スマート農業水田作の労働時間短縮を実証 農水省2020年11月2日
農水省は10月30日、スマート農業実証プロジェクトによる水田作(大規模、中山間、輸出)の実証成果を中間報告として公表。ロボットトラクタや自動水管理システム、農薬散布ドローンなどのスマート技術の導入により、1.5割程度の労働時間が短縮され、スマート農業の有効性が示された。
農水省農林水産技術会議事務局の島村知享研究推進課長(左)と梅本雅農研機構理事
農林水産省が2019年度からスタートした「スマート農業実証プロジェクト」は、日本の農業が抱える人手不足や高齢化などの課題解決に向け、ロボットやAI、IoTなど先端技術を生産現場に導入。2年間の技術実証を行う中で、これらの技術導入による経営効果を明らかにし、その効果を広く情報発信することで、スマート農業の社会実装を加速させることを目的としている。
現在、全国148地区(令和現年度69地区、令和2年度55地区、令和2年度補正地区24地区を採択)で実証を開始しており、今回は令和元年度採択の水田作における3類型(大規模、中山間、輸出)事例の1年間の実証成果をまとめ公表した。
令和元年度で最も多い30地区で採択した水田作のスマート農業技術では、生産工程に応じてロボットトラクタ、直進キープ田植機、自動水管理システム、食味・収量コンバインなど様々な技術を組み合わせて導入。慣行区と比較できる大規模平場、中山間、超低コスト輸出のそれぞれで、労働時間と収支について検証を実施した。
労働時間13%短縮
その結果、大規模平場での慣行農法との比較では、10a当たり13%の労働時間を短縮。スマート農業技術を導入した作業で比較した場合では19%の労働時間が短縮された。
ドローンによる農薬散布は、セット動噴による作業代替により作業時間を89%短縮した。耕起・代かきの作業時間の削除効果は、ロボットトラクタの導入が代かき作業後となったため5%に留まったが、ロボットトラクタを利用した秋耕起では32%の省力効果が得られた。
収益面では、慣行農法との比較で10a当たり人件費が13%減少。実証区は条件が良いほ場を選び、施肥設計を見直したため、慣行区と比べ10a当たりの収穫量が20kg増加した。このほか、実証区における10a当たりの利益が減少したが、その要因としてスマート農機の能力と比較して実証面積が限られ、機械費が増加したことや、慣行区で中古の農機を多く活用したことを挙げている。
収量60kg増加
中山間では新たに導入したドローンによるセンシングの労働時間が追加された中、全体の労働時間は10a当たり12%短縮。スマート農業技術を導入した作業との比較では11%の労働時間を短縮した。
ロボットトラクタでは、操作に慣れることで経験の浅い従業員も速度を落とさず作業することが可能となり、代かきの重複も減少したため、作業時間の短縮効果が大きかった。リモコン式自走草刈機については、傾斜によるエンジン停止がみられたため、作業時間が増加した。
収支では、慣行農法との比較で10a当たり人件費が12%減少。実証区はドローンを用いたセンシングによる生育管理の下で収量は60kg増加した。利益は追加投資を行ったスマート農機の機械費の増加が影響し、慣行区より減少した。
未経験もオペレーターに
輸出水田作では、従来より労働時間が極めて短いことに加え、これまで外部委託していた防除作業を自らがドローンで実施する中で、慣行農法と比べ10a当たり4%の労働時間を短縮。また、スマート農業技術を導入した作業で比較した場合では10%の削減がみられた。
特にロボットトラクタ、直進キープ田植機、汎用収量コンバインなどで、繁忙期の労働時間を効果的に短縮でき、機械作業が未経験の女性をオペレーターとして育成できる。また、ドローン防除はラジコンヘリによる一斉防除の日程が合わない場合や小区画ほ場での利用も可能とした。
人件費は慣行農法との比較で10a当たり4%減少。実証区は輸出向け多収品種を採用したため、慣行区に比べ10a当たり175gの増収となった。
今度の課題 シェアリング
同日開いた記者説明会で、農水省農林水産技術会議事務局の島村知享研究推進課長と梅本雅農研機構理事が同プロジェクトの1年目の成果と現在の取り組み状況を説明。島村研究推進課長は今回の検証結果を受け、「地域の水田作はそれぞれの実情に即した効果的なスマート農業の導入が重要」とした上で、具体的な対応策としてスマート農機の活用時の適正面積を見極めた経営モデルの作成や初期投資の影響を緩和するシェアリングなどの農業支援サービスの創出・活用方策の充実、物流コストの低減や高付加価値化との相乗効果などに取り組む方針を示した。
今後は畑作、露地野菜、施設園芸、果樹などの成果についても取りまとめ次第公表する予定。来春には最終的な実証成果と今後の対応方針を取りまとめるとしている。
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