「イモ博士」井上浩さんを偲ぶ わが国のサツマイモ文化史研究の第一人者2023年9月21日
日本におけるサツマイモ文化史研究の第一人者であり、イモに関する「生き字引」だった川越市の井上浩さんが去る7月に92歳で亡くなった。その死を惜しんで、9月13日に同市の「いも膳」で偲ぶ会が催され、関係者らが井上さんの思い出を語り合った。
井上浩さんを偲ぶ会(山田英次さん提供)
井上さんは東京教育大(現筑波大)で農業経済史を学び、浦和高校や松山高校で社会科の教師を務め、地元の物産史を研究。その範囲は埼玉県内の麦や養蚕、柿、川越イモ、入間ゴボウ、サトイモなどの他、織物の川越唐桟の復活や民俗芸能にも及んだ。
井上さんは、1960年代から川越イモの歴史文化の研究を始め、川越市制60周年の時(1982年)には「川越いもの歴史展」を、翌年には「第一回川越いも祭」を企画開催した。さらに84年には、市内の熱心な"いも仲間"を集め、「川越いも友の会」を発足させ、サツマイモ復権運動のさきがけとなった。同時に、『川越いもの歴史』『昭和甘藷百珍』『さつまいもの話』などを次々に世に出した。公民館主催の「さつまいもトータル学」の講師も務めた。この時期にサツマイモ調査団を組織し、鹿児島や中国を訪問し、それぞれの産地を巡り、現地の研究者たちと交流し、情報を集めている。
82年に神山正久さんが開いた「いも膳」のいも懐石料理にもアドバイスをされ、神山さんは井上さんらの意を汲んで自費で民営の「サツマイモ資料館」を敷地内に開設。井上さんが定年退職したあと、16年間館長を務められた。
この資料館にはサツマイモに関する資料や加工品、文献などが集められ、いも煎餅などのいも菓子類が購入でき、ここに来ればサツマイモのことなら何でも分かるというものだった。この種の資料館、博物館は他にはなかったので、全国のサツマイモ産地から関係者が次々に訪れ、情報の交流の場、サツマイモ活動の拠点にもなった。井上さんも全国各地を回り、網の目のようなネットワークを構築している。さつまいものことなら何でも分かる「生き字引」のゆえんだ。

井上さんの研究スタイルは、人に会い、話を聞く。それをノートに記録する。また数多くの文献を集め、原典にさかのぼる。発表される文章は一般の人に分かりやすく、肩ひじの張らないものだった。同時に、井上さんがイモを語る時の柔和な顔とやさしい語り口が多くの人を魅了してきた。
サツマイモ資料館の初代館長で「川越いも友の会」事務局長の山田英次さんによれば、「井上さんのサツマイモに関する代表的な研究は、川越いもの歴史の解明、江戸・東京における焼き芋文化史、紅赤(サツマイモの品種の一つ)の発見と歴史、戦争中の代表的なサツマイモの沖縄百号の変遷史など」だ。
井上さんは日本いも類研究会の会長を長く務められ、いも類振興会が発行した『サツマイモ事典』『焼き芋事典』『干し芋事典』の企画、執筆に携わってきた。晩年には『川越地方のサツマイモ文化史』の執筆を続け、関係者の話では、原稿は九分通り完成しており、一周忌には発刊できるという。
(客員編集委員 先﨑千尋)
重要な記事
最新の記事
-
【畜酪政策価格最終調整】補給金上げ実質12円台か 19日に自民決着2025年12月18日 -
【11月中酪販売乳量】1年2カ月ぶり前年度割れ、頭数減で北海道"減速"2025年12月18日 -
【消費者の目・花ちゃん】ミツバチとともに2025年12月18日 -
一足早く2025年の花産業を振り返る【花づくりの現場から 宇田明】第75回2025年12月18日 -
笹の実、次年子・笹子【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第369回2025年12月18日 -
虹コンのレインボーファーム「農閑期は焼肉ぴゅあに行くっきゃない!」スタンプラリー実施 JA全農2025年12月18日 -
「淡路島産白菜」使用 カレーとシチューメニューをハウス食品と提案 JAグループ兵庫2025年12月18日 -
畜産の新たな社会的価値創出へ 研究開発プラットフォーム設立 農研機構2025年12月18日 -
佐賀の「いちごさん」表参道でスイーツコラボ「いちごさんどう2026」開催2025年12月18日 -
カインズ「第26回グリーン購入大賞」農林水産特別部門で大賞受賞2025年12月18日 -
軟白ねぎ目揃い会開く JA鶴岡2025年12月18日 -
信州りんご×音楽 クリスマス限定カフェイベント開催 銀座NAGANO2025年12月18日 -
IOC「オリーブオイル理化学type A認証」5年連続で取得 J-オイルミルズ2025年12月18日 -
【役員人事】クミアイ化学工業(1月23日付)2025年12月18日 -
油糧酵母ロドトルラ属 全ゲノム解析から実験室下での染色体変異の蓄積を発見 東京農大2025年12月18日 -
約1万軒の生産者から選ばれた「食べチョクアワード2025」発表2025年12月18日 -
兵庫県丹波市と農業連携協定 生産地と消費地の新たな連携創出へ 大阪府泉大津市2025年12月18日 -
乳酸菌飲料容器の再資源化へ 神戸市、関連14社と連携協定 雪印メグミルク2025年12月18日 -
特別支援学校と深める連携 熊谷の物流センターで新鮮野菜や工芸品を販売 パルライン2025年12月18日 -
東京の植物相を明らかに「東京いきもの台帳」植物の標本情報を公表2025年12月18日


































