「出稼ぎ」とは何だったのか 半世紀の東北農民の軌跡 山形・白鷹町で映画化2022年8月12日
「出稼ぎ」――いまでは馴染みの薄い言葉になっているが、1960年代の日本の高度経済成長を底辺で支えたのは、まぎれもなく農村の出稼ぎ農民だった。そのころから日本の社会も農村も大きく変わった。山形県白鷹町の、かつての出稼ぎ農民が、自らの体験をもとに映画『出稼ぎの時代から』を制作した。映画は時代の変化のなかで何が変わり、何が変わらなかったのかを教える。DVDで鑑賞できる。
『出稼ぎの時代から』のDVD
1966年11月、山形県白鷹町の国鉄長井線鮎貝駅から20歳の青年、本木勝利さんが仲間とともに出稼ぎに旅立った。『出稼ぎの時代から』は翌年の冬、本木さんが神奈川県川崎市の宅地開発の劣悪な作業現場で働いていたときの記録である。スライド化して保存していたものが、半世紀余り経て、町の教育委員会の倉庫でみつかり、それをもとに再編し、今年の7月、『出稼ぎの時代から』として映画化された。
作品は、当時の出稼ぎの時代背景、劣悪な作業現場や飯場の生活、村に残された女性たちの生活などを、20余人の関係者の証言で綴る。そして後半は出稼ぎのない農業への取り組みや、その意欲を押しつぶす減反政策、農産物の貿易自由化、農民の高齢化と人手不足の実態を示す。かつて出稼ぎ者を出していた農村が、今では外国の労働者(出稼ぎ)を受け入れるなど、大きく変容する「むら」をとらえる。
花きの生産や牛の飼育、あるいは新規就農者による農業生産法人なども増えており、踊り手を融通しあう「獅子舞の〝結〟」のような伝統芸能復活の動きも出てきた。映画は、むらが少しずつ変わりつつある現在を映し、未来への可能性を示す。
1960年代、出稼ぎは全国で見られたが、急激な商品経済の浸透で、野菜や果樹などの商品作物で収入を得ることができた西日本などの農村と異なり、米の単作地帯だった東北は出稼ぎに出ることが現金収入の近道だった。
経済成長が終わり農民の労働力の必要性が低下するとともに、出稼ぎで失った農業、農村の文化・伝統を改めて見直す動きが出てきた。農村の集落機能が比較的健在な東北の農村にはその基盤がある。歴史的ともいえる大きな変化のなかで、農業・農村のあり方を考えさせられる作品である。
映画の制作は「白鷹町出稼ぎの記録映画製作委員会」。上映時間は79分と付録6分。連絡先・問い合わせは共同監督・大野和興(携帯)090-4175-4967
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(174)食料・農業・農村基本計画(16)食料自給率その他の食料安全保障の確保に関する目標2025年12月27日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(91)ビスグアニジン【防除学習帖】第330回2025年12月27日 -
農薬の正しい使い方(64)生化学的選択性【今さら聞けない営農情報】第330回2025年12月27日 -
世界が認めたイタリア料理【イタリア通信】2025年12月27日 -
【特殊報】キュウリ黒点根腐病 県内で初めて確認 高知県2025年12月26日 -
【特殊報】ウメ、モモ、スモモにモモヒメヨコバイ 県内で初めて確認 高知県2025年12月26日 -
【注意報】トマト黄化葉巻病 冬春トマト栽培地域で多発のおそれ 熊本県2025年12月26日 -
【注意報】イチゴにハダニ類 県内全域で多発のおそれ 熊本県2025年12月26日 -
バイオマス発電使った大型植物工場行き詰まり 株式会社サラが民事再生 膨れるコスト、資金調達に課題2025年12月26日 -
農業予算250億円増 2兆2956億円 構造転換予算は倍増2025年12月26日 -
米政策の温故知新 価格や流通秩序化 確固たる仕組みを JA全中元専務 冨士重夫氏(1)2025年12月26日 -
米政策の温故知新 価格や流通秩序化 確固たる仕組みを JA全中元専務 冨士重夫氏(2)2025年12月26日 -
米卸「鳥取県食」に特別清算命令 競争激化に米価が追い打ち 負債6.5億円2025年12月26日 -
(467)戦略:テロワール化が全てではない...【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月26日 -
【スマート農業の風】(21)スマート農業を家族経営に生かす2025年12月26日 -
JAなめがたしおさい・バイウィルと連携協定を締結 JA三井リース2025年12月26日 -
「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業」採択 高野冷凍・工場の省エネ対策を支援 JA三井リース2025年12月26日 -
日本の農畜水産物を世界へ 投資先の輸出企業を紹介 アグリビジネス投資育成2025年12月26日 -
石垣島で「生産」と「消費」から窒素負荷を見える化 国際農研×農研機構2025年12月26日 -
【幹部人事および関係会社人事】井関農機(1月1日付)2025年12月26日


































