点が詳細に報告されている。
「子どもたちのために食の安全を考える会・埼玉」は、今回の種苗法改定は、これまで、農家に原則認められてきた、種苗企業などの登録品種について、種苗の自家採種・増殖を有料の許諾制にすることが検討されており、これは実質的に農家の自家採種・増殖を禁ずる方向に誘導するものだと指摘。また、農家による在来種など登録品種以外の作物を栽培・採種・増殖する農家に対しても、企業が農家を権利侵害として訴える際に、立証しやすくするための改正も盛り込まれており、これらは、国際条約でも認められてきた農家の種子の権利を奪い、種苗企業・多国籍企業の権益を増大させ、種子の支配と独占を導くものだと警告している。
また、「すでに、世界の種子の約7割は、多国籍遺伝子組み換え企業によって独占される事態」と危機感を深めている。
請願書の全文は次のとおり。
◆種苗法の改定に関する意見書を国へ提出することを求める請願書
一 請願事項
1 農業者が、登録品種の収穫物、種苗から得られる収穫物の一部を次期収穫物の生産のために種苗として用いる自家採種、増殖は、原則自由とすること。登録品種の育成者権者が種苗の栽培・採種・増殖に関わる限定条件を付帯した場合(許諾制など)は、農業者に対して、許諾料のようなものが発生しないよう措置すること。
2 農研機構などの公的な機関、また地方公共団体で育種・育成された、公共品種については、登録品種であっても、農業者による自家採種・増殖の権利を認めること。
3 新品種登録のための審査について、厳正、公平な審査が行われるよう、出願された品種を登録品種として認定するための機関に、農家や農民団体の推薦する代表者と、農業に関わる遺伝資源と分類に関わる生物学者が認定決定権に関われるよう措置すること。
4 種苗会社などの育種・育成者権者が、農業者に対して、権利侵害として、濫訴しないよう担保するため、権利侵害の立証は現物主義を原則とし、特性表を用いて権利侵害を立証する場合でも、農業者を訴える場合は、農家・農民団体の推薦者と、農業に関わる遺伝資源と分類に関わる生物学者も加えた、農水大臣諮問の第三者機関などを設置し、農業者に対する権利侵害で種苗会社や育種・育成者権者が訴える前に、機関に事前通知し、育成者権が及ぶ品種か否かを判定する制度を設けること。
以上、4点の項目を含んだ意見書を国へ提出することを求めます。
二 請願理由
我が国は、2018年4月に主要農作物種子法を廃止して、これまでの都道府県がコメ、麦、大豆など、主要農作物の種の生産・普及に責任を持つ体制に終止符を打つとともに、その前年に施行された農業競争力強化支援法により、種子生産に関する知見を民間企業に提供することが、公的な試験機関に対して義務づけられ、種子の開発、生産、普及に関する事業が公的機関から民間企業に移譲される事態になりました。
加えて今国会に上程することが予定されている種苗法の一部改正(案)検討資料(昨年11月に農林水産省が公表)には、植物種苗の新品種開発を促進するため、種子の育成者権保護を目的として、農家の自家採種・増殖を有料の許諾制にすることが検討されています。
これらを合わせて考えると、こうした政策は、公的機関による種子の保全、育成及び供給を困難にし、種子開発生産の民間企業支配と独占に道を開くことになりかねず、農家の経済的負担が増大することや、農家による種苗の自家採種・増殖の権利を奪う可能性もあり、育成者権者からの権利侵害を理由とした訴えなどを懸念して営農意欲をそがれ、後継者不足も重なって、伝統的な日本の農業のさらなる衰退をもたらす恐れがあります。ひいては、食料の安全保障、種の多様性、環境の保全、地域の存続、といった持続可能な経済社会の確立にとって大きなマイナス要因ともなりかねないことが危惧されます。
そもそも、植物遺伝資源である種子は、生きとし生けるものの命の根源であり、種子の安定的な供給は、国民の生存権保障の義務を負う政府の役割です。その役割を、当該義務を負わず、何が国民にとって必須であるかより、何が一番儲かるかを考えて事業を行う民間企業に委ねることは、政府の責任放棄と言っても過言ではありません。
以上の背景を踏まえ、種苗法改定にあたっては以下のことを十分に踏まえた国会審議が求められると考えられます。
まず、請願事項の1を盛り込む背景ですが、自家採種・増殖の「許諾制」は農家に対する新たな料金が発生し、離農に拍車がかかる可能性が大と考えます。農業者が登録品種の収穫物の一部を次期収穫物の生産のために用いる自家増殖は原則認められてきました(近年は農家の自家増殖を認めない品種も増えている)。イチゴやサトウキビ、果樹、米、麦、豆、根菜類、野菜、きのこなど、農家は種苗を購入しながらも、自家増殖で営農を続けています。これが、許諾制になれば、農家に煩雑な許諾契約の手続きと、新たな許諾料が発生する可能性があり、農家の種苗入手・増殖のための金額が増大し、営農に重大な悪影響を及ぼすことになります。農水省は、「団体による許諾などの事務負担の軽減」をする、と説明しますが、種苗の増殖と栽培に関わる団体(農協など)は一元管理ではありません。
次に、請願事項2の理由ですが、公共品種はもともと、税金と農家に代々伝わる種苗育成の知見によって保持されてきたものです。公共品種の採種、増殖の権利を農業者に保障することは、種子法廃止や農業競争力強化支援法などによる民間企業の種子支配・寡占化の弊害から、中小・零細農家を守り、種の多様性や地域の気候・風土に合った作物を保全することにつながります。埼玉県議会では、県議会議員の先生方の手によって全会一致で種子法廃止にかわる条例が出来た、と承知しています。その埼玉県議会だからこそ、公共品種の権利維持の重要性をご理解いただけるものと考えています。
さらに、請願事項の3を組み込んだ理由として、新品種登録への促進は農家に伝わる在来種の権利が次々と奪われていく可能性が高いためです。品種登録のための出願料及び登録料の水準を引き下げるとして、新たな品種登録品目を増やそうとする意図が分かります。しかし、在来種には何万種もあり、これを新品種とどう区別できるのか、大手グローバル種子企業などが在来種から品種改良・固定化した登録出願品種と一般品種(登録切れの種や在来種や伝統種など)の区別が果たして、農水省の人的・知的蓄積材料の下(データもわずかしかない)で、判断できるか、はなはだ疑問です。農水省は在来種の把握もできていません。出願登録される新品種の特性が、農家の自家増殖する一般品種とどのように違うのか、種苗会社・新品種として出願する育成者権者の権益を増大させる方向に傾かないか、果たして公平に審査されるか、懸念されます。また、種苗企業などによって、在来種・伝統種が品種改良され、次々と新品種として登録されていく可能性も高まり、農民の種の権利が次々と奪われていくことにつながらないか、強く懸念されます。
そして、請願事項4の補足説明ですが、仮に今回の改定で、登録品種の権利侵害の立証を行いやすくなれば、種苗企業により農家が次々と訴えられる可能性が高まります。登録された新品種の育種・育成者権者の権利侵害の立証を行いやすくするためとして品種の「特性表」を使う、とあり、さらに経年変質で生じたその「特性表の補正を請求できる制度も措置する」とあります。育成者権の権利範囲の判定には、品種登録時の植物体自体との比較を要する(現物主義)と解する判決が出ています(H27/6/24知財高裁)。育成者権の存続期間にわたり、植物体を変質させずに保管することは難しいから、「特性表」を使って、登録品種の育成者権の侵害を審査することは、登録された品種とは全く別に、一般品種(登録切れの品種・在来種・伝統種など)を栽培・採種・増殖していたにも関わらず、育成品種が変質することにより、特性表と同一と判定される可能性が生まれ、「登録品種の育成者権を侵害している」、と判定される可能性が高くなります。
種苗企業などの登録品種の育成者権または専有利用権を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(法人の場合は3億円)に処され、または併科されます。最終的に登録品種と被疑侵害品種の同一性が判定されなくとも、大企業から「登録品種の育成者権を侵害しているので提訴する」、と警告されるだけで、農家は従来の種子を使った栽培ができなくなります。
最後になりますが、そもそも種苗法改定そのものも根拠が薄弱な可能性があることを指摘させていただきます。種苗法改定の理由としている海外流出の防止ですが、農家の自家採種・増殖を制限しても、種苗法は国内法のため流出の防止には役に立ちません。そもそも、現行法でも登録品種を増殖して、第三者への譲渡は禁止されています。例えば、宮崎県は現行法でも種苗利益の侵害で、刑事告訴しました。このように、現行の種苗法の元でも日本で刑事告訴できます。海外で、育成者権者の知的財産権を行使するためには、外国のその国の法令にのっとって、育成者の権利を担保するしかありません。違法に海外に持ち出そうとする行為を防止するためとして、農家の自家増殖の権利を許諾制にして制限しても、域外流出を止めるための有効な対策とはなりません。
一方、改定のデメリットが多く懸念されます。つまり、農家から採種・増殖の権利を奪うことは、営農のための技術も文化も失われ、種の多様性も消失させます。種は、自然界で交雑します。風でも水流でも、鳥も動物も虫も、種や花粉を運びます。種の起源は同じでも、時を経れば、種の形質・特性は変化していき、土地や農家が変われば、多種多様に分岐します。このように、命あるものは環境に合わせて自己を変化させていくものであって工業製品のように規格を維持できません。そのため特許法にもなじみません。
隣家の農地で登録品種を栽培していれば、自分の農地で一般品種(登録切れの品種や在来種、伝統種など)を栽培し採種し増殖していても、登録品種を栽培している農地から種や花粉が運ばれ、自分の畑に自然に自生し始め、品種も交雑します。そうなれば、種苗企業・登録品種の育成者権者から、「違法に栽培している、採種・増殖している」として、訴えられる可能性が高まります。こうして、農家から、自家採種・増殖の権利を次々と奪っていくことにつながっていき、農家に代々引き継がれてきた、在来種の多様性も失なわれていくことにつながります。
ちなみにFAO(国連食糧農業機関)の「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」(ITPGR)(日本も締結)で示された、締約国政府は「農民の種子の権利を保護する責任がある」とし、農業者の自家採種の権利を保障しています。
今回の種苗法改定は、こうした国際条約の趣旨にもとる案件となっています。
農家から、種採りや増殖のための伝承技術や文化を奪うことは、自然界とのかかわりの中で、農家に代々営まれてきた農の生業の全体像を受け継ぐ人がいなくなり、農業のための植物遺伝資源の多様性も失われることにつながり、日本の農業にとって、多大な損失を招くことにつながる危険性が高いです。
私たち「子どもたちのために食の安全を考える会・埼玉」は安心安全な食材を提供する農家が豊かに営農できるよう求めます。今回の種苗法改定に対しては、農家をますます疲弊させ、営農が続けられなくなるような事態を招かないか、日本の農業文化・伝承技術も、農民の種の権利が大企業によって独占され、種の多様性も失うことにつながらないか、強く懸念するものであり、これらの思いが本請願を提出する動機の根本をなしており、これらの思いを埼玉県議会議員の皆様にもご共有・ご同意いただき、国へ意見としてあげることを求めます。
令和2年2月20日
請願者
埼玉県さいたま市南区南浦和1-27-11-107
「子どもたちのために食の安全を考える会・埼玉」
埼玉県議会議長 神尾高善様
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