種子法廃止がじわり影響 原種価格高騰、ジーンバンク廃止も 「種を守る会」がミーティング2023年2月9日
日本種子(たね)を守る会(萬代宣雄会長)は、2月4日と5日、全国オンラインミーティングを開き、種子(たね)に関する新たな問題の情報を交換し、今後の取り組み課題を整理した。ミーティングでは種子法廃止後、種子の価格が値上がりしたとの報告があるなど、制定から5年経過し、生産現場ではさまざまな影響が出ていることが明らかになった。また国の種子法に代わるものとして種子条例を制定する県が増えていることから、種を守る会としては、条例制定を積極的に働きかけることなどを確認した。
「種を守る会」のミーティング(東京・池袋で)
2018年の種子法廃止、その後の農業競争力強化支援法ができ、そして種苗法改正で、農家は許諾なしに自家増殖できなくなった。農研機構などの登録品種は原則として今まで通り自家増殖できることになったが、農業競争力強化支援法では、知見を民間に出すことを基本としており、予断を許さない。
東京大学の鈴木宣弘教授は講演で、「そもそも種子法廃止自体が公共的な種子事業を終息させる方針を前提にしたもの。国からの自治体への種子事業の予算は減っていて『ゲノム編集をやるなら金を出す』という形になっている」と指摘する。ミーティングでは、栃木県で水稲の原種価格が3倍になったことや、広島県でジーンバンク事業撤退の動きがあることなどの報告があった。
茨城県では、農研機構のカンショの「紅はるか」で、2年目くらいから干し芋があかね色にならず、黒ずむという原因不明の連作障害が発生したため、生産者は毎年ウイルスフリー苗をJA、種苗会社から購入している。購入苗が増えると苗代が増える。許諾料は種苗会社からの供給価格に上乗せされ、実質農家の負担になっている。
報告したJA常陸の秋山豊組合長は「供給元の農研機構の苗で(連作障害)が治るとはどういうことか。現場の農家は売り値が高いうちは我慢しているが、病気と苗代によるコスト高に悩まされている」と報告した。
また、南西諸島の基幹作物のサトウキビはJAが生産者から苗の注文を取っているが、苗採取用1反歩(10a)が限定で、収穫用の苗の販売は行っておらず、自家増殖が前提の栽培体系になっている。自家増殖が禁止になると、①手間が増え、コスト高になる、②農家の栽培技術が衰退する、③人気の単品種に集中し、病害発生のリスクが大きいと、鹿児島県の種子島でサトウキビを作る山本伸司さんは指摘した。
廃止された種子法では、種子の生産の際には、自治体によるほ場審査・生産物審査が義務付けられている。これがなくなることで種の安全や食の安全性、地域農業の安定に不安が生じることから、種子法と同じような内容の県条例を制定したところが33道県に達する。
2018年、国連の「小農権利宣言」(小農と農村で働く人々に関する国連宣言)でも「種子の権利」として「締約国の責務として種子の権利を尊重、保護、実施し、国内法に於いて認めること。十分な質と量を手頃な価格で小農が利用できるようにすること、小農の種子を守り農業生物多様性を促進すること」とうたっている。ミーティングではこのことを確認し、条例づくりを自治体に働きかけることを申し合わせた。
なおミーティングではこのほか、山口、長崎、香川、大分などの種を守る会が、これまでの取り組みを、また種子法廃止違憲確認訴訟の弁護団が裁判の経過を報告した。実参加を含め、全国で約200人が参加した。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(90)みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(1)2024年4月27日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(8)【防除学習帖】 第247回2024年4月27日
-
土壌診断の基礎知識(17)【今さら聞けない営農情報】第247回2024年4月27日
-
【欧米の農政転換と農民運動】環境重視と自由化の矛盾 イギリス農民の怒りの正体と運動の行方(2)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内で多発のおそれ 熊本県2024年4月26日
-
【注意報】核果類にナシヒメシンクイ 県内全域で多発のおそれ 埼玉県2024年4月26日
-
【注意報】ムギ類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 愛知県2024年4月26日
-
「沖縄県産パインアップルフェア」銀座の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年4月26日
-
「みのりカフェ博多店」24日から「開業3周年記念フェア」開催 JA全農2024年4月26日
-
「菊池水田ごぼう」が収穫最盛期を迎える JA菊池2024年4月26日
-
「JAタウンのうた」MV公開 公式応援大使・根本凪が歌とダンスで産地を応援2024年4月26日
-
中堅職員が新事業を提案 全中教育部「ミライ共創プロジェクト」成果発表2024年4月26日
-
子実用トウモロコシ 生産引き上げ困難 坂本農相2024年4月26日
-
(381)20代6割、30代5割、40/50代4割【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月26日
-
【JA人事】JA北つくば(茨城県)新組合長に川津修氏(4月20日)2024年4月26日
-
野菜ソムリエが選んだ最高金賞「焼き芋」使用 イタリアンジェラートを期間限定で販売2024年4月26日
-
DJI新型農業用ドローンとアップグレード版「SmartFarmアプリ」世界で発売2024年4月26日
-
「もしもFES名古屋2024」名古屋・栄で開催 こくみん共済coop2024年4月26日
-
農水省『全国版畜産クラウド』とデータ連携 ファームノート2024年4月26日