【どうみる 日銀マイナス金利解除】 問うべきはこの国の「かたち」 田代洋一横浜国大名誉教授2024年3月21日
日本銀行は3月19日の金融政策決定会合で2016年に導入されたマイナス金利政策を終止符を打つとともに17年ぶりに利上げを行うことを決定した。今回の金融政策の見直しは日本経済、そして農業、地方にどんな影響をもたらすのか。田代洋一横浜国大名誉教授は「この国のかたちを問うきっかけにすべき」と提唱する。

「金利のある時代」へ
3月19日の日銀の政策会合でマイナス金利等の解除が決定された。20日朝刊の一面大見出は、「マイナス金利解除」(読売、日本農業新聞)、「日銀、異次元緩和を転換」(朝日)、「金融正常化へ一歩」(日経)だった。読売・日農は「ファクト」を語る点で好ましいが、朝日、日経といくほど「希望的観測」が強まる。しかし小見出しまで含めれば大差はない。今回の決定は時間の問題とされており、とくに強いインパクトはなかった。そのこと自体が、軟着陸を図りたい日銀の思惑通りだといえる。
意図するところが一番わかりやすいのは植田総裁の記者会見だ(読売9面)。それも踏まえつつ今回の決定を紹介すると、①日銀への金融機関の当座預金のうち「政策金利残高」部分のマイナス金利を解除する(0~0.1%程度へ)。②長期金利操作も撤廃する。③日銀がマネーを供給する手段としていた上場投資信託や不動産投資信託の新規買い入れをやめる。④しかし、同じマネー供給の手段としての国債買い入れは月6兆円程度を継続する。
要するに異次元金融緩和のうち①~③は止めるが、④は残す。
異次元金融緩和を振り返る
その意味を理解するには、異次元金融緩和の歴史を振り返る必要がある。バブルが崩壊した1990年代以降の日本経済は、高度成長期のような技術革新・設備投資を軸にしてものづくり経済に励むことをやめ、金融経済化(金ころがし)に励み、稼いだ金を内部留保・海外投資に充ててきた。結果、生産性は高まらず賃金は抑制され、成長率は落ち、果てはデフレ経済化した。
そこに「デフレ退治」を掲げて登場したのが安倍政権だ。「マネー供給を増やせば物価は上昇」、そして「2%インフレが経済成長の国際標準」といった怪しげな「理論」で国債を大増発し、その国債を市場経由で日銀に購入させることでマネー供給を急増させたのが異次元金融緩和=アベノミクスだった。
円が過剰供給されれば金利が下がり、そのことで内外金利差が拡大すれば、円は売られて円安になる。円安になれば輸出大企業は輸出拡大でもうかり、「企業の好景気」で政権は長期安定する。私は、アベノミクスの真の狙いは「円安による輸出拡大」にあったとみている。
マイナス金利政策の登場と退場
他方、設備投資や消費拡大による内需が伸びないなかでは、金融機関は国債の売却で得た資金を日銀に預けるだけで、マネーは市中に供給されず、物価上昇は起こらなかった。そこで第二弾として2016年に追加されたのがマイナス金利政策だった。日銀に預ければ手数料をとることにして、マネーを無理やり市中に向かわせようとした。しかし肝心の実物経済が活性化していなければ依然として資金需要はなく、効果はなかった。とはいえ一定の金利引き下げ効果はもち、都銀は手数料収入を追求したが、地銀は疲弊し、われわれ庶民とくに年金生活者等はゼロ金利に泣いた。
そこにコロナパンデミックからの回復に伴うグローバルインフレが起こり、とくに日本は円安で輸入価格が高騰し、経済は一転してインフレ化した。それに伴い大手企業も2024年春闘では大幅の賃金引き上げを行った。株価も史上最高値になった。その状況ではいくら何でもマイナス金利政策を続けるわけにいかない。そこで日銀は「物価と賃金の好循環」を理由に、異次元金融策のうち特に「異次元」な①~③の部分を止めることにしたという次第である。
そのこと自体は適切だが、解除の理由となると怪しい。物価上昇は、内発的なものではなく「円安→輸入価格高騰」が引き起こした面が強い。賃上げも物価高騰分を差し引いた実質賃金の伸びになっているかはまだ定かでない。日本は2023年にGDPが世界4位に落ちた。ところが1人当たりでは34位だ。この4位と34位の差は労働分配率が異常に低いことにもとづく。今回の賃上げは、ストで勝ち取ったものでもない。
低金利も円安も続く
先の記者会見で、植田総裁は「過去に買った国債や上場投資信託は、異次元金融緩和の遺産として残り続ける」、「すでに大量の国債を保有しており、金融緩和の方向に力が働いている」とした。冷静さの点で黒田前総裁の比ではない。
この指摘のうち特に「国債=異次元緩和の(負の)遺産」は重い。国債累積額は今やGDPの倍で世界ダントツ、利払い費を含む国債費は歳出の1/4を占める。その半分を有する日銀が保有国債を売り出せば、金融引き締めととられるので安易にはできない。
金利を引き上げれば、国債借り換えに伴う政府の利払い費を増大させ、日銀は国債時価の下落に伴う含み益の減少、あるいは含み損の増大をもたらす。そのこと一つをとっても大幅な金利引き上げはありえず、水準としての低金利は続く。
低金利が続けば、欧米等が金利引き下げに動いたとしても内外金利差は大きくは縮まらず、円安傾向も続く。今回の措置でも、その直後に為替レートは1ドル150円に円安化した。より長期的には、日本の経済力の衰え、そして北東アジアの地政学的な危険性の高まりが、円の価値を低めていくことになる。
つまりマイナス金利の解除という今回の措置は、異次元金融緩和の、その余りに「異次元」の分野を取り除くことであっても、それ以上のものではない。しかしそれを契機に、今後の経済政策は、金融政策から財政政策に重点を移し、財政バランスの回復を口実に、防衛費や子育て予算は増やしつつ社会保障費や農林予算を圧縮し、国民負担を強める方向に向かう。
この国のかたちを求めて
つまり日本は、巨大な「負の遺産」をかかえつつ、低金利・円安下での輸出依存構造を続けることになる。しかし輸出競争力は落ちていき、その持続可能性は低い。今回の措置を、そのような「この国のかたち」でよいのかを問うきっかけにすべきだ。
そこには二つの課題がある。一つは「物づくり」の力を回復することである。すなわち技術革新を通じて設備投資を促して生産性を高め、そこでの労働分配率を高める方向である。しかし単純な成長率追求は、地球温暖化、人口減少、ブルーカラー・ホワイトカラー職種ともにオフショア(海外化)で、不可能だ。
二つ目の課題は、国内に根差したものを地域分散的に追求することである。すなわち再生産能力(育児・ケア・介護)を高め、緑豊かな風土という「遺産」を将来に残していくことである。食料・農業・農村の持続性を確保する意義は極めて大きい。
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